(3)
【イェーナの話】
じゃあ、話します。いっとくけど私の話、すぐ終わるからね。
これはね、まだここにくる前、中学の同級生から聞いた、Iちゃんって子の話なんだけど。そのIちゃんが実家の自分の部屋にいたときの話ね。
Iちゃんの部屋はこう、ベッドがあって、その横にテーブルがあって。っていうごくごく普通の、なんてことない部屋らしいんだね? 自分の部屋。
で、そのIちゃんはいつもベッドを背もたれみたいにして座って、その前にテーブルが置いてある感じね? テーブルの下に足を伸ばして座ってたんだって。その時Iちゃんが何してたのかは忘れたんだけど、本読んでたか、多分ケータイいじってたとかそんなところだと思う。まぁ座ってたと。
そのテーブルの上にはマグカップとか、雑誌とか。勉強道具に、あと折りたためるタイプのスタンド型の鏡が置いてあってね。そのとき、その鏡はちょうどIちゃんの目の前に置いてあって。だから、ふと顔をあげたりしたらすぐそこに自分の顔が映るの。だからってべつにそんなこといちいち気にしないでしょ? 鏡みて、そこに自分の顔が映ってるなんてフツウのことだし。
でもね、そのときのIちゃんはその鏡を見て何かを気にしたらしくて。なんか変だなぁと思って。違和感が消えないんだって。
で、ちょっとの間、Iちゃん、その鏡を睨んでたの。
でも結局、自分の顔がアップで映ってるだけで、変わったところなんか何もないわけ。だから気のせいかってIちゃん、鏡から目を逸らしたのね。Iちゃんはもうその違和感を違和感と感じなくなった。でも、あとになって彼女はその違和感に気づくの。
夜に寝ようと思ってベッドに入るでしょ? で、なんとなくIちゃんは昼間のことを思い出して隣の壁を見てみたのね? あ、壁づたいにベッドは置いてあったんだけど。
その壁にね、Iちゃん、家族で撮った写真とか貼ってあったんだって。だけどね、昼に鏡をみたときはそれが映ってなかったんだよ、壁に。
ただ白い壁が自分の顔の後ろで広がってるだけで、実際にあるはずの写真たちがどこにもなくて。だって普段はその壁に確かに貼ってあるんだよ? 今もちゃんとあるし。
で、違和感の正体はこれだ! って、せっかくふとんに入ったのにIちゃんはまた起きて、昼間と同じようにその鏡ごしに壁を見たらしいのね。Iちゃんの顔の後ろには、今度はちゃんとその写真が見えた。Iちゃんはほっとした。
だけど、昼間見たときは確かに白い壁だったっていうのが、やっぱりIちゃんは気になってね。だって、Iちゃんに隠れて写真が見えなくなる、なんてことありえないから。
実はIちゃんの部屋の壁って、白い壁がわからなくなるくらい、家族の写真で埋めつくされてたんだって。
(へぇ~、あんた意外と話し上手ね。)
(わ~、紅子さんに褒められた!)
(ほらぁ、あきちゃんもビビっちゃってるし。)
(なっ、べつにビビってなんかないよ!)
(ま~たそんなウソついて~。あたしのほうに寄ってきたくせにぃ~。)
(はいはい、からかうのはそのくらいにして。でも、家族の写真を壁一面に貼るっていう精神状態はいったいどんなものなんだろうね。)
(……はい! ってなわけで私の番はおわり! 次はあきだよ。っていうか、あきに怖い話なんてできるの~?)
(うるさいよ。……できてもできなくても、どうせ話さなくちゃならないんでしょ?)
(もの分かりのいいこ、あたしは好きよ? じゃああきちゃん、はりきっていってみよー!)
(こういうのは今度から絶対付き合わないからね。)




