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プロジェクト7

日本で初めてのゴリラ通信士となった人物は、あのお金持ちの老主人が言っていた長男息子夫婦の奥さんにあたる檀上久美子さんという女性だった。年齢もまだ22歳と抜群に若い。彼女は、ゴリラとの会話を完璧にこなすという驚異的なコミュニケーション能力を持ち、なにより動物思いのやさしい気持ちと獣医の知識を備えた才媛だった。


「おめでとうございます! 檀上さん」章宏が社団法人ゴリラ通信士資格認定協会の代表として、初めてゴリラ通信士の資格証を授与した。

「ありがとうございます!これから精いっぱい頑張ります。あと、私の夫も今頑張ってるんで、応援してくださいね」

「ああ、楽しみに待ってるよ」



その言葉どおり、久美子さんの夫である雅彦さんも続けてゴリラ通信士に合格した。

尾道市内にある彼女らが親と一緒に住んでいる二世帯住宅の庭には、すでに特別なゴリラ用の屋根付き檻が設置されており、地域住民の間で話題の”ゴリラの住む豪邸”として、地方局のテレビでも紹介された。


通信用ゴリラとして指導委託した2頭のゴリラである圭太と良太は、委託された当時はどちらも5歳と幼かったため、実際にはあと10年位かけないと立派な通信ゴリラになれなかったが、檀上夫妻はとても大切に育て、指導を行ってくれたため、10歳となった段階ですでにとなりの10m先の駄菓子屋さんまで行って、お買い物ができるまでに成長していた。


どちらかというと、良太のほうが方向感覚がよくて優秀であったが、かなりの大食漢で食費もすごかったらしい。しかし、それにも久美子さんがめげずに育てていった。ようやく良太は15歳になってからゴリラ通信デビューを果たしたが圭太の方はまだまだだった。


・・というのも、圭太のほうは彼女ら夫婦の間で生まれた一人娘、芙美子ちゃんという女の子と一緒に遊ぶ方が好きだったからだ。


「こら、芙美子! 圭太の訓練時間くらい離れてなさいよ! もう宿題は済ませたの?」

「私、圭太と遊びたいのぉ。いいでしょ、あとちょっとだけ!」

「もう… じゃあ、あなたが責任持って圭太を指導しなさい!できるの?」

「できるー!! 私が圭太を立派なゴリラにするんだもんっ!!!」


久美子は娘のその言葉に困って、章宏のもとに相談しにいった。章宏はそのとき、亡き林所長の後を継ぎ、広島ゴリラ研究所とゴリラ通信社を合併させ、外部から資金援助を受けて設立した財団法人ゴリラ動物園の園長を務めていた。その動物園は檀上財閥トップである雅彦さんの父からの誘致を受けて実現したものであるため、それに伴い、章宏たちも尾道のほうに引っ越しをしていた。


「娘さんが圭太を離してくれないと…」

「そうなんです! でも、あの子も私が良太ばかりに手をかけてしまったから、さびしかったのでしょうね。私にかまってほしいから、圭太のそばにいたいんだとは思うんですが…」

「…檀上さん。それは悩む話ではありませんよ?」

「えっ?」

「あなたもゴリラ通信士なら良く分かっていると思います。ゴリラは躾で育てるんじゃない。愛情で育てるんだとね」

「はぁ…」

「芙美子ちゃんに任せてみたらどうですか? パパも亡くなってるから、寂しい思いをしてるんですよ。また今度、私もそちらの様子を伺いにいきますが」

「よろしくお願いします」

「圭太、まだ若いんだから大丈夫ですよ。今15歳でしょ? この前死んでしまった銀太も結局20歳になるまではゴリラ通信に向いてなかったんです。あせらなくても大丈夫ですよ。これからですから」



章宏とリリィはその久美子さんの話を聞いた数日後に、娘の茜を連れて、圭太と良太のところの様子を見にでかけた。

「噂には聞いていたけど、すごいおうちだねー」リリィは言った。

「ああ、なによりこのあたりでは有数の資産家のうちだからね。俺たちもこれくらいのところに住めたらいいね」

「ねぇ、ママ? これが同じクラスの芙美子ちゃんとこのおうちなの。すごい金持ちなんじゃん」

「そうみたいね。学校では仲よくしてあげてるの?」リリィがそう訊くと、

「なんかねー。不思議な子だよ、彼女」

「そうなんだ」


門のところの呼び鈴を押して、久美子さんを呼んだ。

「ごめんくださーい」

「はーい、ちょっと待っててくださいねー」


出てきたのは、自分の娘と同じくらいの中学生である芙美子だった。


「あれ、お母さんはいる??」章宏がそう彼女に訊くと、

「あ、お母さんは今、手が離せないから代わりに出てきてって言われました」

「そうなんだ。圭太と良太の様子を見に来たんだけど、とりあえず見に行っていいかな?」

「あなた誰ですか?」芙美子が訝しげな表情になると、後ろから茜が登場した。

「あ、芙美子ちゃん! 私、私! 茜だよ。おんなじクラスの」

「茜ちゃん… え? じゃあ、このおじさんが…」

「ゴリラ動物園の園長をやってるんだ。娘といつも仲良くしてもらってるみたいで。どうもありがと」

「あ、あの…」芙美子は急にもじもじした。

「ゴリラ語、教えて欲しいんですけど…」

それを聞いて、章宏はリリィに目配せしながらこう言った。

「いいよ、いくらでも。じゃあ、リリィ。彼女に色々教えてあげてくれないかな?」

「了解っす! 芙美子ちゃん。早速、圭太と良太のところに連れてってよ」



日本で三人目のゴリラ通信士になっていたリリィは、実は久美子さん以上のベテランのゴリラ通信士として活躍していた。現在リリィは、六花というメスゴリラをメインで担当しているが、その六花が新しい子供を孕んでいる関係で、その日は連れてこれなかった。


「ゴリラ通信の心得を教えてあげるわね。ゴリラ通信に必要な3種の神器と言われているものは携帯用GPSシステム、専用のナップザック、そしてエプロンよ」

「なんでエプロンが必要なの?」芙美子は質問した。

「うん。誘拐対策よ。このごろ、ゴリラ通信中に連れ去ろうとする悪い集団『ザ・フレーバー』ていうのがいるからね。このエプロンをつけさせることで、その誘拐は完全に防ぐことが可能になるのよ」

「へえ、すごいエプロンなんですね!」

「元・ゴリ研所長の林さんが考案してくれたの。原理はよく分からないけど、とにかくすごいエプロンなの! あと、このゴリラ語会話のテキストもその所長さんが長年の研究の末にまとめあげた貴重な資料なのよね。今では定価2500円くらいで簡単に入手できるんだけどねー(笑)」

「私、一生懸命勉強して、パパやママ以上のゴリラ通信士になりたいんです」芙美子は真剣なまなざしでリリィを見ていた。

「じゃあ、一緒に頑張ろうね。ゴリラ通信士の資格は20歳以上にならないと受験できないけど、それまでは見習いってことで」



(つづく)

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