伝説
世の中の文献を探れば、いくらでも出てくる単語。
『伝説』
世の人々を惹きつけてやまぬ奇跡の単語。
大概が根拠のないでたらめであることが多い。
だが、僅かに真実も存在し得る。
その真実こそが重い。
『全ての魔を打ち倒す魔剣』
『選ばれし者のみが扱うことのできる奇跡の神具』
この伝説は真実。
『魔王を倒すは運命にえらばれし勇者』
この伝説は伝説というには使い古されすぎた誰も否定しない真実。
当たり前のこと過ぎて誰も伝説などとは呼ばない。
本のページをゆっくりとめくる。
求めるのは自分にとって不利になりうる伝説。
そして有利になりうる情報。
「必要な部下はまとめ役四人が好ましいのか……」
ゼオンは本をめくりながら、相応しい者に必要条件を探ってゆく。
「ん~、一人はティールだな。で、まぁクロアートいっとくか。あとフィアナ。あと一人……誰かめぼしいのいたかなぁ?」
思い浮かばないのか、ゼオンは首をひねって思案する。
伝説の4将軍になぞって闇のティール。水のフィアナ。火のクロアート。あと必要なのは
「大地属性の部下、めぼしいのいたかなぁ」
風属性の魔王の元に集まるのはどうしても風属性の者が多く、反属性である大地属性の者は少ない。
「ん~、勧誘に行くべきかなぁ。伝説の魔将軍でも」
そう言って伸びをする。
本を床に放りだし、ゼオンは書庫を出た。
風が舞う。
大地を切り裂く強い風。
ゼオンが冷めた黒い瞳をたったひとりの存在に向ける。
血にまみれた少女。
蜂蜜色の髪。ずたずたの衣服から淡い色の翼が広がる。
「来るか?」
ゼオンの声に少女はびくりと身を竦ませる。
「いや」
ぽろぽろと涙をこぼしながら少女は散らばる布屑を寄せ集める。
「そうか」
ゼオンはそう返し、少女の動きをじっと見つめる。
「でも、ありがとう」
少女は声をくぐもらせながらもそう告げた。
「さがしものの最中なんでしょう? 邪魔してごめんなさいね」
「かまわん」
少女は赤いうるんだ瞳でそれでも微笑んだ。
「ありがとう。私はサキ。親切に助けてくださって本当にありがとう」
ゼオンはふっと笑った。
そしてにやりと。
「礼を言うのは早い。伝説に聞く『風と大地の属性』を持つ者を捨て置くことなどできぬからな。我が元へ下ってもらうぞ」