プロジェクト13
「広島は何年ぶりなんだろう。しばらくこっちに帰ってきてないからなー」
「教授はこちらが故郷なんですか?」
「いや。もっと先の岩国の生まれだよ。岩国はな、白い蛇と錦帯橋で有名な場所だ。おまえは蛇は好きか??」
「蛇はもう触るのも嫌ですってば」
「でも岩国の白蛇はな、”神”の象徴ともいえる日本ではそこしかいない貴重な蛇なんだよ」
「へえ、じゃあちゃんと崇拝しなくちゃですねー」
「そうだよ。この中国・四国近辺には出雲大社もあるし、瀬戸内海もひとつひとつの島にも神々が宿るといわれる神話大国なんだ」
「その話は、ウソなんでしょ?」
「まあ、あながちウソではないが、さっきのは言いすぎたかもしれないな(笑)」
広島にいる林教授のもとに、大庭教授と吉永さんは新しく生まれたというオスゴリラを見にでかけた。
「わざわざ東京から来てもらって済まなかったね」
林教授は、研究所の専用施設にいる新しく生まれたオスゴリラである銀太とその親のメスゴリラである初枝のところに二人を案内した。
「ゴリラの赤ちゃんって、案外ヒトの赤ん坊に似てるんですねー。かわいいです☆」
「吉永。お前も結婚したら、子供産むんだぞ?…ゴリラみたいなのな」大庭教授は、いつものように吉永さんをからかった。
「私がゴリラに似てるとでもいいたいんですか!?」
「まあまあ… どうですか? ゴリラもかわいいものでしょう」林教授も上機嫌でそう言った。
「はい。ところで、この子の父親ゴリラって??」吉永さんは二頭しかいないゴリラにふと疑問を持った。
「あ、ああ、それはね。もともと子供を孕んでいたこのメスの初枝をアフリカからこっちに連れてきたからなんだ。オスゴリラのほうは・・・ 残念ながらヨーロッパ人の狩猟集団に銃殺されてしまった…」
「え?!そうなんですか… それは可哀想ですね…」
「ああ。本当にひどいことをする心ない人たちだよ。ところで、大庭さんたちは今日はこのへんで泊っていくんですか? もしそうなら、このあと食事でも」
「なにをごちそうしてくれるんですか!!」吉永さんは、目を輝かせた。
「誰も林さんは、ごちそうしてくれるなんて言ってないだろ! お前って、ほんと現金なやつだなー」
「いいじゃないですかー! じゃあ、林さん。私だけでもお願いします」
「吉永さんは何を召し上がりたいですか?」
「パフェでお願いしまーす!!」
「吉永は、パフェをご飯にかけて食べたりするのか?」
「しーまーせーんー!」
「お二人は仲がよろしいですね」林教授は、大庭と吉永のやりとりを聞いてそう言った。
「林さん、とんでもないです!! 」
「じゃあお前だけおごってもらえ。俺は悪いからいいよ」
「分かりました。それでは、近くにある老舗の料亭で懐石でもどうですか?」
「わーい! やっぱり、グルメは旅の風情よねー」
「吉永はますます食い気づいてんな」
「ほっといてください!!」
そのあと3人は、広島市街地を走っている路面電車に乗り込んで向かった先の高級料亭に入った。
「すごーい! 私、こんなところ初めてです!!」吉永は単純に高級であることに驚いていた。
「まあ、量は出ないと思いますけど、なかなかですよ」
「おい吉永。林さんにも言われてるな。質より量だって」
「ううぅ…」
「私はそんなつもりで言ったわけでは… 気に障ったのなら申し訳なかった」
「いえ、とんでもないです! ダイエットとは無縁の女なんで!(笑)」
しばらくすると、瀬戸内で採れた新鮮な牡蠣を使った鍋や、その他海産物が貸し切った部屋のほうに運ばれてきた。
「ところで、吉永さんは大庭さんとはどうやって知り合ったんですか?」
「ああ。えっと… うぐっ! あー。あ、ごめんなさい、ちょっと喉詰まらせちゃって…。東京に来られた時にちょっと話したと思うんですけど、この変態の特別講義でね、『こけし』がいっぱいあるから見に来いって。最初、全然行く気なかったんですけど、つい行きます!っていっちゃいまして。行ってみたら、そこは文字どおりのこけしパラダイス。この人、なに作ってんの?!って思っていたんですけど…」
「いや、俺だって昔は絵とかも描いていたんだぞ? まあ、描いてたもん、エロ同人誌だったけど」
「もう、いやらしいですよ! あ、そうそう。ゴリラの話がですねー、もっと聞きたくて。世の中にはいろんな研究分野があるんだなーって」
「大庭さんは、彼女のことが好きですか?」
「はぁ?? 林さん何言ってるんですか。彼女と俺、歳の差20ですよ? 犯罪でしょ。もっとも、もっとダイエットしてもらわないことには恋愛対象にもならない小娘なんですけどね」
「私も、ぜーったい! こんな男に好かれたくないです!!」
「ははは。喧嘩するのも仲のいい証拠だと思いますよ。さっき、ダイエットの話が出たけどアメリカではなんか流行してるダイエット薬が問題視されてるようだけど、ご存知ですか?」
「知ってるわけないだろー、ダイエットに無縁の吉永が!」
「知ってますよぉ! あれでしょ、あのハーブ系のなんかの薬。名前は忘れちゃったけど。友達がそれで病院に運ばれちゃってすごい目に遭ったんです。なんだっけなー。ああ、ど忘れしちゃった」
「まあ、無理してダイエットするより健康的に生きたほうがいいと、私は思いますね」
と、出された日本酒を軽く飲みながら、林教授がそう言った。
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「そういえば、奈々が茶色だったことに今まで疑問に思ったことがなかったな…」
章宏は、園内にいる奈々の様子を見ながら、そんなことを小さく呟いていた。
(つづく)




