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プロジェクト19

「ただね」吉永さんは話を続けた。


「冷酷な性格になってしまった久美子さんを堰き止めていた存在がいた。それが、娘の芙美子さん。娘の名前から分かる通り、久美子さんは自分の名前とそして引き取ってくれた林さんの下の名前”文彦”から音を取って命名してるじゃない?」

「それってそんな意味だったのか」

「私にはもう家族と呼べる存在がいないから分からないけど、それでも久美子さんにとって実の娘だけは愛してやまない存在だったのがうかがえる。だから、芙美子ちゃんがずっとそばにいたゴリラの圭太にさえも嫉妬をしたんじゃないかしら?」

「その久美子さんは、やはり重い罪に問われてしまうのかな?」章宏は吉永さんに訊いた。

「あら?話がここまで届いてない?? ・・・残念だけど、久美子さんは拘置所の中で自ら隠し持っていた劇薬を飲んで自殺してしまったのよ。今朝のニュースで報道やっていたけど。だから、私も今日でお役御免って感じ。最悪な結果になってしまって、心が痛いんだけどね…」

「・・そうですか。ここまで、一緒にアニマルパークを支えてきてくれた存在だっただけにとても残念です」

「最後にもう一つ。園長室にこんな手紙が残っていたわよ。リリィさんが見つけたようだけど、章宏さんに見せてきてほしいって言われたのでここまで持ってきたの」


一通の手紙は、久美子さんが自身で書いたと思われる遺書めいたメッセージだった。内容的には、自分は愛するものを全て失い、生きていく意味をなくしてしまったから、せめてこの動物園を自分の生きた証にしたいので、檀上家から引き継いだ遺産をすべて「わくわくアニマルパーク」へ寄付しますとのことが記載されていた。



「最期には彼女、自暴自棄になってしまったけど”心”は失ってなかったんですね…」


章宏はその手紙を読んで、大粒の涙を流した。



--+--



章宏が入院している最中に、「わくわくアニマルパーク」には奇跡が舞い降りていた。



園長代行のリリィが奈々と会話をしていると、そろそろ産まれそうだという奈々からのサインが届いたようだった。


「茜! 奈々が陣痛を感じてるみたい。医療チーム連れてきてサポートしてあげて!!」

「分かった」


奈々を特別な分娩室に誘導してから、一時間後。なんと、6頭もの赤ちゃんが一度に産まれてきた。しかも、驚くのはそれだけではなかった。


「ねぇ、お母さん?? 最後に出てきた赤ちゃんゴリラ、体毛が…」茜がリリィを呼んで確認してもらった。

「・・!! こんなことってあるのかしら? 健康状態を至急チェックして!」

「特に問題ありません。良好です!」医療チームのレポートでも、赤ちゃんゴリラ全員健康であることが報告された。

「もしかしたら、この子に”神”でも宿ったのかもしれないわね」


「久遠」と名づけられた真っ白な体毛に包まれたメスの赤ちゃんゴリラが日本中に知れ渡り、一大ブームを呼んだ。ゴリラが真っ黒である常識を根底から覆すそのゴリラは多くの学会からも注目を浴び、引き取りたいといってくる研究者も多くやってきたがリリィはそれをことごとくはねつけた。


「だめです! この子たち全員、私たちの家族だからどこにも行かせる気はないんです」

というのがリリィの口癖にもなった。



久遠が産まれて以降、まもなく母親ゴリラの奈々が衰弱してこの世を去ってしまったが、彼女の最期の顔はとても幸せそうに微笑んでいたと、茜たちは思えたらしい。奈々のお葬式が執り行われる中、茜は懐かしい友達が来ていることに気付いた。


「芙美子ちゃん?」


芙美子は本当にひさしぶりに動物園に戻ってきた。


「茜ちゃん、今はここで働いてくれてたんですね。・・ありがと」

「芙美子ちゃんのお母さん。大変なことになっちゃったけど、今はもう気持ちは落ち着いた?」茜は、芙美子のことを気遣った。

「うん。私は大丈夫。両親がいなくなっちゃったのは悲しいけど、今は大好きな人がそばにいるの」

「それはよかったじゃん、芙美子! 幸せになんなさいよ!」

「・・ありがと、茜ちゃん。あ、あのぉ。茜ちゃんは私のことまだ嫌いですか?」

「あのときはホントにごめん! 私もまだガキだったからさ。また、遊びにきてよ、この動物園に。いつでも待ってるから」

「うん、茜ちゃんのこと大好きです!」芙美子は満面の笑みになった。

「おいおい。私はそっちの趣味はないってば!」茜も芙美子と一緒に笑った。



--+--



章宏は退院後、例の開かなかった金庫の扉の向こうが気になっていたので、早速中身を確認してみた。


「これは…」


中に入っていたものは、若かりし頃の林さんと多分妻の初枝さんだと思われる女性が幸せそうに笑っている写真の入ったフォトフレームと、ゴリラの”初枝”のものと思われる頭がい骨が大切に保管されていた。


章宏はそれを見届けたあとに、そっと扉を閉めた。



(つづく)

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