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溜息
何をしてるのだろう。
体を清め、衣類を改め、空を仰いだ。
いつココにきたのか、何故家を出たのかがわからなかった。
いつか家を出ようとは思っていたが、まだ時期ではないと思っていたはずなのに。
気がついた場所は、まるで見知らぬ場所。
木々の隙間から射す光。
木の葉を揺する風の音色。
がさ
下草を踏み分ける音に振り返ると一匹の魔物がいた。
俺も動かない。
その魔物も動かない。
どのくらいお互い動かず、黙ったままでいただろうか?
魔物が口をきいた。
「行く場所はおありか?」
少しくぐもっていたが、確かにそう聞こえた。
少し間をあけてから俺は答えることにした。
「いや、ないよ」
魔物は手をゆっくりこすり合わせる。
鉛色の目が数度瞬く。
「では、どうか我らが城へ……我らが王よ」
本当に、俺はこれからどうなって何をしてゆくのだろう。
ただ空を見上げ、溜息をひとつ残し、俺は魔物の先導に従った。