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プロジェクト17

「きゃああ!!」


リリィの悲痛な叫びが園内に響いた。


撃たれた章宏は、不幸中の幸いで銃弾は急所から外れて一命を取り止めはしたが、完治1ヵ月程度の重体で地元の病院で入院することになった。


一方、ライフル銃を使って圭太を銃殺しようとした久美子は、銃刀法違反および業務上過失傷害罪の容疑で身柄を拘束された。園長が不在となったため、園長をしばらくリリィが代行することになり、ようやくアニマルパーク開園の目処が立った。


圭太のほうは、章宏が倒れたあと数十分後に泡を吹きながら死亡した。司法解剖の結果、多量の麻薬反応が確認されたため、久美子さんにはさらに麻薬取締法違反の疑いがかけられた。


──そんな圭太事件が起きてから、1週間が過ぎた。


「調子はどう?」

章宏が入院している病室に、東京から吉永さんがお見舞いに現れた。

「まあ、なんとか生きてるよ。銃に撃たれるのがこんなに苦しいとは思わなかった」

「そりゃ死ぬ確率のほうが高いんだもの。苦しいのは当たり前!」吉永さんは笑った。

「私もうかうか入院してられないんだけど、なにしろ大量出血のせいで今は体が思うように動かないんだ。リリィと茜たちには負担をかけて申し訳ないと思ってる」

「そのあなたの奥さんに、さっき会ってきたわよ。あと奈々ちゃんにも」

「そうですか。…あんな事件があったから、来園者も減ってしまうかもな」

「それがねー。奈々ちゃんなんだけど…」


なんでも奈々ちゃんが大きなお腹になっており、今にも次の赤ちゃんが産まれそうだって話題があがり、来園者の入場の列が切れないという話だった。


「そうなんですか? 確かに、奈々は今月が臨月だったな」

「さっき見てきたんだけどね。茜さんが言うにはものすごい大きな膨らみ方だって驚いていたのよ」

「えっ?」

「もしかしたら、2頭…いや3頭くらいいるかもって!」

「もしそうだったら、快挙だな。これは楽しみだ!」



-- + --



「あなたは久美子さんのこと、何か疑っていらっしゃいましたよね?」

章宏は、お見舞いに来てくれた吉永さんに久美子さんのことについて何か知っているのかを訊いた。

「疑っていたというより、あの方の人生経歴がすこし気になってちょこちょこ調べていたのよ。ほら、あなたとここで再会したあの日、私が慌てて出ていったことがあったじゃない? その後ね、彼女が幼少期に過ごしたと思われる広島市内の児童養護施設に行ってきたんです」

「児童養護施設?? 彼女は檀上家に嫁ぐまでは身よりがなかったということなんですか?」

「いえ、そうではなかったの。10歳まで久美子さんは、キリスト教系のその施設で過ごしていたんだけど、引き取りたいという人が出てきたみたいで。その人こそ…」

「林所長… だったということだったんですね」

「そう。その林さんも、やはりクリスチャンだった。その修道院の礼拝には欠かさず参拝していたくらいの熱心なクリスチャンだったのよ。彼は、アフリカで最愛の妻を亡くして以来ずっと独身のまま過ごしてきたけど、同じ怨恨を持つ彼女すなわち久美子さんの存在を知り、彼女を引き取ることにしたらしい。運命のいたずらって怖いわね」

「私と過ごしていた時期は、そんな素振りは全くなかったんだけどな… でも、同じ怨恨? それってどういう意味なんだ??」章宏はさらに吉永さんに訊いた。


「檀上家に対する恨みよ。あの家系はね、今では宝石商という表の顔を持っているんだけど、古くは珍しい動物を狩猟してはそれを剥製にして流通させてきた経歴があるようで、明治初期から戦前まではずっとハンティングで得た”それ”で莫大な額の取引を海外の業者とやってきたというわけ」

「それが林所長には気に入らなかったということか…」章宏は、改めて林さんの背景を知り、唖然とした。

「確かに、動物保護の観点からいっても林さんには気に入らなかったと思うんだけど、もっと直接的な恨みが彼にあったの。それは、林さんが20代の若い時代にアフリカにいた頃に遡る。これは大庭教授から、林さんの過去をこっそりと聞いてしまった話なんだけど…」



吉永さんは、林さんの過去についてこう語った。


当時まだ20歳くらいだった林さんはアフリカで絶滅しそうな動物の保護を目的とした研究プロジェクトに参加されていたときの話で、彼ともう一人の日本人女性もそこに参加していたようで、その彼女がのちの林さんの妻となる初枝さんだった。


プロジェクト終了後も、林さんと妻の初枝さんはアフリカに残り、とりわけゴリラたちの個体数の観察と、親とはぐれてしまった赤ちゃんゴリラの保護育成団体の一員として活動を続けていた。


「あ、文彦さん。ほらあそこ見て!」

「え? どこどこ??」


二人が見つめるまなざしの向こうには、母親ゴリラとまだ生まれたての抱っこされている赤ちゃんゴリラが幸せそうな表情でそこにたたずんでいた。


しかし、そんな幸せも束の間、西洋人と日本人らしい人の二人の男性がそのゴリラの至近距離まで近寄ってきた。


「"She" is a good game.」

(こいつはいい獲物だな)

「We'll win fast.」

(早く射止めようぜ)

「All right!」

(分かった)


事態のまずさを感ずいた初枝がいきなり母親ゴリラの前に飛び出した。


「What do you try to do?!」

(何をする気なの?!)

「Get away from there! Or, you're shot!!」

(そこをどけ! でないとお前を撃つぞ!!)


しかし、その場を離れようとしなかった初枝に悲劇が起こった。

西洋人が撃った一発の銃弾が、初枝の急所にぶちこまれてしまったのだ。



(つづく)

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