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最終話

「おばあちゃん、こっちこっち! ほら、あれみてみてー!」

「あらま、かわいいゴリラさんだわねー」

「あのゴリラさんね、久遠ちゃんっていうんだよ! ねえ、帰りに久遠ちゃんのぬいぐるみ買ってくれるー??」

「大切にすれば買ってあげるわよ」

「うん、大切にするもん!」



今日も一日、「わくわくアニマルパーク」にたくさんの人たちがやってきて、子供たちが笑顔で動物と遊んで帰っていった。もうすっかり日が暮れて閉園時間になったので、スタッフは園内の掃除やら、会計処理などの残務業務に追われていた。


園長になった茜が一日の業務を終えた頃、まだ幼い娘の聖美が園長室にやってきた。

「ママ、お仕事終わったぁ? 早くおうちに帰ろうよ!」

「うん。パパが待ってるもんねー」

書類をデスクにしまってから、聖美を連れて外に出た。



綺麗な夕日の明かりが射す景色の中を歩きながら、茜は聖美に話しかけた。


「ねえ。聖美?」

「なに? ママ」

「聖美は、あの動物園は好き??」

「うん。大好き! いっぱいいっぱい動物さんがいるんだもん」

「聖美はどの動物さんが好き?」

「キリンさんでしょ! ラクダさんでしょ! あと、えっとぉー… 久遠ちゃん!! 久遠ちゃんって、とってもかわいいんだもん」

「聖美も久遠ちゃん好きなのね」

「うん!」

「でもね、久遠ちゃんのお母さんゴリラだった奈々もね、昔は一番人気のゴリラさんだったのよ」

「聖美、”奈々”って知らな~い!」

「今度、一緒に見に行ってみようか? ママの知り合いの人がね、絵に描いて残してくれてるから」

「うん、行く!」



--+--



その次の土曜日、茜は家族を連れて、生口島にある知り合いの作品が展示されてある美術館を訪れた。


こじんまりとしたその館に二十数点ほどの絵画が展示されていた。そのなかでも比較的大きめのキャンバスで描かれた『奈々』が目立つところに飾られていた。


「あー、茶色のゴリラさんだー。奈々ちゃんもかわいいね」聖美は、その絵に釘付けになった。

「おばあちゃんが生きてた頃ね、一生懸命育ててくれたゴリラさんなの。おばあちゃんは、ゴリラさんとお話もできたんだから」

「すごーい! 聖美も久遠ちゃんとお話したーい!」

「そうか。懐かしいな、わくわくアニマルパークも、当時はゴリラ通信っていうのが目的で君のご両親が始めたプロジェクトだったんだよね」

そう、茜の結婚相手である春馬が言った。

「そう。当時は本当に色々とあったけど、結局はあきらめて今のアニマルパークだけ残して二人とも亡くなってしまったんだぁ…。だから、私たちがね。私の両親が目指していた、その本当に人間と動物が一緒に共存できる未来を作らなきゃって思うよ」

「もう一度、やってみようか? ゴリラとの対話を」

「そうだね」

「聖美もやりたーい!」


そう思いついた茜たちは、本土に帰ったら早速ゴリラ通信プロジェクトを再開することにした。



--+--



ゴリラ通信士に必要な会話能力を育成するためのテキストがあったことを覚えていた茜は、園内の倉庫にいき在庫が残ってないか探してみた。


「う~ん、ないなぁ。 当時の内容をゴリラ通信士の人に聞くにしても、今やゴリラ通信士なんてゴリラの個体数よりも少ないレアな存在だし、こりゃ大変かも。 あ! そういえば・・」


茜は、以前に友人の芙美子がリリィから色々教わっていたことを思い出し、当時のテキストを持ってないか訊くことにした。


「あ、ふーちゃん? 私、茜だけど。おひさ!」

「茜ちゃん、おひさしぶりです! どうされたんですか?」芙美子は相変わらず当時のままどんくさいしゃべりで電話越しにしゃべった。茜はそのしゃべりかたがまた懐かしくて、嬉しい感じがした。

「あんた、全然変わった感じがしないね! まあいいや。あ、それでさー。ふーちゃん、私のお母さんからゴリラ通信士になるために色々教わっていたじゃない?」

「うん。リリィ先生のことは今でも感謝してるよ」

「申し訳ないんだけど、またゴリラ通信をやってみようと思ってるんだけど、その当時のテキストがなんにも残ってないんだよね、これが」

「持ってるよ。そのテキスト」

「ほんとに?」

「リリィ先生のサイン入りなんです!」

「うちのお母さん、なにやってんだろ(笑) それ借りてもいい?」

「ううん。これ、茜ちゃんのだから」

「え?」茜は芙美子の意外な言葉に驚いた。

「リリィ先生ね、茜ちゃんに将来引き継いでもらいたかったみたいなの。リリィ先生って、教えに来るたびに『茜は茜は…』って口にしてたんです。いつか、茜ちゃんにもゴリラさんと対話して、人として生きるのに大切なことを感じてほしいって言ってました!」

「・・そ、そうなんだ。じゃあ、今度取りに行くからさ。私の好きなカルピスウォーターでも準備して待っててよ」

「郵送でもいいけど・・」芙美子がそういうと、

「あんたに頼んだら、もしかしたらボトルメールにされて、貴重なテキストがどっかにいっちゃうかもしれないじゃない!」と、茜は答えた。

「ひ、ひどいですぅー。そんなことしないですよー><、」

「うそだってばー! ふーちゃん、すぐ本気にするから楽しいよね。まあ、たまには顔見たいじゃない? だからそっちに遊びに行きたいの。いいでしょ?」

「はい! 茜ちゃんが来るの、楽しみに待ってるね」


こうしてまたゴリラ通信の歴史が、新しい想いを乗せてゆっくりと動き始めた。



(終わり)

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