映画館の暗闇
「映画が見たい」
サキがぽそりと呟く。
「エイガ?」
「エイガってなぁに? サキちゃん」
いつものティータイム。
目新しい話題にフィアナが嬉しそうに目をきらめかせる。
「ん~、お芝居かな。この間劇場に行って、なおさら見たくなったの。アクションとか恋愛とかSF映画とか」
「あくしゅん? えしゅえふ?」
「アクション、エスエフ。スピード感あふれる格闘映画もいいなぁ」
胸元で手を組みながらうっとりとあらぬ方向を見るサキ。
「この間の劇じゃ、物足りなかったのか? サキだけは見たんだろう?」
「見たから特撮たっぷりの映画が見たくなったんです」
ゼオンの問いにサキは照れたように微笑む。
「特撮?」
「特撮です。変身モノや絶対無理なアクション……、まぁそのへんに関しては素で見れてますけど……」
ちらりとサキはゼオンとクロアートに視線を流す。
「やっぱりドラマ性のあるものが良いわねぇ。ドラマチックなSF! それを映画館で見るのが良いのよねぇ」
「どぉしてエイガカンじゃなきゃダメなのぉ?」
「音や画面ももちろんだけど……素敵な人と映画館の暗闇の中、ドラマッチックな映画を見る。そういうシュチュエーションが憧れなのよねぇ」
「昔恋人と行ったのぉ? サキちゃん彼氏いたんだぁ~」
しばし沈黙。
「いないわよ」
「誰かとエイガカン行ったことはあるんでしょ~?」
「ええ。弟達とね……。ムードも何もなかったわ。子供向けアクションなんて大っ嫌いよー」
「暗けりゃ芝居も見れねぇんじゃねぇのか?」
ゼオンの疑問にサキは軽く指を振って見せる。
「心配ご無用です。暗闇は舞台をよく見えるようにですから」




