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X-doll  作者: 鬼屋敷口談
少年アブダクション
11/19

エピローグ




 その後、すぐに降りてきた騎兵装隊の隊員に保護された二人。

 事情聴取を受け、ジェスタにこっ酷く叱られ、その後は優しく慰められたショーくん。


「よく頑張ったな」


 疲れたように溜め息を零して笑いかけたジェスタに、ショーくんは泣きながらしがみついた。

 あらあらと微笑ましげにヨルムが笑う。仕方ねえなぁとジェスタが撫でてやると、周囲で慌ただしく動いていた隊員達が一瞬だけ停止した。

 マジかよ、やっぱりか、なんでソッチいっちゃうかな、ダリさんに相手にされなくて自棄になったんだろ? と、ちらほらと聞こえ始める。ジェスタのこめかみに血管が浮かぶ。

 爬虫類のような目を持つ褐色の美女。副司令ティローシャ。

 全身の各所に仕込まれた小型記録装置をフル稼働して男二人の抱擁を保管する直属の部下を確認した時、ジェスタの怒声が轟いた。

 仲が良いんだなぁと感心するショーくん。尊敬されてないのねと憐れむヨルム。


「ところでよ、さっき事情聴取受けたろ。なんて誤魔化したんだ?」


 ジェスタの当然の疑問に、二人が顔を見合わせて答える。


「き、きぜつしてた。から、わからない……って」

「素敵な殿方が現れて、颯爽と悪者を倒して去って行きましたと」

「……よくそれで通るもんだよなぁ」


 頭を抱えて考えこむ司令官。部下の杜撰な仕事を注意すべきか感謝すべきか。今回ばかりは感謝すべきなのだろうと溜め息をつく。

 あの、と、ヨルムが小さく声をかける。振り向いたジェスタに、深々と頭を下げて。


「私のせいで怪我をさせてしまいましたね。ジェスタさん。本当に、ごめんなさい」


 しおらしく謝るヨルム。

 ジェスタはその頭を優しく撫でると、仕方無しといった様子で。


「どうせダリの指示なんだろ? ……ったくアイツは、ガキに無茶させてんじゃねえよ」


 ぐったりと言う苦労人の大男。

 ヨルムは先ほどのショーくんのように、その体にわっしとしがみつく。

 えぇぇないわぁ、忙しいなうちの司令殿は、次はソッチにいっちゃうんだ、ハーレムって柄かよあのツラで、周囲のバッシングが耳に痛い。

 良い意味で起伏に富んだ肢体の美女。副司令ティローシャ。

 小型記録装置に映された大男に抱擁する少女の画像。彼女はそれを速やかに本部へと転送、……しようとした所で、飛んできた大男の鉄拳に阻止された。

 面白そうに笑うヨルム。その横でショーくんは、やっぱり仲が良いなぁと羨ましげに眺めていた。





「おかえり。ジェスタから聞いたわよ。頑張ったわね、ショーくん」


 ヨルムに連れられて研究室に戻ったショーくんは、優しい笑顔で出迎えたダリ……ではなく、その後ろに控えていた無表情のシーエに駆け寄りしがみ付く。シーエも当然のようにショーくんを受け入れる。

 受け入れ態勢万全で構えていたダリは、改めてヨルムに視線を向ける。少女はやんわりと拒否を示した。

 シーエの胸の中で散々泣き言を零して落ち着いた少年は、食事の席で今日あった事をいつになく饒舌に話した。もちろん、事件の事はあまり触れずに。


「やっぱり外に出て良かったでしょ? 今度機会を作ってあげるから、シーエと行ってみる?」

「嫌です」


 はっきりとした拒否を示す少年。

 悲しげな雰囲気を漂わせてじっと見つめてくるシーエに、慌てて弁解する。


「も、もう、外に出たくない。ダリさんや、シーエさんと、ずっと、ここがいい」


 先ほどまで楽しげに話していた事柄も、やはり後の事件のマイナスには及ばなかったらしい。刺激が強すぎたかと、シーエに撫でられる少年を眺め、ダリは苦笑を洩らした。

 どうしようかねぇと軽く考えていると、意外な所から援護が飛んだ。


「……ショーくん。私に借りを返させてくれるんじゃないの?」


 ヨルムだった。

 ショックを受けた少女の様子に、少年はうろたえる。


「また一緒に出かけて、そこでいっぱい楽しんでもらって、それでショーくんが喜んでくれたらなって、思ってたのに」


 落ち込んだ様子で俯き、言葉尻が小さくなり、声が段々としぼんでいく。微かな涙声が少年の罪悪感を揺さぶった。あわあわとヨルムに歩み寄り、どうしていいか分からないと言った様子で少年は周りに助けを求める。

 シーエからなでなでとジェスチャーで伝えられ、勇気を振り絞って撫でてみた。が、通じない。

 ダリは呆れたように首を振り、ショーくんに言う。


「仲良くなったのねぇ。いいじゃない、デート。行ってあげたら」

「えっ? い、いや」

「嫌?」


 ダリの無責任な提案を慌てて拒否しようとしたショーくんは、耳元で囁かれた声に追いつめられる。


「嫌? 私とは嫌? 私の事嫌い? ねぇ、ショーくん」

「え、いや、違」

「今日の事で嫌になっちゃった? 私の事嫌いになったのね。当たり前よね。私のせいであんな事になったんだもの。嫌いになって当然」

「そ、そんな事は、ないから」

「……本当?」


 両手で顔を覆っていたヨルムが、にっこりと笑顔を見せる。

 そんな事ないと。嫌いになった訳じゃないと。そう言ったなと。確かに聞いたぞと。

 たおやかな声にそんな意図を滲ませて。


「じゃあ、また私とデートしましょうね? 絶対よ、約束よ、ショーくん」

「え、ちょ、まって」

「楽しみにしてるからね」


 知らぬ間に取りつけられた約束に引き籠る未来が破綻し、少年は絶望の眼差しを去り行く少女へと向けた。

 その後ろで、むっとした様子のシーエ。そして、あの子何気に結構本気だよなぁと興味深い様子で生徒の背中を眺めるダリ。

 浚われた少年の異星人交流は、前途宜しくない様子で幕を開けたばかりである。





 朱里エリア5。イルカンティナ迎賓館。

 婚姻の文化がある異星人種の為に作られた式祭場。隅に隠れるように存在する用具置き場の扉を開き、奥の壁を押し込む。すると、下に向かう階段が現れる。降りた先に、その空間はあった。

 佇む数人の人影。幾つものボロイ木の椅子に座る者達。そして、罅割れた鏡台に腰を下し、彼らを見渡す一人の少女。

 彼女は合流する予定だったdollのグループが騎兵装隊に制圧されたと報告を受け、舌打ちする。

 無線機器を手に、通話口の相手に八つ当たり気味に文句をぶつけていた。


「やはり、外装で身を固めても難しいだろ。戦闘に向いた連中では無かったとはいえ、あのO-dollとかいう訳の分からないのに出て来られたら、抵抗の間もなく鎮圧されたろうよ」

『中身のカスタマイズは調整に時間がかかるのよ。彼らの状況を考えれば、一刻も争う必要があったわ』

「だが、……彼らは全滅した。やはり、此方がフォローすべきだった」

『駄目よ、貴方。まだ損傷が治ったばかりなんだから』


 既に補修が完了した左腕部を抑え、悔しげに歯を食いしばる少女。

 彼女の元に集った同士達もまた、合流を前に散ってしまった八体の無念を想い、その身の内に復讐の情念を高ぶらせた。


「あの面倒な女性型doll。私が付きっきりで相手をしたとして、その間に騎兵装隊の増員が掛かろうものなら撤退もままならない。すまないが、戦闘向きの戦力を一つ貸してもらえないか?」

『そうねぇ……別に私が行ってもいいのだけど……あぁ、そだ。そういやアンタいたわね。暇でしょ? 行きなさいよ。……私の執事だから断るって、執事なら私の言う事を……専属って、知らないわよそんなこと。いいから行けって……行けっつぅの!』


 通話口のけたたましい悶着に、少女は期待していいものかと悩みながらも頼んだと一声告げて、無線を切った。そのまま目の前、五十人ほどの群衆に向かい、声を張り上げる。


「同士達よ。勇敢に立ち向かい、無念に散っていた者達の志はこの胸の内にて燃やせ。差別と迫害、そして屈辱に塗れたこの星は間もなく、覆されようとしている!」


 鏡台の上に立ち上がり、広くも無い空間に所狭しと詰めかけたdoll、そして非民区の民を隅々まで見渡していく。心を裂かれ、引き千切り、傷つけられ、泥に塗れた者達の鬼気迫る激情の視線を、その華奢な体一つで受け止める凛々しい少女。

 愛らしくも意思の強い眼差しで遠くを見据え、メルトメライは高らかに叫んだ。


「反逆せよ! 残酷の世界を、冷酷な異星人共を、我らの血潮と激情で、燃やし尽すのだ!」



Interlude → 聖少女ラプソディ




まずは序章終了でございます。ここまで読んでくれた方、いらっしゃいましたら誠にありがとうございます。

次の章では本格的に能力者バトルな展開になりそうです。本章の冒頭、およびラストで出てきた少女メルトメライ編です。どうぞよろしくお願いします。


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