飛行機
薄曇り。
天気は悪い。
フィアナは雨の気配を感じてウキウキ。
クロアートはうんざりした表情でどこかに引篭もっていった。
ティールは様々な書類を抱えて、窓の空を眺めてる。
「何してるの?」
私は魔王に声をかける。
テラスに雑多なものを広げて座り込んでる様は到底魔王という立場にいる者には見えない。
「ん~?」
気のない声が魔王から漏れ出す。
私はじっと返事を待つ。
「風が強くなりそうだからね~」
首をかしげる。
風を自在に操る魔王が、自然風を待っているのは不思議なさまだ。
金属と布で作られた鳥の模型。
思い浮かべられたものは……
「飛行模型?」
「そ。自然の風の力だけでどこまでいけるかなと思ってね。気球には今日は風が強いしね」
少し意外だった。
この世界は剣と魔法の世界。
時折妙な科学技術の影が見え隠れしている場所もあるが、数少ない。
機械の力を使わなくても人は魔法で飛べる。
魔法の持つ解決力で機械は発達しない。
「どこまで飛ぶんです?」
「そーだね。城門まで飛べばいい方かな?」
彼は翼部分に細やかな飾りを切り込んでいきながら答える。
「どうして意味のないものを作るの?」
「楽しい、からかな?」
彼はゆっくり私を見、子供っぽい笑顔で、出来上がった模型飛行機を掲げ見せる。
「楽しくない? 作ったものが望むようにできたのなら」
立ち上がり、風の流れを掴むかのように目を閉じる。
「それ!」
手製の模型飛行機はすべるように風に乗り城門へと向かっていく。
「ぉお……。結構イイ感じだなぁ~」
そして城門付近で消失した。
「……」
「…………」
気まずい空気。
彼は沈黙したまま、門の方を睨んでる。
「南門ね」
「ぁあ。あんのくそ馬鹿迷惑ガキがぁああああ!!!」
彼はテラスの手摺を乗り越え、南門を住処にしている問題児の元へと向かう。
私はそれを見送りながら下を見る。
「ここ……地上10階分くらいよねぇ?」