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プロジェクト18

初枝さんが射殺された後、母親ゴリラも狩られ、平然とした顔をしながらゴリラの遺体を運ぶ二人組男性の前に、林さんはただ立ちすくむだけで何もできなかった。動けば確実に殺されるのが目に見えていたからだ。

林さんは、妻を撃たれた怨みと悲しみを抱えながら、母親とはぐれてしまった赤ちゃんゴリラを連れて、ゴリラ保護施設に戻った。


あとから調べてみると、そのハンターグループの一員にいた日本人は、「檀上敦司」という名前であることを林さんは知った。その人こそ、のちに宝石商を引き継いだ檀上グループのトップにいた男だった。



その後、復讐を誓った林さんは日本に帰国。一緒に母親を殺されてしまった赤ちゃんゴリラを日本で育成するという名目で連れ帰ってきた。


林さんは帰国後、地元の大学で助教授として教育施設の中で教員職をする一方で、「初枝」と妻の名前をつけたメスゴリラと共に何年か過ごしてきたのだという。



「でね、小金沢さん。前に私が言いかけていたことがあったと思うんだけど…」


吉永さんが途中で一度話を切った。


「奈々がなんで茶色なのか? でしたっけ??」

「そうよ。この話は、あくまで大庭教授の憶測にすぎないし、本気にしないほうがいいと思うんだけど、可能性としてはありうる話なの。すなわち、今いる動物園のゴリラたちには林さんのDNAが引き継がれてるんじゃないかって…」

「どういうこと?」章宏は、吉永さんの言っている意味が把握できなかった。

「だから、林さんもしかしたら連れてきたメスのゴリラとやっちゃったんじゃないかって… ”やった”ってのは、別に説明しなくても分かるでしょ??」

「そんなバカな?!」

「ゴリラやチンパンジーの染色体の数は48本に対し、人間の染色体数は46本。可能性的にはゴリラの側になんらかの”操作”を行えば、うまく受胎するかもしれない。大庭教授はそう言ってたの」

「そんな非科学的なことがあるわけないと思うけど…」

「うん、あくまでもこれは推論だから。でもね、もし受胎に成功したとしたら、それは人間のDNAを引き継いだ形になるから、代を重ねれば重ねるほどに彼らが人間に近づいてきていると。あの子たちがゴリラとしてのメラニン色素の分泌が足りなくなってきている理由の一つにもなる」

「・・・」章宏は、その推論とはいえ当てはまるくらいの内容に言葉がでなかった。

「もちろん、真相はすでに亡くなった林さんでなければ分からない。なぜ彼が自分の精子を使って、ゴリラを繁殖させようとしたか? その理由は小金沢さんなら分かるでしょ?」

「ああ、なんとなく。人間の”繁殖したい”という意思をゴリラに遺伝させるため。かな?」

「そう。でもね、”初枝”はもともと純粋なゴリラだから、彼と交尾させられることは半ばレイプに近いわけ。だから、遺伝的にあの子たちは人間の男が嫌いな傾向になってるんじゃないかって」


吉永さんのエスカレートしすぎた話を聞くたびに、章宏は信じられない思いと同時に今まで疑問に思ってきたことがうまく説明できているようにも思えてきた。



「林さんの話は、そこまでね。もう一つ、この話のキーポイントとなっていた女性、檀上久美子さん。いや、旧姓・林久美子さんについてなんだけど、聞いてみたい?」

「・・やはり、私もすべてを知っておく必要があるんだろうな」

章宏はそう言って、久美子さんのことについて聞いた。


「ここからは、大庭教授から聞いた話ではなくて私が調べてみた事実も含まれているから。まず、久美子さんの出生について。久美子さんがいた児童養護私設の人に聞いて、彼女の母親という人に会ってみたんです。彼女の母親は若い頃高級キャバクラ嬢だったそうで、そこで檀上敦司と出会った。勢いで誘われて、そのままホテルまで連れ込まれて… で、できた子供が今の久美子さん」

「え?! とすると、久美子さんと雅彦さんは腹違いの兄妹。ってことになるよね?」

「私もそれを聞いてびっくりしたわよ」

「そうと知ってて、彼女は結婚したというわけか?」

「そういうことになるわね。それが檀上家に潜入するための口実だった」

「それで彼女は、檀上家にはなんの怨みがあったんだ??」

「ようするに、久美子さんは父親にも母親にも無様に捨てられたのよ。純粋に10歳までは、その施設でキリストの精神とともにすくすくと育ったんだけど、何にも事情を知らされずに彼女は林さんに引き取られていった。その後、英才教育を受け18歳くらいのときに自分の親について、林さんに全て説明された。それから始まったの。二人の復讐劇が…。


最初の復讐は、久美子さんの旦那となった雅彦さん。事故に見せかけて意図的に轢かれるように仕組まれた殺人劇だったと、今となれば考えられるわよね。しかし、真実は閉ざされてしまったけれど…。そして、、」

「え?ちょっと待って。吉永さんは一体何をどこまで把握されてるんですか?」

「そのことはあとで説明する。そして、次は檀上家の跡取り息子であり、林さんが復讐をしたかった張本人の檀上敦司。彼も病名不明の死因でこの世を去ってるわよね? それで一度に大きな遺産を相続した久美子は、さらに性格が豹変したのよ」

「普段はとても穏やかな女性だったのに…」

「人間なんて、大金を手にしたら何をしでかすか分かりはしないわよ。それで本来の復讐劇は終わるはずだった。でも、ここでもめたのよ。林さんと久美子さんが」

「なぜ?」

「林さん自身は人殺しまでは考えていなかったけど、実際には関係者が2名いなくなっている。林さんは久美子さんに自首するようにすすめたわ。でも、結果はどうだったか…」

「林所長がいなくなったのももしかして?」

「そこまでは分からない。でも、可能性としては有りな感じじゃない? そんな林さんが危険をあらかじめ察して、友人である大庭教授にあの鍵を託した。そして、」


吉永さんは、鍵を一個取り出して見せた。


「それは??」

「あのとき、差せなかった”もう一個”の鍵よ。案の定、久美子さんが座っていた園長机のサイドロッカーに保管されていた」


「で、、」章宏は、吉永さんの話を遮った。

「吉永さんがここまで調べ上げた、本当の目的はなんだ?」

吉永さんは章宏にこう答えた。

「大庭教授から引き継いだのよ。この”物語”に終止符を打つようにね」



(つづく)

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