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X-doll  作者: 鬼屋敷口談
聖少女ラプソディ
15/19




 ××通信局より。

 こちら、政令特区エリア5。ストレイロットパーク内センターホテル。

 最上階の一つ下。エレガンスと呼ばれる最高級の室内にて、四名の遺体を発見。

 奴隷非民商の大物ルアパーチ氏。ヴァイタリア星群の使者リジェ氏。レッドカーヴァンス社頭取グミ氏。そして、ライラ種代表評議員キザン氏。

 広い室内には四散した肉体のパーツが満遍なく撒き散らされていた。おそらくは生きたまま、何時間もかけて殺されたものと検死の報告で明らかになっている。

 現場には血で書かれた犯人からのメッセージが残されており――。


 ××報道社会面より。

「不明のユユド博覧社幹部、遺体で発見」

 エリア17ヘルト自然公園にて、ごみ捨て場に男性の遺体が発見された。

 治安維持局は遺体を十日前夜から行方が分からなくなっていたユユド博覧社幹部社員、メメデ氏であるとみて、死因を調べている。

 メメデ氏は十日前夜に会社を出た所から行方が分からなくなり、治安維持局はメメデ氏が事件に巻き込まれた可能性もあると見て行方を捜索していた。

 メメデ氏の遺体は半透明の袋に入れられており、体には暴行を受けた形跡があったことから、殺人事件として慎重に調べを進めている。


 日報××より。

「残虐極まりない犯行! ユユド幹部殺害事件続報」

ヘルト自然公園にて死体で発見されたユユド博覧社幹部メメデ氏だが、治安維持局関係者の話からその残虐な手口が次第に明らかになった。メメデ氏の遺体には拷問された形跡が残されていたというのだ。

 まずメメデ氏の腕と足は骨が砕かれていたという。膝からつま先、肘から指先に至るまで粉々に砕かれていた。また、両目は毛細ファイバーできつく縫い付けられており、両耳の鼓膜は破壊されていた。舌は何か強い圧迫を受け潰されていたという。

 そのすべてが、生きたまま付けられた物であると認められた。

 薬剤による麻酔処置なども一切施された形跡はなく、メメデ氏が受けた凄惨な拷問にユユド社は怒りを露わにしている。

 なお、遺体の腹部には先日ストレイロットパーク内センターホテルの現場で見つかったものと同じメッセージが刻まれており――。


 ××報道中継より

「ゴドール銀行頭取変死体で発見」

 本日未明、政令特区エリア9のレストラン『ミステス』トイレにて、ゴドール銀行頭取ウォン氏が変死体で発見された。席を立ったウォン氏がトイレから戻らない事を心配した夫人が、ミステスの支配人エヨ氏と共にトイレに向かうと、鍵のかかった個室から血が流れ出ているのを発見。便座に肉片が詰め込まれているのを発見。後の検死で、ウォン氏であると確認された。

 解体は生きている内に行われた形跡があり、便座の奥には犯人の残したもの思われるメッセージが――。




 イルカンティナ迎賓館地下。

 定位置であるボロイ鏡台の上にはしたなく胡坐をかく少女メルトメライ。そして、その傍らに立つ男エルシュ。

 彼が得意げな顔で見せつけてきた、連日政令特区内を騒がせている事件の報道記事。被害者達の名はメルトメライも知っている。ついでに、彼らの共通項も。


「君の部下は優秀だね。こうも早く成果を上げてくれるとは思わなかった」

「部下ではない。志を共にする同士だ」


 余裕の笑みを湛えて少女にお茶を差し出しながら、エルシュはふふと小さく笑う。不思議そうに首を捻る少女は、子供扱いのような反応も気に留めず答えを待つ。

 エルシュは少女と向かい合うようにボロイ木椅子に腰かけると、長い足を組んで優雅に茶を啜る。


「その割には従順じゃないか。狂信的と言ってもいい。素質に目覚めてまもないと言うのに、すでに彼らは君の為に能力を発揮している」


 その言葉に、決まり悪そうに顔を歪めるメルトメライ。

 彼女の思いを汲み、苦笑を浮かべてエルシュは続けた。


「皆、君の為に尽くしたいのさ。その気持ちを否定してやるなよ」

「そんなつもりじゃない。ただ、どうしてこうなったと思うだけだ」

「カリスマって奴じゃないかな。君の本領だろ?」

「やめてくれ」


 うんざりとしながら溜め息をつくメルトメライ。

 自分が彼女に救われて力を得たあの日から、メルトメライは共に闘う同士を募っていた。

 上下関係など無い、対等に肩を並べられる仲間を集めていたはずだった。なのに、気付けば自分は祭り上げられていた。持て囃され、聖少女などとふざけた呼称で御旗に掲げられていた。

 少女の一声で集まった多くの同士達が沸きに沸いた。動き一つでざわめきが立ち、熱狂が渦巻いた。何かがおかしいと次第に思い始めた。

 ある時、たまたま耳に入った報道でカルト宗教扱いを受けている事を知った。全力で否定したかったが、否定できない自分にむしろ死にたくなった。


「自分のグッズが知らぬ間に販売されていた事を知った時は、本当の意味での挫折を味わった」

「標的の中にも君のファンがいるくらいだからね。むしろ殺されたいのではないかな」

「やめろ。本当に挫折するぞ」


 疲れた声でそう言いながら、メルトメライは閉じた瞳に同士達の姿を映す。

 素質に目覚め、少女の為にと動き始めた者達。死すらも厭わず、少女の為に犠牲になることを喜ぶ愚かな信者達。

 そんな彼らを止める事すらできないメルトメライは、せめて、同士達の無事を祈らずにはいられなかった。





「祈れ」


 厳かに、壮年の男は言った。

 暗い部屋である。明かりは薄く揺らぐ燭台のみ。その明かりも、壁面に貼られた麗しき少女の画像を照らし出す、ただそれだけの為に存在するものである。

 人数は二十余り。前列に三人の男女。後ろには残りの人間が雑多に並び、膝をついて目を伏せ、祈りに浸っていた。

 誰も顔を上げない。祈りを止めない。先に止めた者が負けだとでも言わんばかりに。事実として、彼らの間ではそうなのかもしれない。この場にいる者は皆、少女を思い祈る時間こそ至上の愉悦だと信じて疑わない狂信集団。

 やがて、壮年の男が名残惜しげに終わりを告げる


「……祈りは告げた。後は、動くのみぞ」

「次はもっと手応えがあればいいがな」

「ビーユー、そろそろ立て」


 壮年の隣に立つ黒衣が呟く。全身を黒のマントで包んだ、どちらかと言うと目立ついでたちだ。

 そしてもう一人。壮年の隣で未だ膝をつき祈りを捧げているフリフリドレスの幼い少女。彼女は顔を上げると、ゆるい笑顔を壮年に向ける。


「足痺れた」

「……ナイプ、背負ってやれ」

「ナイプはいや。黒くてばっちい」

「あぁ? 殺すぞクソガキ」


 不気味な黒衣から発せられたチンピラじみた声。

 ビーユーと呼ばれた少女は、黒衣から逃れるように壮年の男の後ろに隠れ、よじよじと登っていく。


「コンドルテ。次はいつメルトさまに会えるかな?」

「さてな。ビーユーが懸命に尽くせば褒めに訪れるやもしれぬな」

「わっほぅ。じゃあわたし頑張ったう」


 壮年の肩に乗ってはしゃぐ少女。甘いねぇと呟き、黒衣の男が退室する。

 その後を追い、少女を乗せた壮年も外に向かった。

 まもなく、騒乱は幕を開ける。




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