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プロジェクト16

圭太を別のオリに移す日がやってきた。


「圭太ごめんね。

しばらく、医療管理しなきゃいけないからさびしくなるけど移動してもらうねー」

と、茜は圭太に話しかけた。


最近は少し、圭太は大人しくなっていたので時期としては問題はなかった。

頃合いを見て、男性飼育スタッフ2名で圭太を運ぼうと手をかけようとしたとき、突然、圭太が一人の男性に腹部のあたりを殴りつけてきた!


「うっ・・・」殴られたスタッフがその場で倒れこんでしまった。


「・・だ、だいじょうぶですか! こら圭太!!なにやってるのよ!」

茜がそう話かけると圭太はますます暴れ出してしまい、慌てて、倒れた男性を引き連れて、もう一人のスタッフもオリから逃げ出した。


「やっばい! 早く、園長に報告しないと…」

茜は園長室に内線をかけてみたが、誰も出なかった。

「ええ?! ど、どうしよう。じゃもう、お母さん呼ばなきゃ!」


状況を聞いたリリィが圭太のいるオリのところまで駆けつけてきた。

「茜! 今、圭太はどうしてるの?!」

「あ、さっきから圭太、あの調子でドラミングばかりしてて近づこうにも近づけないの!! スタッフも一人軽傷を負わされたし」と圭太を指差して、状況を報告した。

「これは異常事態ね。とりあえず、今日の開園は一時中止して、圭太の鎮静をすすめるわよ。それにしてもこんなに暴れるだなんて、おかしいとしか…」

「やっぱ、圭太は病気だったのかなぁ…」

「・・・いや。圭太は健康状態は茜も知っての通り、それほど悪くなかったはず。多少、頭の悪い子だったけど、最近はずっと大人しかったでしょ?」

「うんうん」

「誰かが圭太に変な薬を飲ませたりでもしなければ、ゴリラがあんな風に暴れるなんてことはないのよ」

「薬? そういえば…」リリィの言葉を聞いて、茜は何かを思い出した。

「どうかしたの??」

「いや。あれがなんでこんなところにあるんだろうなって思っていたものがあったんで、あとで園長に訊いてみようと思って忘れてたんだけど」

「あんなもの?? なに?」

「エフェドリンっていう漢方薬として使われるアルカロイドの一種なんだけど、それが医療室に在庫で持っていたから」

「それ、(効能的に)まずい薬なの?」

医療知識のないリリィはあまりピンとこなかったので、茜に内容についてそう訊いた。


茜の話によれば、エフェドリンの効能は主に気管支炎に効くとされるもので、主作用では特に悪いものではないが副作用に問題があり、心臓トラブルや高血圧、脳卒中、心筋梗塞を起こす可能性もあるとのことだった。一時期、アメリカではダイエット薬として、ハリウッド女優にも人気の高い商品だったのだという。また、麻薬の一種であるメタンフェタミンやメトカチノンなどの原料にもなるため、現在ではあまり積極的に使用されないものということらしかった。


「話は分かったわ。でも、薬関係の管理は医療チームのリーダでもある園長の許可がないと業者からは買い付けできないはず。誰かが勝手に持ち込んだか… 今、久美子さんはどこにいってるの??」

「それが…。電話つながらなくて」

「どこにいってるのかしら、久美子さん…。うん。事情は把握できたから、お父さんにも連絡しておいたので、お父さん来たら男性何人かでもう一度圭太を取り押さえてみようね。でも、もし最悪の場合は銃殺の可能性も視野に入れておく必要があるから、スタッフルームで保管されてる麻酔銃を準備しておくように伝えておいて」

「えっ?! 圭太、殺しちゃうの?」

「最悪の場合はかわいそうだけど…」リリィは下にうつむきながら言った。

「でも茜。一発では殺さないから…。眠らせてから、その後クスリを注射して永眠してもらうの。茜も獣医師見習いなら知ってるでしょ?」

「それは知ってるけど!! 別に殺さなくても!」茜はちょっと涙目になりながらリリィに訴えた。

「大丈夫。それを決めるのはお父さんだから。ほら、泣かない泣かない」



章宏が環境局に要請し、何人かのヘルパーを連れて、圭太のいるオリまでやってきた。


「圭太は?」 息を切らせながら章宏は圭太の様子を訊いた。

「見ての通りよ。あの暴走はただごとじゃないから」リリィは、今の私たちでは手に負えないといった顔をしながら、そう言った。

「やっぱり一度麻酔銃で眠らせてから捕獲したほうがいいな。まずは事態を収拾させるのが先だ」

章宏はそう言った。

「お父さん、圭太殺さないんでしょ?」茜は章宏に訊いた。

「ああ、殺すわけなんかないよ。ここにいる動物たちはみんな家族だからな」

「良かった…」茜はその言葉を聞いて安心した。


麻酔銃を確実に圭太に撃ち込むために、章宏と環境局スタッフが圭太のいるオリに入り、そっと近づいていった。圭太までの距離があと10mの至近距離に入ったので、そこで麻酔銃を撃とうとした瞬間、実弾が発射されたような銃撃音があたり一面に響いた。


「なにっ?!」


章宏たちが周囲を見回すと、園長である久美子さんがライフル銃を持って立っていた。


「圭太は、私が殺るから! みんな危ないから、そこをどいてて!」

久美子は実弾で圭太を殺す気でいた。

「ちょ、ちょっと! 久美子さん、無理に殺さなくても!!」章宏は叫んで訴えた。

「圭太みたいなバカゴリラの面倒を見るのはもうたくさんなのよっ!! あんなのもう死んじゃえばいいの! 」


久美子さんが銃をかまえて、今度は圭太に銃口が向けられた。


「おい、本気なのか?! やめろ、久美子さん!!」

章宏が叫んだその言葉も彼女の耳に届くことなく、二度目の銃声が鳴り響いた。


「・・や・・め・ろ・って・言った・だ・・ろ・・・。

 圭太は・・・圭・太は・・・俺たちの家族・・なん・だ・か・・ら・・」



圭太をかばった章宏が、代わりに久美子の放った銃弾を受けてしまった。



(つづく)

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