僕っ娘
所詮趣味程度です
適当にクズな男子高校生を
じわじわさせます
教室は、
ムンムンと夏の暑さを物語っていた。
一番廊下側。
一番前。
なんて、最悪な席だった。
授業中外をみるなんて、
青春ではないか。
廊下側の僕には一切といっていいほどに
関係がなくなってしまったけど。
「つまらない。」
一口つぶやき、
授業に集中する人も
そうではない人もを
置き去りにして、
外に出る。
なんてのも青春かな。
そんな事をしてみたいものだ。
僕は、青春にこだわるけど、
そんな事したことない。
したくてたまらないけれど、
僕は頭が悪い
運動ができない
顔もよくない
絵もかけない
料理も苦手
なにも、できない
そんな奴だから、
青春はいつでも僕の憧れでしかなかった。
母に推され、
それほどでもない偏差値の高校へ入学し、
それとない日々を送り、
恋もせず、
何も考えず、
何を目指すこともなく、
今日まで僕は日々を送った。
幸せではない。
だが、不幸ではない。
平和とでも言っておこう。
そんな、そんな、
そんな、
日々。
それが僕だった。
全ての授業を終え、
下校を試みて玄関へ向かう。
誰もがそうする。
だが、僕は何故かそれすらめんどくさい
とか思って、教室で本を読む事にした。
いつも一緒に帰る級友は、
今日は生憎休みだった。
それから二時間くらいたったころ、
物語はまだ中盤だった。
だがそこで、母親からメールがきていた。
『これから雨が降る。
傘をもっていないなら、
早く帰ってきなさい。』
雨…?
確かに雨が降っていた。
意識すればするほど、大きな粒だった。
なんでこんな雨が降っている事に
気づかなかったのだろう。
しょうがないなあ…
そう思い、今日は帰ることにした。
大雨だった。
怖いくらいに大きな粒に、
激しくコンクリートを打つ音。
いつかテレビで見た。
雨は走らず歩いた方が、
体が濡れずにすむ。
試してみる…か。
今日はゆっくり帰ることにした。
雨に打たれるのは、
想像より痛かったが、
なんだか、
悲劇のヒロインになれた気がした。
こんな暗い事をしているくせに、
なんだか心は晴れやかだった。
僕ってやつは、変わっているな。
なんて1人で苦笑しながら、
家への道をゆっくり歩いた。
どっ……
「え…?」
何かに…いや人だ。
人にぶつかった。
背の高い人だった。
現状をわかった上、その人に謝った。
「す、すいませ…ん……」
綺麗な人だった。
若い人だ。
髪は長くて真っ黒だった。
肌が白く、
口が赤く、
まるで白雪姫のような…
「ご、ごめんなさい?」
声まで通っていた。
ああ、綺麗だ…。
思わず見惚れて、声がでなかった。
「ははは、さ、ははわっはい、すいません。」
よく見れば、彼女も傘をさしていなかった。
「さよなら。」
にっこり笑って、でも少し困ったような顔で、
僕に背を向け、歩いていった。
ここで傘をもっていれば、
彼女に貸してあげたのにな…。
なんて…笑
でもそこには、少し本気な自分もいた。
家に帰っても彼女のことを
わすれることはできなかった。
本当に綺麗だったな…
そんな事ばかり考えていた。
これを恋というのかな…
次の日。
僕はまた帰り際、本を読んで帰ることにした。
その本のワンシーンだった。
昨日、昨日体験したことが綴られていた。
『大雨に打たれて、帰る。
傘を忘れてしまった。
昨日までの僕なら、流衣と傘を半分にしただろう….
痛いはずの雨は、なんにも痛くなかった。
』
なにこれ…
僕の事と同じ…
心境は違ったが、
同じ体験だ。
次のシーンにも驚かされた。
『どんっ…
人にぶつかった。
痛かった。
雨よりひどく、痛かった。
でもいまの僕に、
謝る余地などない。』
怖かった。
昨日の僕はこの本のこのシーン通り動いていたのか?
偶然か?
いや…
そんな事を思いつつ、
やっぱり偶然という
説に繋がり、
玄関を出た。
少し謝る余地がないという言葉が、不思議に感じたけど…
あ、雨…。
だが、その雨は昨日とは違う雨だった。
儚くて、
ポツンと音がする雨。
今日は傘をもっていなくてラッキーと
思えた。
なんだか気持ちがよかった。
シャワーのようで、
この雨を浴びれば、
僕もそのまま雨になれそうなんて
思えた。
どっ…
また人にぶつかった。
昨日と同じだ。
もしかして、昨日と同じ人…?
バッと振り返ると、そこには
昨日の白雪姫のような女性が傘をさして、
こちらを振り返っていた。
「ごめんなさい…」
ぺこっとお辞儀をすると、
彼女は、涙を流して
笑った。
その瞬間だった。
辺り一面の雫が色取り取りで、
そこに咲いている花が雫に映ったような、
なんともいえぬ神秘に包まれる。
彼女の表情や、姿が、
恐ろしく美しく、
それと同時に、太陽が少し顔をだし、
僕の目に映るものが全て
キラキラと輝いた。
僕はそんな現状うけとめられなかった。
なんだこれは
これは、なに?
変だ。
明らかに今日起こることは変だ。
夢か?
いや…
少なくともこれは、
僕の夢ではない。
僕はこんな綺麗な夢はみない。
光景が綺麗すぎる。
ハッとすると、
そこは雨もなく、
彼女もいない、
普通の通学路だった。
「…………。」
僕の体は不思議に濡れていなかった。
僕は今明らかに、
普通ではなくなっていた。
少し急いで家へ掛けた。
勢いよく部屋のとびらをあけ、
バンッと、大きな音がなり、
とびらが、しまる。
とりあえず座ろう。
なんでだ。
何があったんだ。
昨日からの二日間。
なにがあったんだ?
まず、昨日。
雨の中、綺麗で背の高い女性にぶつかった。
そして今日、昨日の本の続きを読むと、
昨日の出来事と同じことが描かれていて、
通学路を通ると、雨。
綺麗名雨だった。
なんていうか、一粒が儚くて色が映って、
とでもいうだろうか。
幻想的で、
そこに昨日の女性が、傘をさしてまた
僕とぶつかった。
泣いていた。
そして、僕に微笑む。
そんな事…漫画やドラマ意外あるか?
知りもしない人に、
涙をみせ、謝りもせず、
ただ、笑った。
異様に綺麗なその人が、
僕なんかに媚びうらないだろう。
偶然…か?
人間違いとか…
いや、でもそんな意味深な行為、
誰にするっていうんだ…
それに、本…
ハッと思い、本の続きをめくる。
『雨はさっきより晴れただろうか、
辺りは僕を歓迎するように、
綺麗な綺麗な景色になる。
涙が止まらない。
さっきまでの雨なら、僕の涙に気づく者はいないだろう。
でもこれではだめだ。
僕は、コンビニで傘を入手し、傘をさした。
傘で顔を隠そう。』
なんだよこれ…
今日の景色と同じだ…。
人にぶつかるとは書いていない。
なんだよこれ…
僕は傘をさしていない。
つまり、これは僕の事ではない。
それにこの話は、
失恋だ。
失恋の話だ。
僕には関係ない。
……………
??
でも…
これは…
彼女によく似ている。
この物語の主人公は、女性だ。
一人称が僕で、
確か名前は、あゆ…あゆり…
立花 歩由梨。
きっと、この物語は、
彼女の物語で、
僕はきっとそれに、偶然入り込んでしまっただけの、邪魔者だ。
僕の帰り道。
それは、この物語。
つまり、僕は彼女の夢の中に
入り込んだのだ。
理屈はわからない。
不思議だ。
でも一つわかる。
僕と彼女が出会うには、
雨が必要って事。
そして彼女にとってその雨は、
迷惑であり、ありがたくもあるが、
彼女の心を濁らせる。
でも、僕にとってその雨は、
時雨だ。
雨が降っても、いい気持ちがするなんて、
時雨ではないか。
ちょうどいい。
退屈だった。
こんな事があるなんて、
青春ではないか。
僕は明日も彼女に会えることを、
充分に期待した。
今日がやってきた。
天気は曇り。
辺りがぼやけて
薄暗い色をしていた。
胸が弾む。
今日は席替えだ…。
いままでは席替えが楽しみでしようがなかったけど、
いまの僕は、それ以上に楽しみなことがあり、そんなものどうでもよかった。
担任の花里先生が、
くじ引きの箱をもって、教室にはいる。
教室中が盛り上がる。
僕も隣の級友と喜んだ…
ふりをした。
くじはいつもより、
軽くひいた。
7…
どこだ?
窓側だ。
黒板に貼ってある座席表を
まじまじみる。
僕の席は、窓側の一番後ろ。
「最高…」
思わず呟いた。
隣の席は、クラスで1番可愛い子だった。
さっきはどうでもいいなんていったが、
さすがに喜んだ。
嬉しかった。
キーンコーンカーンコーン
またきた。
帰りの時が…
僕はいつもより遅く教室をでる。
そのため、それまで勉強をした。
そして一時間経った頃。
玄関をでた。
でも雨は降っていない。
曇り空は、
晴れていた。
ちょっとショックだった…
残念だ…と、
校門をでると、そこにはいつものあの女性が傘をさして、立っていた。
サァッと、雨が降り出す。
今まであんなに楽しみだったのに、
何故か興奮を感じない。
「こんにちは。
学校〔ここ〕になにかようがあるんですか?」
勝手に口が開く。
「あなた、最近よく会うわよね?」
質問と全く関係ない質問をされた。
「歩由梨さん…」
「?…僕を知っているの?」
やっぱり…
彼女はあの小説に関係があったのだ。
僕が黙っていると、彼女は口を開いた。
「あなたと話がしたい。」
彼女は僕の手をひっぱり、
僕を何処かへ連れていった。
彼女は僕を何処へつれていくのだ。
彼女と二回目にぶつかった通学路、の
向かって右側の家と空き地、を
右へ越え、ると
大きな博物館がある、
その入り口は、北側で、
その入り口に入れる道路を、まっすぐ西へ進むと、
道が別れる。
畦道の方へ進むと、
家が並ぶが、一本道路への道がある。
そこを進むと、
小さい駅がある。
名前は、椎葉駅。
僕の家からは至って近く、
今は複雑な説明になってしまったが、
僕の家から向かって右へまがり、
さらに、二番目の曲がり道を左へ
そして畦道がある。どんどん進んで
二回目の道路への道を進むと椎葉駅。
徒歩10分程度だ。
僕は椎葉駅に連れてこられた。
あれから15分位あるいた。
学校からなら僕はもっと近い行き方を知っている。
いや、ここに住んでいれば大体みんなわかるだろう。
てことは、彼女はここに住んでいる人ではないのだな…。
「僕は、全てをこわしたい。
自由に、あれ通りに進まない。
ために、毎日貴方にここで会いたい。」
彼女が急に話をはじめた。
「は、はあ…」
「やり方は一つ、いつも通り誰もいない玄関から、走らずゆっくり歩いて、
この駅まできて。
雨が降るから、濡れたくないのなら、傘を持参。
どうしても雨が降らない時は、僕にも都合があるの。無理。
貴方が無理な時は、ひと気のある玄関から、
走って家へ帰るのよ。
いい?」
な、ながい…
でも、これは僕の推理通りだ。
不思議に驚くことはなかった。
これから、彼女には色々聞こう。
「はい。」
「僕は言葉が少し苦手。
気を使ってね。」
彼女はにっこりと笑った。
「ばいばい。」
僕は彼女に大きく手を振り、
走って帰った。