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上手な修正液の使い方  作者: 和紙
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二ヶ所目

P、P、カチッ!


勢いよく目覚まし時計を止めて僕は、飛び起きた。


今日は、聖蘭高校の入学式だ。


(うわぁ…興奮して眠れなかったよ…)


ドスドスと音を発て一階に降りていき、洗面台で勢い良く顔を洗う。


まだ夢見心地でボーッとしている自分を水の冷たい抱擁で覚まし、鏡に写る自分の顔をマジマジと見た。


「これが…僕かぁ…」


昨日、初めて美容院で髪を切った。


とにかく、カッコ良い男の美容師さんを指名してカットしてもらった。


緊張でガチガチになってる僕に美容師の人は男でも惚れそうな笑顔で対応してくれた。


二人で相談して髪型も決めたので出来上がりには満足している。


メガネも辞めてコンタクトにした。


まだ、自分でも違和感があるけど…。でも、新しい自分になれた事が心地良い。


リビングに入ると、母さんが起きてきた僕を見た。


「おはよ〜」鼻唄混じりに卵を焼いている。


着物姿で…。


「おはよ〜じゃないよ母さん。どうしたんだよ…その服。っていうか、卵焼く格好じゃないでしょ」


ハラハラしている僕に向かって、母さんは自慢する時に見せる笑顔を作る。


「だって、欧介に見せたかったんだもん。入学式が楽しみだわ」


(だもん。って、母さん…何照れてんだよ…)


僕は苦笑しながら朝御飯を胃袋に奉納した。


支度を終えると、丁度出発の時間になっていて、僕は学ランを着た。


「じゃあ、欧介。入学式でね〜。いってらっしゃ〜い」


「うん。行ってきます」


玄関で、母さんに見送られ出発した。



頭が少しスゥスゥするなぁ。


そう思いながら歩いていると、ふと見覚えの有る後ろ姿が角を曲がったのが見えた。


あっ、宗男君だぁ。そっかぁ銘東も今日入学式なんだ。僕の母校だった高校かぁ。


「宗男君、バイバイ。三年間楽しんで…」


複雑な気分で曲がり角で宗男の後ろ姿を見送った。



しばらくしてバス停でバスに乗り、過ぎていく風景を眺めていると、ブゥーーンという音と共に真横に原付が追いついてきてバスと並んだ。


ふと原付の運転手と目が合った。


運転手は、あの嫌味な赤毛だった。


赤毛は、僕を睨みスピードをあげてバスを追い抜いていった。


(や、やっぱりあの人も聖蘭だったんだぁ。また、イジメられんのかな…)


落胆している僕を乗せたバスが、学校最寄りのバス停に着いたらしい次々と人が降りていく。


落ち込んでても仕方ない。新しい生活が始まるんだ。


急いでバスから降りた瞬間、突然強い風が吹き、風に乗ってフワッと優しい匂いがした。


僕の目の前に蒼ちゃんが立っていた。


(うわっ、蒼ちゃん)


蒼ちゃんは、バスから駆け降りてきた僕にビックリした様な顔をしている。


(ヤバッ!!気を抜いてた)


僕は、恥ずかしさのあまりに目を反らして学校へ向かおうとした。


そう思い顔を反らそうとした時、卒業式の帰りの場面と重なった。


あの時も逃げた…。


また、逃げ出すのか?

外見を変えたって自分が変わらなかったら同じなんじゃないのか?


時間の修正の次は、自分の修正だ。


肩の力を抜いて、フゥーとリラックスする為に一息吐いた。


「おはようございます」

笑顔で蒼ちゃんに挨拶した。


「あっ…おはようございます」


一瞬戸惑った蒼ちゃんも、優しい笑顔で挨拶してくれた。



(自分らしくいこうよ。焦らなくて良いんだ)


気持ちが、ほんの少しだけ軽くなった気がした。


突然、蒼ちゃんの携帯が鳴った。


「あっ…私の」


そう言うと蒼ちゃんは電話に出た。


その様子を見て僕は、頭をペコリと下げ学校に向かった。


目の前には、アーチ状の校門がある。


僕は、立ち止まって目を閉じた。


この、一歩を踏み出したら楽しい事やツラい事も有るだろうな…新しい友達も、嫌いな(赤毛が目に浮かんだ)人も出来るだろな。

でも、何にしても絶対後悔しない道を進む。


心の中でそう決めた。


(新生…真田欧介……行きます!!)


そう呟き、僕は強く、大きな一歩を踏み出した。


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