オルゴール
優しい音色。
木の上でうたた寝していると聞こえてきた。
なめらかで優しいオルゴールの音色。
「……ケンディ……。ケンドリック。どこだい?」
木の上で不貞寝していた時に聞こえてきた兄のような存在の声。
当時の自分はそれに素直に応えれなかった。
第一、どうせすぐ見つかるのだ。
実際その日も彼はすぐに側に来た。
「探したぞ。ケンドリック」
「ステフ……」
彼ステファン・ビーズは困ったような笑顔で、無造作に頭を撫でてくる。
いつものように。
「ほら、おみやげ」
ステファンが差し出したのは小さな箱。
「……うん」
いつもおみやげを受け取るのは複雑な気分だった。
ステファンはすぐに出かけてしまう。その証なのだから。
――おみやげなんかいらない。 側にいて――
いくらそう思っても、それは言えない。
本当に困らせてしまうだけだから。
「開けてごらん」
ステファンは楽しそうに、開くことを勧める。
ぽろん♪
「コレ、楽器?」
ステファンは笑って首を横に振る。
「オルゴールって言うんだよ。魔力は感じないだろう?」
そう、この小箱からは一切の魔力を感じなかった。
「おる、ごーる?」
「カラクリ細工なんだよ。これはこの音色しか綴らないけどな」
いつのまにか取り上げられ、壊されたオルゴール。
「陛下、コレはいったいなんですの?」
声が聞こえてきた。
フレムか……
「オルゴールって言うカラクリ細工らしいよ」
セイフィルト国王陛下の声が聞こえる。
「兄が作ったものらしい」