花盗人
ゼオンは庭の一角に立ってじっと花を大量に付けた樹を見つめていた。
花は惜しげもなく深紅の花弁を広げ、甘い香りを放っている。
慈しむようにではなく、不審げに花を直視するゼオン。
手を伸ばして、葉の間に隠れた枝の様子を検分したりしている。
「やはり足りない……」
何が足りないのか。
「おかしい。花の数が合わない……、枝は……折られてない」
ブツブツと検分を続けるゼオン。
不満げに深紅の花をつける樹を眺め、息をひとつ吐き出した。
「まぁ、いいか」
しかし、それからも花の咲きが予定より少ないことが多々あった。
数回繰り返され、ゼオンは犯人を突き止めることを決めた。
きっかけは十年に一度花をつける緋色火風樹の花がゼオン本人が見る前に摘み取られていたせいである。
「むぅ。どうしようか?」
「なにをだ?」
背後から声をかけてきたのは黒づくめ(一部金の彩りあり)の少年クロアート。
彼はなにげにゼオンの元に居ついていた。
「いや、盗人がいるみたいだからねぇ。どうやって捕まえようかと思ってね」
「……盗人……。何が盗まれたんだ?」
くるりと赤い花がゼオンの視界の中で回る。
「それはねぇ……」
ゼオンの視線がクロアート少年の手に注がれる。
くるり
赤い花が回る。
くるり
回ったと思うと消えた。
「クロアート。何をしてるんだ?」
聞かれてクロアート少年は不思議そうに手の中で花をくるりと回して消す。
「これか?」
問われてゼオンは無言で頷く。
赤い花が
くるり
回って消える。
静かにゼオンの目が座ってくる。
「ただの……食事である」
沈黙がその周囲を支配した。
風すらもぴたりと止まる。
次の瞬間、
強風が城だけでなく、その土地一帯に吹き荒れた。
「無断で喰うな!!! この花盗人がぁああああああああ!!!」
魔王ゼオン「風の魔王」と呼ばれるゆえんであった。
――――その後――――
「何で赤い花ばっか狙うんだよ」
「食べれるのはこの色の花だけだが?」