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X-doll  作者: 鬼屋敷口談
少年アブダクション
7/19




 惑星メトロンには、大きく分けて八つの区域が存在する。

 この星を構成する機械で埋め尽くされた、人類の生息圏の外『魔界』。

 陸上の周辺を囲むように造られた、水棲種の生息圏『水槽』。

 様々な理由により隔離された被差別階級の生息圏『非民区』。

 氷点下の環境に特化した生物種の生息圏『氷極』。

 寒帯から亜寒帯までの環境に適した生物種の生息圏『白陸』。

 熱帯から温帯までの環境に適した生物種の生息圏『朱里』。

 いわゆる上流階級の選ばれた者達が住まう都市圏『政令指定特区』。

 そして、この星のデータ管理を外部からコントロールできる、唯一の窓口。『中枢』。


 この内、魔界と非民区、水槽以外は更に細かいエリアごとに分割されている。

 そして非民区居住者以外には、区民権と言う識別カードが身分証として発行されており、政令指定特区居住者には更に優良区民権が与えられている。

 この識別カードに入力されている『ペイ』というポイントゲージ。これが仕事の報酬、商品やサービスに対して支払われる対価の媒介になっている。この星で真っ当な生活を営むなら、必要不可欠なアイテムと言えるだろう。

 ちなみにdollも、所有者が正式な手続きを取り審査に通りさえすれば、このカードの所有を認められている。これは仕事のパートナーとしてdollを必要とする者や、生活のサポートとして買い物の代行をさせる時などに運用されるシステムである。

 中にはdollに外で働かせる事で報酬を得て、自分は働かずに生活したいなどと考えの者も当然のようにいるが、そう言う者はまず審査からして通らないので、大きな問題にはなりえていない。

 そして今日、ショーくんの手に大事に握られた識別カードは、ダリからの貸与品である。

 戦々恐々と街中を歩くショーくんに、ジェスタとヨルムは呆れたような視線を向けた。


「ショー。ここに住んでるのは皆、金持ってる連中ばっかだ。誰も他人の財布なんざ欲しがらねえよ」

「で、でも、万が一というものが……」

「仮にも公安機関の幹部が連れ立っている状況で、随分と臆病なのね。もっと区民から頼りにされたらどうなの? ジェスタ司令官」

「あいにくな、俺とそいつは最近ようやく目を合わせて会話出来るようになったばかりなんだよ」


 頼りどころか率先して避けられていた男の切実な声に、まぁと悲哀の視線を送るヨルム。当の少年は、実に申し訳なさそうな様子で大男の背中にごめんなさいと呟いた。


「……何と言うか、全然dollという感じがしないわね、貴方」

「は、はぁ」


 どこか期待はずれな視線を向けられ、しょんぼりと肩を落とすショーくん。

 しかし彼の立場になってみれば、それはあまりに理不尽な言葉である。

 つい最近まで生身の体で生きていたものを、突然訳の分からない者達に囲まれ、今の貴方は機械の体であると告げられる。

 見た目、どこにも機械的要素がないのにである。シーエのような分かりやすい関節部でも見えていればまだ納得もできただろうが、少年の体は黒子の一つをとってみても生身の体そのものである。

 目を覚ましたあの日、自身の『異常体質』をダリから見せつけられてさえいなければ、少年は今でも自分をアンドロイドだと自覚していなかっただろう。

 その異常体質に関して、ダリから口止めこそされていなかったものの、なんとなくヨルムには言わない方が良い気がして黙っていた。ジェスタも素知らぬ顔で流している辺り、問題はなさそうだった。

 少なくとも、ビームやら必殺技やらのインパクトには遠く及びそうになかった。





 エリア9のステーションから地下を巡る交通網、パルプモービルに乗車し、賑やかな街並みのエリア2に辿り着く。

 ここは政令指定特区エリア2と朱里エリア35が隣接する繁華街になっている。その往来は、多種多様な人種が違和感なく入り混じり、街の風景に彩りを添えていた。

 目が八つ、口が二つあるスレンダーな女性に声をかける、角と翼の生えた猫。長い足が四本あり、首が妙に長いビジネスマン風の一つ目男。路上で妙なダンスをするバネのような体の蛙人間。下半身がクラゲのようになっている半透明の女性の荷物を持たされ、関節だらけの体を忙しなく動かす木目肌の男。

 それに、所有者に連れ添っているのだろう、dollがちらほらと伺える。

 ダリと同じ長耳や、ジェスタと同じ獣人、ヨルムのようにあまり人間と変わらない容姿の者までいる。

 ちなみにヨルムは、精神感応に優れたニチウムという人型の種族である。他人の思考を読んだり、脳に直接声を送る能力を持っている。が、実用はあまりしないらしい。

 ヨルム曰く、ニチウムは他人の思考に影響を受けやすいらしく、様々な文化を持つ多種族達の思考を読む内に、変態趣味に目覚める者が多いのだとか。


「司法局の長官を務める私の父は、皺が寄った老人の肌は素晴らしい。隅々まで舐め回して褒め称えるのが最近のトレンドなのだと熱く語っていたわ」


 あぁはなりたくないのだと、ヨルムは死んだ目で語った。嫌な世界を垣間見たらしい。

 ともあれ、街の風景を眺めながら、ショーくんはちょっとした興奮状態にあった。

 幼い頃に両親に連れて行ってもらった遊園地を前にした時のように、心を躍らせていた。この世界に来て初めて、前向きな意味で言葉を失っていた。


「どうだ? 賑やかで楽しそうだろう」


 そんなショーくんにジェスタが声をかけると、こくこくと頷いてみせる。

 子供のようなその仕草にくすりと微笑むヨルム。二人からの温かい視線に気付き、少年は恥ずかしげに俯いた。


「まずは食事でも取りましょうか。その後は先生からショーくんの暇つぶしになりそうな遊び道具を見繕うように言われているから、玩具屋に行きましょう」


 自分は一体いくつの子供に見られているのだろうか。

 ダリの認識に愕然とするショーくん。同じく想い人から都合の良い友人としか認識されていないジェスタは、激励の意を示してその背中を優しく叩いた。

 ヨルムに案内されたのは、長方形の建物が継接ぎに接着されたようなビルの五十階に位置する、展望レストランだった。

 出てきた料理はやはりというか、変わっていた。

 ショーくんの前に出されたのは、何故か発光している野菜らしきものの上に、赤い麺が乗っている物。ヨルムの前には巻貝を縦に切ったような器に盛られた緑色のスープ。ジェスタは海老のように見える生肉にたっぷりと黄色いソースをかけたものだった。

 まるで信号みたいだと軽い現実逃避に駆られていたショーくんだが、口にしてみると案外食べられた。しかし内心、シーエの料理の方が美味しいなぁと密かに思っていた。

 雑談を交えながら移動し、本当に連れて行かれた玩具屋では球状のデバイスを購入する。展開すると、RPGめいた舞台が広がるボードゲームらしい。普通に面白そうだとショーくんは思った。

 その後はヨルムに連れられて服を見たり、ジェスタに連れられてナンパに付き合わされたり、それをヨルムに見つかって報告事項が出来たと脅されたり、口止めとしてジェスタが買わされたヨルムの服やアクセサリを運ぶ荷物持ちとして使われたりと、何だかんだで少年はこの外出を楽しんでいた。



 その状況に到るまでは。



 入電。入電。

 I4騎兵装隊ジェスタ司令官。非常招集が発令されました。応答願います。応答願います。

 政令指定特区エリア4フルムシュ外交官邸にて、サーバントdoll数体による立て篭もり事件発生。館内には七名の人質が取られている模様。至急応援願います。




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