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鏡のむこう
「ケンドリック様、何見てらっしゃるんですか?」
「ん~、鏡だよ~」
「鏡……。自分に見惚れてらっしゃったんですか?」
「いや、ちょっと待て。人をなんだと思ってるんだ」
「自意識過剰な自惚れ屋でしょう?」
「やれやれ。見てるのはこれさ」
「なんです」
映っているのは少女。
翼を広げた巻き毛の少女。
「ザラクビオ?」
見覚えのある少女の姿に言葉が出ない。
少女はふと視線を鏡を見てる者を見るように見返してきた。
まっすぐな視線。
迷いのない澄んだ瞳。
視線がずれ、少女の視線は何か下にあるものに注がれる。
「ザラクビオ?」
広げた翼からやわらかな風が巻き起こっているであろうことが知れる髪の揺れ。
覚えている……。
あれは命を削る癒しの技。
その翼の下に集う者の傷を癒し、安らぎを与える。
無条件で。
「ザラクビオ!」
ぱたん
鏡が倒れる。
同時に映されていたものも消える。
「何を……泣く?」
「ケンドリック様、申し訳ございませんが退室いたします」
私は慌てて部屋を出た。
後で追求を受けることを覚悟しながら。




