プロジェクト14
買い出しにでかけていた吉永が、大庭教授の研究室に戻ってくると、なにやらお茶が出されていた形跡が残っていた。
「教授、ただいま戻りました~! ・・・あれ? 誰かお客さんが来ていたんですか?」
「ああ。あのときの講義で君のほかにもう一人だろう? その彼だ。小金沢くん。あんまりぱっとはしない感じの」
「ごめんなさい。私、もの覚え悪いから、朧げにしか・・ で、その人がここにどんな用事だったんですか?」
「え? ああ、なんでもゴリラ通信ってのをやりたいからということで、私のところに相談に来ていた。でもなー、無理がありすぎるなー。吉永、お前はどう思う?」
「ちょっと待ってください、そもそもゴリラ通信ってなんですか?? あ、買ってきた画材とかロッカーにしまってきますので」
そう言って、吉永は買ってきた画材、その他接待用のお茶などを所定の場所に整理して入れた。
「ゴリラ通信ですか? それって、ゴリラさんがお届けにきましたー!とかいって、宅急便の配達員をやるってことですか?」
「そんな感じらしい」
「実現できたら、なんかかわいいですね(笑)」
「ゴリラがいくら知能があるといってもなー。あ、でもあの林さんなら、実験体のゴリラに色々やってそうだからなーと思って、一応紹介しておいた」
「確かに、林さんならなんかやってそうですね。最近、元気にしてらっしゃるんですかね?」
「・・・この前、電話したら、もう大学は辞めるんだとか。なんかね、研究に没頭したいからだそうだ。そのための助手とかを探しているらしい」
「じゃあ、丁度いいんじゃないんですか? そのなんでしたっけ。こがね…」
「小金沢くんだ。仲介してやってもいいんだけど、彼は今働いてないらしくてね」
「私と同い年でしたっけ?? 同じ学年だったから」
「いや、そこまでは俺もただ講義担当していただけだったし知らないけど、まあ君と同じくらいの歳だ。もしあれなら、林さんから彼にお金出してもらったらいいと思うんだけどね」
「それはそうなんですけど、いいんですか?」
「なにが?」
「だって、その人って別にゴリラに興味はあるみたいですけど、専門の人ではないんですよね?」
「まあ、そうだけど。林さん、助手には専門知識いらないからって。必要なのは、ゴリラに対する”愛”だけだって」
「あの人、愛について語ったりするんですね」
「君も結構いうねー」
「じゃあ私、アトリエに行ってきます。今度のコンテスト、もう来月に迫ってますからね」
「ああ分かった」
吉永はそういって、作品制作のためにアトリエの方へ行った。
「じゃあ、とりあえず電話だけでもしておこうか。でも、興味持つかな・・?」
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「お父さん、私、ちょっとゴリラたちの様子見てくるね」茜がそういって、定期検診のために久遠たちのところに行った。
「ああ頼むよ、茜」
あれから章宏とリリィの娘であった茜が大学を卒業して、今では動物園の医療部で運営の手伝いをしていた。
「あ、茜は定期検診に行ったの?」リリィが園内の事務室に戻ってきて、章宏に声をかけた。
「今さっきね」
「あの子も頼もしくなったよねー。もう私は通信士は引退でいっかなー。もう若い人たちがいっぱい来てくれてるし」
「ほんと、今までお疲れ様。ゴリラ通信はビジネスにはできなかったけど、でもこうやってゴリラが注目浴びるようになって、たくさんの人が見に来てくれる。俺はそれだけでもう十分かなと思ってるよ」
「そうね、奈々が産んでくれた6頭の赤ちゃんゴリラ、みんなとってもかわいいし。なんだか、とてもヒトに近づいてきているようなそんな錯覚が彼らと話してると感じるわー」
もう25年もゴリラ通信士を続けてきたリリィは感慨深そうにそう言った。
「リリィ、それは錯覚じゃないよ。間違いなく、彼らは”進化”している。・・・人間へとね」
「・・・うん。私もそう思う」
そう言いながら、秋の暮れなずむ夕日に染められた空を見ながら、二人はリリィが入れた紅茶をすすった。
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章宏のもとに訪れてきた吉永さんが再び章宏の前に現れたのは、再会してから約半年経ったあとだった。
「お久しぶり、小金沢さん」
「君はいつかの…」
「吉永です。この前会ってまだ半年ばかりなのにもう顔忘れたの?? もっとも、こんなおばさんの顔覚えてもしょうがないか」
「いや、私も吉永さんと同じくらい年だからそれはないんだけど…。そんなことより、今日はどんな用事ですか?」
「用事がなかったら、動物園に来ちゃ悪かった??」
「そんなつもりで言ったんじゃないんだけどな」いちいち突っ返してくる吉永さんの言葉に章宏はちょっと辟易とした。
「渡したいものがあってね、・・これ。何の鍵か分かる??」
「鍵?」
「この前、大庭教授の遺品を整理していたら出てきたんです。封筒に入っていたんで、不思議だなと思ってて。よくよく調べてみたら、なんか林さんのものらしいってことで…。知らない?この鍵??」
「・・・・」章宏は考え込んだ。何か鍵で開けるようなものがないかを。
「あ! もしかして!!」章宏は、倉庫のほうに片付けられていた鍵のかけられたままの金庫の存在を思い出した。
「ちょっと吉永さん、一緒に倉庫に来てもらえるかな?」
「ええ、いいわよ」
(つづく)




