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上手な修正液の使い方  作者: 和紙
9/70

ニヶ所目 3


誰か、まだ残ってるんだ。もしかして、いきなり四組初カップルかな?



期待とあらぬ想像を巡らし四組のドア付近で聞耳を立てる。


「大河くぅーん。さぞご満悦だろうね。カッコイイ宣誓決めてさぁ、入学式早々一年生の期待の星になったんだから。俺も惚れちゃったよー」


赤毛が、甘えた声を出して一年生代表の宣誓をした春日 大河と話していた。


というより、一方的にカラんでいた。


「話っていうのは、それだけか?」


大河君が冷ややかな雰囲気を出しながら、あしらう用に答えた。


(また赤毛さんかよ。しかも、大河君にカラんでるし)


僕は、鼻で力無く笑いってドアにもたれ掛かった。


「そんだけってさぁー、一番肝心なのは……」


声の調子から赤毛君が、またフザケだした様だ。


僕は、どうでも良くなりアホらしくて筆箱は明日にして帰る事にした。


ドアから離れて家に帰ろうとした時、大きな衝撃音が耳に入った。


「お前が気に入らねぇんだよ」


そして、怒声と共にドガァンと再び机が蹴られた音がした。



その音を聞いて、ドアに戻って教室を覗いた。


「自分は、優等生です。みたいなオーラ出しやがって、僕はミンナの頼れる仲間だよってかぁ?」


赤毛が更に、語気を強めた。


赤毛が鈍く、赤黒く見える。


「別にそんなつまりは無い」


大河君は、氷の様に冷ややかな表情を浮かべ、何事も無かったかの様に教室を後にしようとした。



「待てよ、偽善者」


赤毛がピストルを弾く様に言った。


その言葉に、大河が立ち止まった。


「今…何て?」


大河が赤毛の方に向き直り、感情を込めて言った。


振り向いた大河君の顔には、怒りの色が見える。


「はぁっはっ、やっぱり偽善者だって自分で自覚してんだ。そりゃそうだような〜。お前の事を友達だと思って集まってくるヤツを見下して自分の評価を上げるための道具にしてんだもんなっ。今日だって壇上から会場の人間を見下してたんだろっ。お前は、生まれつきの偽善者だ」


赤毛君が、嘲るように言った。


大河君は、冷静さを無くし赤毛に掴み掛かろうと歩みよった。


「二人ともやめろよ」


僕は、思わず冷えきって凍りついた雰囲気が漂う教室に突入していた。


突然乱入してきた僕に二人は驚いた様な顔をしている。


しかし一番驚いたのは、僕自身だった。


つい数秒前まで家に帰ろうとしてたのに、なんで教室にいるんだ?


訳が分からず目をパチクリしていると、赤毛君が、机を殴りつけた。


「おいっイメチェン野郎、何なんだお前はぁ?」


どうやら怒りの矛先が僕に向いたらしい。


イメチェン野郎。


その言葉を聞き、合格発表の日の事、今日の事、今までの赤毛の理不尽な言動に怒りが込み上げてきた。



「今日初めて出会ったのにさっ。初日に、イガミ合うのは辞めようよ。一年間…一緒に過ごす四組の仲間同士じゃん」


僕は、目を閉じて力を振り絞って言った。


目を開けると大河君が、僕の顔を真っ直ぐ見つめている。


「お前、バ…」


赤毛が言葉を発しようとした時、突然誰かが赤毛君の言葉を遮った。


「はいはいっ。そこまで」

手をパンっと叩きアゴに不精ヒゲを生やした先生が教室のドアに立っていた。


担任の先生では無かった。


「先公は…」


赤毛君が言いかかけた瞬間、

「ハイハイ、興奮しない。今日の青春のドラマ第一回はオシマイ。解散解散っ」


そう笑顔で言って強制的に解散を命じた。


「チィ」


舌打ちを残して赤毛君は机にガタガタ当たりながら荒々しく帰って行った。



大河君も、フゥと一呼吸して入学式で見た凛とした雰囲気をマトって帰っていった。


「あ、大河君…さよなら」


僕は少さな笑顔を浮かべて大河君に挨拶した。


大河君は、軽く笑い返した。


「お前も、気をつけて帰るんだよ。入学式は家に着くまでが入学式なんだからな」


ヒゲの先生は、お決まりのセリフを言うと微笑みを残して廊下に消えていった。


教室には、僕と夕暮れの光だけが残った。


(た、助かった!)


夕暮れの淡い紅に包まれながら安心してヘナヘナと座り込んだ。


その途端、強烈な尿意を感じてトイレに駆け込んだ。


勢い良く用を足しながら、明日からの事を考えてみる。


どうなるんだよ。マイクラスの四組は)


考える度に用をたす時間は伸びている様な気がした。


用を足し終わるとドッと疲れて家に帰る事にした。


(明日の僕はどっちなんだ?)

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