プロジェクト11
「最近、ふーちゃんは元気にしてるの?」
リリィは、動物園で一緒に働いている久美子に、生口島に行った芙美子のようすを訊いた。
「ええ。なんかねー、毎日色んな食材を使って、料理を楽しんでいるようよ」
久美子はそう答えた。
「へぇ、あの辺りじゃあなにがおいしいんですかね?」
「そうねぇ… タコとか、柑橘類とか」
「今度、ふーちゃんのところに遊びに行きたいわねー」
「ええ。あんな世間知らずだった芙美子ももう、21歳になったのよ。時が過ぎるのってほんとに早いって最近つくづく感じるわ。・・・ところで、リリィさんとこの茜ちゃん、今どうされてるんですか??」
「ああ、茜? あの子ね、私が知らない間に山口の方の大学の獣医学科に合格してて…。獣医の道を目指したいからって」
「・・・。彼女もゴリラに興味を持ったのかしら?」
「さあ・・ でも、正直うれしかったわー。”大嫌い”って言われてから、そんなに会話することもなくなってしまったからね。あと3年通って、卒業できたらすぐにこの動物園を手伝うって言ってくれたの」
「良かったですね」
「私ももういい歳だし、久美子さんも体力的に限界でしょ?(笑)」
「・・まあ、そうかもしれないですね。獣医が一人でも多くいてくれると本当に助かります」
「茜には、ほんと頑張ってもらいたいわね。ふーちゃんともまた仲直りしてもらいたいし」
「芙美子はもう生口島から出る気ないみたい。昨日、メールで「ピザ食べたい」って来てたから、ちょっと時間かかるかもしれないけどって、例の八海をあっちに行かせてみたの」
「あの子、成長速かったからねー」
リリィは、八番目のメスゴリラである八海の成長ぶりに日々驚かされていた。
「頭いい子ですよね。生まれるたびにどんどん賢くなってくるのが実感ができます」
「ええ。来年もまた、こんな長閑なお正月になるといいよねー」
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「もう一度、話を元に戻すわ。人間は繁殖をしたいと願う動物だとさっき言ったけど、ゴリラは知っての通り、一度出産したメスは次は4~5年経過しないと子供を作ろうとしない」吉永は、ゴリラの出産についてそう語った。
「まあね。だから、ここまでゴリラを増やすのは至難の業だと思っていた。林所長の論文でもそれについて触れられたものが結構残っているからね」
章宏も、林所長が遺した数々の論文と自らの経験からそのことは熟知していた。
「だからおかしいのよ、ここの動物園は。ねえ、いい? ゴリラはわざわざそんな風に出産を好まないのにもやはり理由がなにかあるわけよ。
ひとつ考えられるのが、彼らがなんらかの理由でこの地球上に生まれてきて失敗だったと感じ出して、自ら絶滅の運命を好んで歩んでいるか… でも、それはないと私は思う。だって、人間は繁殖したいと思っているんだもの、”ゴリラが繁殖したいと思わない”と思うほうが不自然だわ」
「吉永さん。たとえば、ゴリラがジャングルの中での位置付けというか、まあ言ってみればジャングルの王者として君臨しているのならば、他のライオンなどの王者的動物と同じように絶対的な個体数は少ないほうが、生態系を考えるならば自然の流れだと思う。もしゴリラやライオンが数十億頭もいたら、それこそこの地球上はパニックになるのは容易に想像できる」
「そのゴリラ以上の知能生物であるヒトが、今では70億人いるのよ? 地球上はパニックしているといえる??」
「・・・考えようによっては、それは本当に地球にとっては異常事態、、、なのかもしれない。人間は増えすぎたかもな」
「そうよ、ゴリラはこの地球上にもともとそんなに繁殖する理由がなかった動物なの。食物連鎖のサイクルでは、頂点のライオンが多くては成立しない。同じアフリカに生息しているゴリラもそう。ただ、ゴリラとライオンの差ってなんだか分かる??」
「”王者”として?」
「そうよ」
「ライオンは、捕食して食べるものが、ヌーやシマウマといったタンパク質を中心とした他の動物なのに対して、ゴリラは他の大型動物を食べる行為をしない。といったところか??」
「ご名答。ゴリラは植物系の繊維質を多く含むものを食べて生活してる。これってどう思う?」
「どう思うって・・・ まあ、なんとなくイメージとは違うよね。私も昔はゴリラがベジタリアンだってことは、ゴリラに関わるまで知らなかった。なんか肉を食べるイメージがあったし」
「ゴリラの食べるものがそうなったのも、結局は”結果”でしか過ぎない。つまり…」
ここで、吉永の携帯電話に着信が入った。
「あ、吉永ですけど。はい、ええ。あ、もう少し経ったらそちらに向かいますので。はい。では、よろしくお願いします。失礼します。 ・・・あ、ごめんなさい、電話来ちゃって。ちょっと約束が他にあってそちらに行かなければならなくなったから、今日のところはお暇するわね。今日、あなたに会えてとても良かったわ」
「はぁ…。また色々と話を聞かせてください」
「また来るわ。では」
そう言って、吉永は慌てて動物園を出て、駅の方に向かって歩いていった。
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── 約30年前。東京某所。
「教授! いつまで、そんなえっちな画像見てるんですか!」
「ああ、吉永くん。ごめんごめん」
「もう!!えっちなのはいけないと思います!! それより早くしないと、林教授の研究発表会に間に合わないですよ!急いでください」
「そんなに慌てなくていいだろう。どうせ付き合いで聞きにいくようなもんだし。私は正直いって生物学なんか興味ないしなー。あえていうなら、女体の神秘にげーじつを感じるけど。えへ」
「えへ、じゃあありません!! このエロおやじ!!!」
大庭教授と助手になって間もない吉永が、東京の某ビルにおいて行われる予定の林教授の研究を聞きにいったときのことである。
(つづく)




