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X-doll  作者: 鬼屋敷口談
少年アブダクション
6/19




 異星人の少年『ショーくん』が惑星メトロンに来て十四日が経つ。

 彼は今日この日、ダリ、シーエ、ジェスタの三人から惜しみない称賛を受けていた。


「やったなショー! もう怖いもんなしだ!」

「良い子ですショーくん。よく頑張りました」

「えぇ、目覚ましい進歩ね。久しぶりに感動したわ」

「あ、あはは」


 三人から手放しに褒められ、遠慮がちに照れ笑いを浮かべるショーくん。

 気弱な少年が何をなしてこのような状況に陥っているかと言えば。


「まさかジェスタと目を合わせて会話できるようになる日が来るなんてね。10秒も」

「騎兵装隊の隊員ですら目をそらすジェスタ様とですよ」

「快挙だぜまったく!」

「え、えへへ」


 常軌を逸したコミュニケーション不全だった少年が見せた確かな成長に、全員が手と手を取り合って喜んでいた。少々腑に落ちない何かを感じないでもなかったが、目の前の快挙に比べれば瑣末な事である。

 そんな訳で、シーエが作ったご馳走を前に祝杯を上げていた四人であるが、その席でダリが思わぬ爆弾を投下した。


「ショーくん。明日辺り、外に出かけてみましょうか」


 かたんと、スプーンが落ちた。

 信じていた仲間に裏切られたような表情で、愕然とダリを見つめるショーくん。

 そんな彼を、シーエが取りなすべくフォローを入れる。


「大丈夫です、ショーくん。ワタクシも同行しますので、一緒に頑張りましょう。貴方はワタクシが、この身を呈してでも守ります」

「シーエさん」


 力強く豊満な胸を叩いて主張するシーエに希望の光をみるショーくん。だが。


「駄目。同行するのはジェスタよ」


 かたんと、スプーンが落ちた。

 親の敵はそこにいたとでも言わんばかりに、ジェスタに向けて剣呑な空気を垂れ流すシーエ。ジェスタは慌ててダリに尋ねた。


「なんで俺だよ? いや、俺は良いんだけどよ、まだショーは人見知りのリハビリ期間だし、シーエちゃんの方がまだ一緒にいて安心できるだろ。なぁ?」


 同意を求めるようにジェスタが視線を向けると、ショーくんとシーエは揃ってこくこくと頷いて見せる。しかし、ダリは首を横に振る。


「駄目よ。ショーくんの存在は評議会に知られる訳にはいかないの。身元不明の人間がシーエと一緒に一日中外をほっつき歩いてみなさい。絶対にあの鳥頭の耳に伝わるわ。同じ理由で私も却下。アンタはほら、兵士とかにツテもあるし、外に知り合い多いじゃない。いざ聞かれた所でいくらでも誤魔化しが利くでしょ?」

「じ、じゃあ、外行かなくても良い」


 説明するダリに、ショーくんは消極的な答えをボソリと呟く。

 そんな少年を、ダリは子供に言い聞かせるように窘めた。


「だーめ。せっかくジェスタと会話出来るまでに進歩したのよ? このまま行く所まで行かなきゃ。成長を止める者は、すべからく淘汰されてしまうのよ」

「と、とうた」

「ダリ様。ショーくんを怖がらせないでください」


 ごめんごめんと笑うダリに責めるような視線を向けるシーエだが、言っている事自体は正しいと理解していた。ショーくんの為を思うなら、時には厳しい道を歩かせる事も必要だと。

 そしてダリは、面白い事を思いついたとでも言いそうな顔で、更なる提案をする。


「まぁ、男二人っていうのも侘しいものがあるのは確かよね。せっかくだから、ヨルムにも参加してもらいましょうか」


 突然出てきた知らない名前に過剰反応を示すショーくん。しかし後ろに控えていたシーエは、少し安心した様子で頷く。


「ヨルム様とご一緒という話でしたら、問題無いと思われます」

「……ちょっとどころじゃなく不安なんだが。俺、あの子苦手だ」


 人に苦手意識を持たれる事はあっても、まさかその逆はないだろうと密かに思っていた男の口から出た意外な言葉に、驚きの目を向けるショーくん。それに気づいた男が見返してくると、即座に視線を逸らした。


「……やっぱりまだ無理じゃねえか?」

「心の準備ができてなかっただけですよね? ショーくん」

「む、無理だと思われ……」


 そんな会話を経て、結局ショーくんの翌日の予定は勝手に進められた。





 翌日。


「化けたな」

「き、恐縮です」


 ダリの研究室からショーくんを引っ張ってきたジェスタ。

 ヨルムとの待ち合わせ場所、政令指定特区『エリア9』にある噴水広場に着くと、ジェスタは隣に立つ少年の格好にすかさず突っ込みを入れた。

 何と言うか、気合が入っていた。

 目元に掛かっていた髪を後ろに撫でつけ、ライトイエローのサングラスで目元の隈を隠し、七分丈のセーターと黒のカーゴパンツ。首元にはシルバーのアクセサリ。

 気弱な少年の印象はガラリと変わり、何と言うか、ちょっとしたゴロツキだった。


「二人に見立ててもらいました」

「あの二人のセンスか」


 ジェスタは肯定も否定もしなかった。ただ、納得したように頷いた。


「あ、あの、ジェスタさん。そのですね、ヨルムさん、て言う人。どんな人なんですか?」

「ん? あぁ、あの二人から聞いてねえのか」

「はい。その、良い子としか……」


 ジェスタは頭をかく。強面が何とも言えなそうな微妙な雰囲気を醸し出しているのを見て、怒らせてしまっただろうかとショーくんは密かに怯えていた。

 ふと、ショーくんは気づく。ジェスタの後ろに、何やら派手めな装いの少女がそっと近づいている。ぼんやりと視線を向ける少年に気付いたのか、少女は唇に指を当てて見せた。


「ヨルムちゃんはダリの昔の生徒なんだと。何の分野かは知らねえけどな。お前はまだ会った事ねえだろうが、ダリの所にちょくちょく顔見せしてるぜ。胡散臭い話とか持ち込んでな」

「へ、へぇ」


 大男の後ろでにこりと笑いぺこりと会釈して見せる少女。慌ててぺこりと会釈し返すショーくんをジェスタは不思議そうに見ながら、話を続ける。


「まぁ、良い子には違いねえよ。頭は回るし、若い割には視野も広いし、気立ても良くて正義感も強い。あれで男なら是非とも部下にスカウトしたい所なんだが、……微妙に残念なんだよなぁ、あの娘」

「へぇ、何が残念?」

「少し……変な電波に毒されてる所が……あ?」

「御機嫌よう。お待たせして悪かったわ、ジェスタさん」


 背中から聞こえるたおやかな少女の声。目の前の少年の気まずそうな視線の行き先を辿れば、そこにはにこりと優雅に会釈する待ち合わせ相手の姿。

 左右に大きな巻き毛が揺れる、お嬢様然とした可憐な少女。


「お初にお目に掛かるわね、ショーくんだったかしら。只今ジェスタ司令官よりご紹介預かった、微妙に残念なお嬢こと、ヨルムですわ。よろしくね?」

「あ、はい。ども。ショーです。よ、宜しくお願いします」


 ここ最近の治療の成果もあり、戸惑いながらも挨拶が出来てほっとするショーくん。そんな彼を余所に、ヨルムはひたすら視線を逸らすジェスタへと向き直った。

 にこにこと見つめてくる少女に、ジェスタがもごもごと口を動かす。


「あ、いや、その、な? さっきのは違くて」

「ふふ、そんなに怖がらないでよジェスタさん。私、別に気にしてないから」


 そう言って微笑む少女に、蚊帳の外にいるショーくんは優しい人だなぁと安心感を覚える。

 一方で、ジェスタの顔色は芳しくない。

 ヨルムは再びショーくんの方へと向き直ると、凛々しい顔に期待を浮かべて尋ねた。


「ダリ先生からお話は伺っているわ。貴方、新型のdollなんですって?」

「え、えぇ、まぁそういう話で……」

「今までにない特異な個体であると仰っていたわ」

「あ、はぁ、そ、それはどうなんでしょう……」

「私、貴方に直接お会いして、色々聞きたかったの。今日を本当に楽しみにしていたのよ? ねぇ、私、たくさん質問してしまうと思うのだけど、許してもらえるかしら?」

「え、えぇぇ」

「いい? 許して頂けるの? ありがとう! きっと貴方ならそう言ってくれると思ってたわ!」

「あ、あぁ、うぅ」


 さくさくと展開を運ぶヨルムの話術に封殺されるショーくん。

 あっぷあっぷしている少年に同情を覚えるジェスタだが、この程度はまだほんのさわりに過ぎない事を彼は知っている。

 子供のようにキラキラした瞳で、変質者の如くじりじりと歩み寄るヨルム。 


「ねぇ、じゃあねショーくん。貴方、何が搭載されているの?」

「な、何とは?」

「だからね、特殊な個体であるdoll。ショーくんのその体には、果たしてどんなステキ機能が搭載されているのかしら?」


 ヨルムの言葉に、しばしストップするショーくん。

 ジェスタはただただ憐れみの視線を注いでいた。


「……え?」

「あるんでしょ? あるわよね? 変身機能とか。合体とか。ビーム的な、必殺技とか!」


 変身、合体、ビーム、必殺技。

 搭載されているのだろうか。この体に。

 ショーくんはほんの一瞬だけ考えて、そんなものがついていたらなんか嫌だなと思った。

 そして、この子ちょっと変だなと思った。




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