プロジェクト1
199X年。地球は特段に、核の炎に包まれなかった。
その代り、角野卓造に似ているハリセンボンというお笑いタレントが登場した。
──そんな中、ひとり悩む男がいたという。
小金沢章宏、35歳。もちろん独身。
彼は何に悩んでいたのかというと、お金が無くて食糧難にあっているということだった。彼とはどういう関係なのかは知らないが、彼を兄のように慕ってくる娘である黒崎リリィは、今日も彼のすむ3畳1間のアパートを訪ねてきた。
「おにいちゃん、いますかぁ?」
「ああ、黒崎? 入れよ」
「はーいvv」
リリィは生協のスーパーに勤めていて、残りものがあるとこぞってもらってこれる特典があったので、残りものすべて、この冴えない男の小金沢章宏が食べることになっていた。
「おれ、いつまでもお前に頼ってられないよな」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。信じていればいつか必ず…」
「そうだな、いつかかならず…」
「お迎えが来ますから!」リリィは微笑みながら言った。
「お前、何気にいうことがきついのな」
リリィが持ってきた賞味期限2日後の弁当を食べ終わった章宏はあることを考えていた。
「俺さ」
「どうしたの?お兄ちゃん。また、腹痛をもよおしたの?」
「そうじゃない。あれだよ、俺もビジネスをやろうと思っててさ」
「ビジネス? 随分と暇そうだけど…」
「今はニートなんだから仕方ないじゃないか。黒崎は”スキマ産業”って言葉知ってるか?」
「ゴキブリさんとか、ネズミさん、ムカデさん。そんな狭いスキマに棲むような生物みたいな人間の屑が、都会の片隅にある小汚いアパートでひっそりと暮らす様のことですよね!」
「そうそう。俺みたいな…って黒崎のバカっ! つい、ノリツッコミしちゃったじゃないか。そうじゃなくてさ。未だにビジネスになっていないいわゆる”死角”をついて、そこを商売にして大儲けをしようって話さ。この前夜中のテレビでそういう特集をやっていたんだよ」
「お兄ちゃんって、勉強家なんですね!」
「ああ、そうさ。それでね。俺も考えたんだよ。今の世の中、何が足りないかをさ。今、情報化社会だなんていってるけどさ、実際にはIT化が進んでいるところなんてごく一部さ。携帯電話ですら電波が届かないからという理由で使っていない人もいる。そこをつくのさ」
「どうやるんですか?」
「簡単だ。これを見ろよ」
そういって、章宏は一枚の写真を見せた。
「ゴリラ・・・さん?」
「ああ、紛れもなくこいつはゴリラだ。生後約1ヵ月のまだ生まれたばかりだがな、頭脳はそこいらのバカな人間よりも優秀だ」
「そうですよねー。お兄ちゃんみたいなそこいらのバカ人間より、ずっと生存理由があるような気がするもんね」
「そうだ! って、俺がいちいち凹むようなことを言わないでよorz でね。このゴリラを使って、何かビジネスができたらすごいと思わない?」
「はい、すごいと思います」
「だろ? でさ、さっきも言ったけど、IT化により生まれた世の中の弊害、矛盾、軋轢、その他もろもろはもう取り返しのつかないことになってきている。すなわち、いらぬ情報があふれ返ってるんだよ。現代社会っつうもんは」
「いいことだと思いますけど」
「それが仇になって、一般ピーポーが簡単に劇薬を開発できたり、銃を生産することができる。簡易時限爆弾とかを作ることができる。これらの行為は強大な国家権力であっても抑えることができなくなっている。そもそも人類にはなにが必要なのかというと…」
章宏の話が延々と4時間近くにも及んだので、読者のためにすべての内容を割愛することにするが、とにかく彼が言いたいことはハートフルコミュニケーションが全てであるということだった。
「はーとふるこみゅにけーしょん? なんですか、それ??」リリィは訊いてみた。
「要は、心と心のハーモニーが必要だっちゅうこと。そのために、このゴリラの役割が非常に重要になってくるんだよ。ゴリラは、情の深い生き物だ。人間の何倍もの感受性を持っている、と、言われている」
「言われてませんけど・・」
「まあ、話は最後まで聞いてよ。そのゴリラがね。もし、必要な情報を伝達するメッセンジャー役を果たすことができたら、どんなに素晴らしいだろうか??」
「山本高広さん扮する織田裕二のものまねで言えば、ゴリラの出番がキター!!!っていうことなんですね」
「まあ、そういうことだ。手始めに俺様が新しくゴリラを使った通信する全く新しい手法すなわち”ゴリラ通信”を日本で初めて確立し、そのシステムについてコンサルティングを行う専門会社【ゴリラ通信社】を発足しようと思ってるんだよ。どう?すごいビジネスチャンスだと思わないか?」
「なんか、ゴリラ通信社って素敵な名前ですね。世界的な有名通信企業のアイパー通信社みたいですごいと思うよ、おにいちゃん!」
「黒崎? それをいうなら、ロイター通信社だよな」
こうして、”ゴリラ通信”というまったく新しい通信方式が幕を開けることになった。
[つづく]




