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美しくなければダメなんです!  作者: killy
お酒に呑まれてはいけません
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「じゃあ、あたしたちのビアガーデン行きを祝して、――」

 美沙がビール缶を持ち上げると、その場にいた全員がそれに合わせて飲み物を持ちあげた。

「乾ぱーい!」

 嬉しそうにビールを飲んだ美沙は、そうしてしみじみ、嬉しそうに頷いた。

「いいねえ。このノリ。楽しいわぁ」

「だねー」

 茜も楽しそうに同意する。「私、ここに来るまでは、この学園の生徒は皆、お茶に命をかけていて、お茶以外の事柄には目もくれないような、お茶に対して生真面目な人しか集まらないと思っていたから、かなり悲壮な覚悟を決めてきたんだよ」

「私もです」

 晶子が頷いた。「お茶に関係する以外の会話なんてできやしない、ましてやこんな風に皆さんで集まって楽しく飲めるだなんて、想像もしていなかったです」

「うちは、学園卒業生の従兄の話を聞いてたから、そうでもなかったけど」

 雪が持参したポテトチップスをつまみながら云った。「でも、学年によってかなり色彩が違うみたいやね。うちらの学年は今のところめっちゃ仲良いけれど、中には、学年内のメンバが各々めっちゃ仲悪くて空気が最悪って時もあったみたいよ」

「十数人しかいない少人数のグループ内でそんなことになると、悲惨だね。逃げ場がないもん」

「本当ですわ」

 私、この学年で良かったですわと晶子が安堵した口吻で云うと、その場の全員がしみじみ同意した。もちろん陽菜子もそうだ。傍から見ていると、他の学年の先輩方も互いに仲が良くて団結しているようだけれど、そこに加われるとしても、陽菜子はここにいる皆や今の同期たちがいる、この学年を選びたい。それくらい、この学年の皆が好きだった。

「そうそう。あんなぁ、へぇ、うち、先輩方に関して面白いお話聞いたわ」

 雪が、包んだギョウザをホットプレートに並べながら云いだした。

「何なに何?」

 美沙をはじめとする面々が興味津々と云った表情で雪に詰め寄る。

「水谷四班のチーフの高矢さんと同じく四班の(ゆい)薔子さんは、付き合ってはるんやって」

「ほうほうほう!」

 やはり恋愛話になると食いつきが違う。皆、目をきらきらさせて雪の話に聞き入った。

「あとは三班の二年生の栽松(うえまつ)さんと、三年生の小峯さんがやっぱり恋人同士やって。せやから、この二組が二人でいはるところには、ひょいひょい入って行かないほうがええよ――って、若代さんが教えてくらはったの」

「なーるー。それはすごい貴重なアドバイスだね」

「栽松さんと小峯さんって、小峯さんの方が年上?」

「うんん。小峯さんは高校卒業後にここに入らはったから、三年生の今でも二十か二十一でしょ。対する栽松さんは大学を終えられてから来はったから、二年生の今は二三か四なはず」

「なるほどー。この学校だと、学年と年齢が一定しないのはよくあることなんだー」

「そうそう。よくあることなのよー、陽菜ちゃん」

「なんでそう、年齢ネタに食い付きが良いんですか、美沙さん」

「いや、お約束かなぁと思って」

「ほかに付き合ってる人はいないの?」

 茜の問いに、雪は首を振った。

「とりあえず、学園内カップルは今のところこの二組だけみたい。ただ、三年生の伊豆原玲子さんと二年生の不来方(こずかた)咲也さんには、学園の外に彼氏がいはるって話。あと、三年生の千吉良さんと安好(やすよし)剛さん、それに二年生の能重凛太郎さんにも、地元に彼女がいはるとかいはらへんとか……ここはあんまりはっきり判らへんのよね」

 以上、学園の恋愛関係でした、と締めくくった雪に、一同は感嘆の目をくれた。

「すごいねぇ。まだ入学してそんな日がたってないのに、よく調べたねぇ」

 美沙の言葉に、雪はそんなこと無いですよ、とはにかんだように謙遜した。

「うち、こういう話が大好きなんですわ。……ってわけで、皆さんにも質問。皆さん、彼氏さんはいはりますのん?」

 ねぇ美沙さん、とまず問われた美沙は、いないいないいない、と真っ赤な顔の前で手を振ってけらけら咲った。

「いたらこの年齢でこんな、三年間も拘束される学園になんか来ませんって」

「せやの?」

「そうよぉ。何せ私、入試の面接でも先生に訊かれたんだよ。『あなたは三年間学ぶ茶道科を希望されていますが、このコースを卒業するときには三七歳ですね。どうされるおつもりですか』って」

「どう答えたんですか?」

「そんなこと、考えてもいなかったから、『さあ?どうしましょう?』って、素直に答えたら、先生方もちょっとウケてた」

「ははははは……」

 それは、聞いた方も笑うほか無い展開だと陽菜子は思った。

(見たかったかも)

 室内だのに、微妙に寒い風が吹いていそうだ。

「入学試験って云えば、」

 茜が二本目のビールを開けながら云った。「ほら、社会人入試は、入試科目の一つに含まれていた適性検査で席入りしたよね。あれって緊張しなかった?」

「したしたした!」

 やはり社会人入試を受けた美沙が勢い良く頷いた。「だって、ふすま開けたらずらずらずらーって業躰先生がたが、茶室に続いてある縁側の方に居並んでいらっしゃるんだもん。何かと思ったわ!」

「だよねー。私なんか、緊張のあまり先生方一人ひとりに挨拶して回っちゃったよ。五人いらしたから、五人全員にしようとしたら、三人目でもう良いから、床のほうへ行きなさいって云われた」

 あれでよく受かったものだと我ながら思うと、茜はけたけた咲う。「業躰先生って、地方に住んでいるとものすごく遠い、雲の上の方ってイメージがあるから、あの面接は本当に緊張したね」

「したしたしたー!」

 美沙が情感たっぷりに頷く。

「そう云えば、うちの学年にも業躰先生の息子さんがいませんでしたっけ?」

 晶子がふと、思い出したように問うた。

「葉武君?」

 雪が記憶を浚うように天井の方を見ながら答えた。

「うん、そうそう。確か葉武君だ」

 そんなことを本人の口から聞いた憶えがあった陽菜子は頷いた。

「葉武君は、水谷入り希望だよね?」

 美沙の問いに、雪が頷いた。

「たしかに、そんなことを云ってはったわ」

「頑張って欲しいね」

「そうだねぇ」

 晶子の言葉に、室内の全員が点頭した。

「そうして、末は業躰先生」

「んで、学園入試の面接官になって、適性検査で席入りをしろと云われた生徒に深々と、丁寧なお辞儀を受ける、と」

 茜の結びに、全員がげらげら咲い転げた。

「そう云えば、上級生さんにも、業躰先生のご子息がいなかったっけ?」

 ひとしきり咲った後、晶子が尋ねた。

「二年生の金湖(かねこ)勇也さんと、三年生の葆積(ほづみ)直樹さんやったと思う。たしか」

 雪が答えた。

「二人とも、水谷入り希望なのかな?」

「じゃない?でなければ学園に来ないだろうし」

「学園に入らないと、水谷に入れないの?」

「最近はそうだって話だけれど……絶対にそうなのかと云われたら、よく判らないなぁ」

「まあ、そのうちおいおい解るんじゃない?」

「そっか、……そうだね」

 と、その話題がひと段落したころを見計らって、雪が声を張り上げた。

「そんなことより、うち、訊いてたんや!皆、彼氏いはるの?」

 その問いに、先刻聞かれたばかりの美沙を含めた全員が、そろって首を振った。

「いなーい」

 茜があっけらからんと云い、

「わたくしたちも、」

「おりませんわ」

 青子と瑠璃子がステレオで続け、

「けど、特に困ってませんし」

 晶子が小首を傾げて続ける。

「そうそう、不便は感じないのよねぇ」

 美沙がそれに便乗して云った。

 むしろいなくて快適じゃない?解る解る、面倒くさいよねー――などと盛り上がる面々を、雪は床をたたいて黙らせた。きょとんとする一同を、酔眼できっと睨め回す。

「あかん。あかんえ!なして皆、そないに枯れてはるねん。その年齢で枯れて、どないしはるのん!」

「どないする、って云われてもねぇ……」

 美沙が後頭部をぽりぽりかいて肩をすくめた。「他のみんなはともかく、私はねぇ……。学園で私より年上と云ったら、例外なく皆妻帯者さんだし」

「諦めたらあかん!」

「あかん云われても、番に手出したら、それこそ『あかん』でしょ」

 雪ちゃん、酔ってるわね――との美沙の問いを無視して、雪はばしばし床をたたき続ける。

「皆、お気張りんさいや!諦めたらそこでしまいですえ!」

「そう云う雪さんは、彼氏いるの?」

 茜の問いに、雪はぷっと頬を膨らませた。

「おりませんわ」

「だったら、雪ちゃんこそ頑張らないといけないわね」

 美沙の言葉に、その部屋にいる雪を除いた全員がうんうん頷いて同意した。

「そうよねぇ。雪さん、頑張ってくださいね?」

「晶子さん、他人事みたいに云わんといて!」

 女は恋して何ぼや、乙女の命は短いんですぇ――との雪の力のこもった主張に、他の面々はまた肩をすくめる。

「そう云われてもねぇ……」

 茜が云い、

「この学園にいる以上、出会いなんてまずありえませんし」

 晶子が唇を軽く尖らせた。「お勉強が忙しいと云う事情もありますが、そもそも色々なお当番が多すぎて、外に出てゆく時間と余裕が無いんですもの」

 水谷当番のほかにも、座学教室のある校舎の二階を毎日掃除して、座学の先生方をお世話する日誌当番や、自分たちのクラスのメンバ間で実技の回数がそれぞれ偏らないように管理する点前当番など、学園には当番が多く、しかもまだ仕事内容を完全には憶え切れていないため、当番にあたると授業外の時間がほぼそれで消えてしまうのだ。もちろん当番を終えて寮に帰ってから、改めて遊びに出るような元気などあるはずがないと晶子は云う。

「それは雪さんもご承知でしょう?」

「手近で間に合わせてもええでしょうに!」

 男さんならいはりますわ、と雪は主張する。「上級生さんもそうですし、少ないけれど先生方の中にも独身の先生はいらはるし、それに何より同期生にいはりますわ!な、ぎょうさんおりますやろ?」

「ですが、」

 と晶子は困ったように首をかしげた。「間に合わせるだなんて、お相手さんにも失礼ですわ」

「そうそう。安易な気持ちで妥協すると、後で痛い目に遭ったりするよー?」

 もっとも、ここの学園生に限って云えば、あんまり心配はいらないかも知れないけれど、と美沙は、今日何本目か知れない新しいビール缶を開けながら言葉を継いだ。「そもそも――他の学年の人はまだよく解らないけれど――うちの学年の男連中って、草ばかりじゃない?」

「草?」

「今流行ってるでしょう。肉食系、草食系って分類。彼らはそのうちの草食動物ですらない、草。日光浴びて光合成して、それで満足してるの」

 何て云いよう――と陽菜子などは唖然としたものだが、美沙の表現は、ほかの面々の笑いのツボをついたらしい。

「草!」

「もはや動物ですらないんですのね!」

「でも、云いえて妙だわ!あいつら草だわ、確かに!」

 床を叩いて、もしくは腹を抱えてげらげら咲い転げる彼女たちを観察すること少し。

(あたしも、お酒持って来ればよかったかなぁ……)

 一人シラフな陽菜子は、自分の冷静さを後悔した。アルコールの助けを借りずにこのテンションについてゆくのは、かなり大変なことだと、今更ながらに気がついたのだ。

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