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プロジェクト6

章宏とリリィは、早速ゴリラ通信に興味があるというお金持ちの老夫婦に会うことにした。


「どうも、ゴリラ通信社の代表をやっております小金沢です」

「おやまあ、わざわざお越しくださって。まあ、あがってくださいな」

奥さんと思われる年老いたおばあさんが玄関先で二人を出向かえてくれた。

「では」


二人は案内されるままに、邸内に入り、応接間までたどりついた。そこには、温厚そうな年老いた主人がソファで座っていた。


「はじめまして、小金沢と申します。ゴリラ通信に興味があるということで、本日はお邪魔させてもらったのですが…」

おそるおそる挨拶をした章宏だったが、その不安は主人の一言で不安が吹き飛んだ。

「今度、ひ孫ができそうなんじゃ、息子夫婦の子供が結婚しての…」

「はぁ・・」

「それで、この広島にはゴリラが飼育されているって噂を耳にしておっての、興味を持ったんじゃよ。お前さん、ゴリラを使って何か事業をしてるんじゃろ?」

「ええ。はーとふるこみゅにけーしょんの一環として『ゴリラ通信』というものを考えております。内容的には、ただゴリラがお届けものをするというだけのものなんですが、手紙やメールのような無機質な連絡手段ではなく、ゴリラがものを届けるということでとっても優しい気持ちになれるんですよ。

たとえば、今の世の中タクシーやらバス、電車といった交通手段があるのにもかかわらず、人力車のようなものを残している理由ってなんでしょうか。当然、文化を守るためです。ゴリラは、私たち人間が忘れかけている優しさ、人を思いやる気持ち、人を守ろうとする気持ち、そんな大切なものを思い出せてくれる貴重な動物です。そんなゴリラに人と人との思いをつなげる橋渡し役を任せることで、この隣人をも信じられない世の中を変えていくことができるんじゃないかと、僕は信じています」

「若いのに感心じゃな」

「ありがとうございます。しかし、今不足しているのが、ゴリラ通信士なんです。ゴリラ通信士とは、通信用ゴリラに的確な指示を与え、指導できることができる専門職ですが、なかなか合格者が出ていません。特に難しいとされているゴリラ語会話のところで、多くの受験者が挫折をしています」

「わしも昔、ゴリラではなくてマントヒヒを使ってなんとかビジネスにならんか考えていたことがある。しかし、日本が戦争に負けてからは、外国から動物を調達するのが大変厳しくなってきてしまってな。私はあきらめて、宝石商人になったわけじゃが」

「よく、その発想転換ができましたね」

「知人にもよく言われるよ(笑) しかし、わしはそれで一時期人としての心を失った。だから今、連れ添ってきた妻以外、誰もわしのそばにいないんだよ。お金を多く稼げば稼ぐほど、大事なものを失っていった。家族じゃよ」


「家族ですか…」 章宏は出されたお茶を一口飲んで、続けて老人の話を聞いた。


「私は改心したよ。宝石商の仕事は長男にゆずって、わしは妻と死ぬまで暮らせるような今の家をかまえた。昔住んでいた頃の建物から比べたら見劣りするが、まあ二人だしこれくらいが無難じゃろ」

「十分広いですよ。私は、以前3畳の部屋で何年か暮らしていた時代もありましたし」

「そうか。苦労してるな」

「でも今は生きがいが見つかってますしね」

「生きがいは大切だから、その気持ちは大切に温めていかないとな。では、そろそろ本題を話そうと思うが…」


老主人の希望はこうだった。

長男の息子夫婦の元に生まれるひ孫のために、何か特別なプレゼントがしたいんだということで、その息子夫婦にゴリラ通信士の資格を取得させ、2頭のゴリラをひ孫のために準備したいということだった。


「お言葉ですが、お金でゴリラの心を動かすことはできませんよ?」

章宏は、主人の言葉をはねつけた。

「はっはっは! もちろん、わしもお金で解決しようとは思ってないよ。その孫の夫婦は、かつてアフリカで野性の動物を保護するボランティア活動で知り合ったらしくてな。日本に帰ってきてからも、絶滅するゴリラの行く末をひどく心配している二人でもあるんだ」

「はぁ…」

「あいつらならやってくれるよ。日本で初めてのゴリラ通信士、なれるかもしれん」

「ぜひ頑張ってください!とお伝えください。試験会場で待ってますので」

「君みたいな人間が、ゴリラ通信社の社長であって安心したよ。今日はその挨拶のためにお越しいただいた。本来ならわしが出向かなければいけないところじゃが、なにぶん下半身が不自由での…」

「いえ、かまいませんよ。こちらこそ、ご興味を持っていただいて光栄です」



そういって、挨拶を終えた章宏とリリィは老夫婦宅を出て、自宅に向かった。

「すごい豪邸だったよねー」リリィは言った。

「ああ、そうだな。あれで見劣りするっていうんじゃあ、相当なお金持ちだよ」

「でも悪い人ではなさそうだし」

「なにはともあれ、ゴリラ通信士になれる人が早くみつかるといいんだけどね」

「お兄ちゃんは、自分でゴリラ通信士はやらないの?」

「俺? 俺もいずれはゴリラ通信士になるつもりさ」

「私も目指そうかなー、ゴリラ通信士を!」

「案外、女性のほうが向いてるかも知れないんだよね。ゴリラ語覚えるのが大変だからねぇ」

「そうなんだー。じゃあ、私のほうが近いかもね(笑)」

二人はそんな話をしながら、笑い合った。



──老夫婦に会ってから、数か月経ったある日のこと。


研究所に来てみると、二葉の様子がおかしかった。

「所長! 二葉が苦しんでますが、もしかして!!」

「ああ、間違いない。赤ん坊が生まれるぞ」

「あ!あの、あの! 私、何か手伝わなくてもいいんですか?」リリィは今回初めてゴリラの出産に立ち会うので、気が動転していた。

「リリィ、大丈夫だよ。動物たちは自分でちゃんと出産できるからさ」


二葉から生まれてきたのは、ゴリラでは珍しい双子のオスだった。


「おお! 二葉は名前のとおり、2頭も産んでくれたんだね。よくやったぞ!」

所長は大喜びしていた。もちろん、章宏とリリィもその出産を喜んだ。リリィは感動して大泣きしていた。


「早く私たちも赤ちゃん作ろうよ…」リリィが言った。

「そうだな、そろそろ俺たちも頑張るかー」



双子のゴリラには、それぞれ圭太、良太と名づけられた。



(つづく)

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