丘の上
故郷を出る時、全てを見下ろせる丘の上で未練がましく振り返った。
病におかされた村はもう誰も生き残れない。
まだ発病していない子供だけが選ばれ、治療師も兼ねた神官に手を引かれていた。
神官たちが持ってきた薬は発病していない・症状の軽い子供のためにだけ使われた。
大人達はあきらめきっていた。
薬の総量が足りぬのならいっそ子供達だけでも助けて欲しい。
それが村の大人達の決めたことだった。
世話をしてくれる神官は10人。
村から出て三日の避難所にたどり着けたのは8人。
神官たちは1ヶ月様子を見ると言った。
感染を恐れてる。
その恐怖感は子供たちにも感染した。
怖かった。
食事も薬も与えられた。
けれど、両親に会いたかった。
何故会えぬのかわかっていない歳下の子に尋ねられるとまごついた。
その子が死ぬと何故、村から出たのかがわからなくなって、帰りたかった。
様子見の1ヶ月が終わった時、神官の数も子供の数も減っていた。
丘の上からはじめて見る町を見下ろした。
「さぁ、今日からこの町があなた方の新しい故郷となるのですよ。あなた方は神に愛されているのですよ」
神官の一人が言った。
あの言葉は忘れられない。
神官がそれを言った瞬間、それまで当たり前に思ってた信仰が音をたてて壊れた気がした。
いま、丘の上。
最後に見た故郷
同じ場所にいる。
そこは一面の草原。
人の生活の痕跡などは何処にも残っていない。
「ザラクビオ。この辺にはいい薬草が生えているんだ。さぁ、摘もうか」
「はい。ケンドリック様」




