五ヶ所目 8(大河)
一瞬、肌で感じた冷めた空気。
アイツは、欧介は……何を言っていたんだ。
ブロリー?
新種の緑黄色野菜か何かなのか?
自分は品種改良された全く新しく、洗練された存在だと……野菜に例えて言いたかったのだろうか?
いや。
欧介は、追い詰められてそんな事を口走る男では無いな。
俺は、今食事をしている。
不覚にも、阿呆に騙された。
まだ……内輪での食事であれば許せる。
嫌な気分では、無いからだ。
だが、何故か千代菊女子と一緒にディナーを共にしている。
共にしているだけでは無い。
俗に言う〈合コン〉に俺は身を置いている。
今し方、綾瀬ほのが自己紹介を終えた所だ。
彼女の笑顔は、花の笑顔に近い。
まぁ、あくまで近いだけだ。
俺は花の笑顔しか認めない。
幼い頃から変わらない、花ちゃんの笑顔。
変わらないと言えば……蓮の阿呆さ加減も変わらないか。
うん?
先程から、いや席に着いてからか……姫と呼ばれている女子から視線を感じる。
何なんだ、この女?
正直、ずっと視線を投げかけられるのが鬱陶しい。
あまり他人にジロジロ見られるのは好きではない。
慣れていると言えば、慣れているが。
やはり気分が良いものではない。
いい加減、顔面に笑顔を貼り付けているのに疲れてきた。
演技を辞めて、睨み返してやりたいという気持ちも、沸々と湧いてきたのが正直な気持ち。
そんな事に思いを巡らしていると、新たな自己紹介が始まった。
ボブヘアーの女子が、照れ臭そうに立ち上がった。
世間一般で言う……「可愛い女の子」という部類に入るだろう。
それは、目の前の他の三人にも言える。
「私は、真山美月です。は、初めまして!?あっ違うっ、初めましては最初に言うんだったかな……えっと……」
何なんだ……明らかに挙動不審だ。
この女子は、さき程まで、比較的落ち着いていた気がしたが。
「みぃちゃん。落ち着いていて、落ち着いてぇ。この日の為に、髪の毛も可愛ぃく切って準備してたんだからぁ。四人で誓った、千代菊完全勝利宣言を思い出そうよ!」
綾瀬ほのが、ピースをして高らかに叫んだ。
多分、美月にエールを贈ったんだろう。
だが……幾つか余分だろうな。
勝利宣言とは何の事なんだ?
聖蘭に恨みでも有るのか?
「うぅ…ほのちゃん!?それは言ったらダメな事なのにぃ……みんな引いちゃうよぉ~」
美月の顔から困惑した気持ちが滲み出ている。
「きっ、気にしないで下さいね!?ほのが言ってるのは嘘だから」
茜とか呼ばれている女子が、両手を振った。
その焦り具合が信憑性を濃くしてるのに気付かないのだろうか。
「ハハッ!みぃちゃん、大丈夫だって!俺達、イケてる聖蘭カルテットは絶対引かないからさ。むしろ、気合い入れてくれて嬉しいもんなぁ。そうだろ?オースケ、ハナぁ!」
阿呆が威勢良く笑う。
「うん!そ、そうだね」
「僕も嬉しいなぁ、エヘヘ。それに、ボブヘアー凄く似合ってますよぉ。可愛いぃ」
相変わらず噛んでしまう欧介と、ニッコリ笑う花。
「それにオースケなんてさ、気合い入れ過ぎちゃって真っ赤なTバック履いてるなんだぜぇ。Tバックのキレが、エグいのなんのってもう」
「うん!今日はティ……えぇっ!?」
「へぇ~欧介君、Tバックなんだぁ!ほのは、履いた事無いよぉ。どんな感じかな?お尻がスースーするのかなぁ?今度、履いてほきゅあ!?」
「コラ、ほの!?女の子なんだから止めなさいって」
「わ、私の自己紹介がメチャクチャになっちゃったよぉ……」
綾瀬は、茜に口を塞がれ、美月はその横でオロオロしている。
金髪の女は、笑顔で三人のやり取りを見ている。
あくまでも何となくだが、金髪の事だけは引っ掛かる。
他の三人とは、違うオーラを感じると言えば良いのだろうか?
いや、今は気にするまい。
だが用心をするに越した事は無いな。
ふいに頭に過ぎったが、他の人間から見た俺達のやり取りも、実際こんな感じなのか?
目の前で繰り広げられている茶番。
ふっ、こんなムチャクチャなんだろうなぁ。
茶番は、茶番だが……まぁ、もう少し付き合ってやるか。
新しい自分へ成長出来るかもしれない。
それに……友との時間なのだから。
「真山さん、宜しくお願いします。僕も真山さんに負けないぐらい、今日は楽しみでしたよ。さぁ、次の方は……」
俺は、とりあえず先に進める流れを作った。
大河視点です。