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上手な修正液の使い方  作者: 和紙
62/70

五ヶ所目 6

 彼女の笑顔を僕は食い入るように見つめてしまう。


目を逸らそうとしても僕の中の何かが、断固に拒否していた。


この女の子と以前会った……のか?


膨大な記憶に検索をかけたが、脳内のどこにも引っかからない。


いや検索する事すら愚かな行為だろうか。


目の前に居る……こんなにも美しい女の子と以前会ってたら、忘れる事なんて有り得ない。


「え、えっと、あたた、会った、た……かな?」


「あの……何を言ってるのか分からないです。少し落ち着いて……下さい」


「オースケ、コラァー!鉄拳制裁だ、コイツめっ!」


「あ、痛ぅ」

朗らかな調子で、まるで悪戯っ子を優しく叱るような、そんな蓮の声を聞いた途端、脳天に重く痛みが響く。


どうやら、ふとどきな僕の様子を見かねた蓮が、僕の脳天に鉄拳制裁を下したようだ。


なんか……痛すぎて、冷静に痛みを知覚出来た自分が居ますね。


でも、そのお陰か彼女から、ようやく目を逸らす事が出来た。


心做しか、僕の記憶が何個かデリートされた気がしないでもないが。


「うわぁ……痛そう!大丈夫?やりすぎよ蓮君」


心配そうに、僕を見つめる茜ちゃん(だっけ?)。


って!

くほぅ、女の子に心配されるなんて、蒼ちゃん&ユズちゃん以来だ。


幸せな気分過ぎて浄化……されて……いく……。

「い、いや良いんだよ」


今更ながら、見つめ続けていた事に恥ずかしさが込み上がってくる。


「あ、あの……すいません」


「いいえ、気にしないで下さい」


金髪の女の子は、明らかに困惑した顔で笑う。


他の子達も、クスクスと笑い合っている。


ま、間違いない。


今までのやりとりで、キモ男と認定されたに違いない。


明日から菊女で笑いのネタにされるんだろうなぁ。


緊張や期待で胸が高鳴る時間……生まれて初めての合コンが始まる前に終わった。


そうだ!

これからの時間、話が僕に振られる事は無いんだぁ。


もう帰ろ……っかな。


すごく残念だが、この結果を導いたのは、他の誰でもない自分な訳だ。

ある意味、僕がこの場から消えても何の支障も出ないのだ。


「えっと、あの、じゃ……僕は……これで」


「どうしたのかしら?」


金髪の女の子が、腰を浮かし始めた僕に不思議そうな顔をする。


うっ、見つめられて動けない……。


「そ、その……」


「座って、自己紹介を始めましょうよ」


そう言って、また笑顔になる。


輝くような、華やかで美しい彼女の笑顔。


そんな煌めく笑顔を見た僕は、気付くといつまにか座っていた。


「ふわぁー!出たぁ、姫ちゃんの必殺技ぁ!」


「ふふっ。ほの、誤解を招くような事は言わないで欲しいわ」


姫ちゃんと呼ばれた子は、僕に向けた煌びやかな笑顔を、ほのちゃんと呼ばれた女の子にも向けた。


「ぎゃふぁあー、ほのにまで姫ちゃんスマイル向けないでぇ、体が火照ってきちゃうぅ」


ほのちゃん……この子の感性、凄く親近感湧くなぁ。


「茜ちゃん、私……すっごく恥ずかしいよ」


「みぃ……私も同じ気持ちよ」


みぃちゃんと呼ばれたボブヘアーの子と、茜ちゃんが恥ずかしさを噛みしめるように俯いた。


ふと、隣に座っている花君が楽しそうに笑っていることに気付く。


「どうしたの花君?」


「エヘヘっ。何だか楽しいなぁって思ったんだぁ」素直な言葉を口にする、花君。


そんな花君の素直で、真っ直ぐな気持ちを聞いて、何だかすごくリラックス出来た。


「確かに、楽しいね」


花君の言葉で、ようやく僕も合コンのスタート位置に立てそうだ。





気付けば、料理が続々と運ばれてきて、テーブルを占拠していく。


どの料理も食欲をそそり、今にも手を伸ばしてしまいそうなわけで。


「マナー違反だ欧介。はしたない真似は顰蹙ひんしゅくを買うぞ」


やれやれと言うように小さく笑顔を浮かべ、僕の右腕を手を添えて制する大河君。


大河君の言葉で、無意識に僕の右手がナイフを握り締めてることに気付く。


「あわっ!う、うん。ゴメン……気づかなかったよ」


大河君、ありがとう。


「ドキドキ、ドキドキ」


何故か……ほのちゃんは目を潤ませて艶っぽく輝かせ、胸元でギュッと手を握り締めている。


「えっ?ど、どうしたの」


「目の前にBLてんか……」


「き、気にしないで下さい。さぁ!自己紹介しましょうよ」


ボブヘアーの子が、手を叩いて先に進むよう促した。


その横で、茜ちゃんに双肩を掴まれたほのちゃんは、グラグラ揺られていた。


「よっしゃ!四人の睦まじい会話を聞いた所で、自己紹介ターイム」


勢いよく天井に拳を突き上げる蓮。


拳速で空気が震えた気が……。

それぐらいテンションが上がってるって事らしい。

「きたぁ、待ってましたぁ。イエーイ自己紹介タイムぅ」


蓮に負けないぐらい、勢い良く天井に向けて拳を突き出す、ほのちゃん。


うん?


微妙に頭がユラユラしてるような……。


だが、そんな事は、ほのちゃんがつけてるフレグランスの甘い香りを嗅いだ途端、どうでも良くなった。


だって、心と体がザワッと反応するんですもん。


強いていえば、体が特に。


「ホノちゃんのノリ良いねぇ。そうゆうの大好きだわ!まぁ、俺は自己紹介する必要ないと思うんだけど、この際だ!御存知の中村蓮だ。結婚歴なし、犯罪歴なし、現在素敵な彼女募集中、好きなタイプは……優しさの中にも厳しさを持つ人だな。あと美味い味噌汁。今日は宜しくね、楽しもうな」


最後にニカッと悪戯小僧のような満面の笑みを浮かべる蓮。


「イエーイ、蓮君ヨロシクぅ!ほらほら茜ちん、みぃちゃん。もぉー!姫ちゃん関係ない顔するなぁ~」


両脇に座っている、茜ちゃんとみぃちゃんの手を掴んで、はしゃぐほのちゃん。


「ちょ、コ、コラ!ほの止めなさいよ」


「わ、私達に構わないで、ほ、ほら自己紹介続けて……ね」


みぃちゃんに促され、花君に自己紹介が移る。


「えっと、良いのかな?先に進んじゃって……うん、僕は森島花って言います。今日は、どうか仲良くして下さい」ニコッと笑う花君。


途端に、ピタリと動きを止める女の子達。


おぉ、花君の伝家の宝刀は今日も切れ味抜群だ。


「ほょ……笑顔可愛いぃ。何かさ、浄化されていく……花君仲良くしてね」


「コラ、ほの!男の子に可愛いだなんて失礼よ。か……可愛いけど……すごく」


「ふぅ、不覚ぅ……!ほのちゃんの相手に夢中だったんだからぁ。さ、さぁ……気にしないで、続けて下さい」


ほぼ同じタイミングで頬を桃色に染めた、ほのちゃんと、茜ちゃんと、みぃちゃん。


三人は騒いでいた格好のまま、変な体勢で花君の笑顔に釘付けになったようだ。


アハハ。

今日も花君の笑顔は、切れ味抜群だな。

いつも一刀両断されてばっかりの、僕が言うのも何だけど……。


「春日大河です。本日は、千代菊女子の皆さんと知り合えて光栄です。よろしく」


髪を触りながら、照れたような笑顔を浮かべる大河君。


前髪を弄る仕種が、とても優雅。


「王子様ぁ……。私の全てをアナタに捧げます……」


今まで以上に、ぽぉっと頬を染める、ほのちゃん。


っうか、凄い事を口走ってる気が……


大河君の決して内輪には見せる事のない、完全な外向けスマイルに射抜かれたのは、ほのちゃんだけでは無かったようだ。


茜ちゃんも、みぃちゃんも頬を染めて、見るからにポワっとしている。


「こちらこそ宜しくお願い致します。大河さん」

天使の微笑みを浮かべる、姫ちゃんと呼ばれた美しい彼女。


彼女まで笑顔にさせるとは。


大河君、君の姿と人生を僕に下さい。


いや今すぐ、入れ替わって下され!


そんな事を思っていたら、女の子4人の視線が僕に注がれている事に気付いた。


「ほらほらぁ、最後は君の番だよ。欧介君」


もう自己紹介しなくても、名前知られてるよね?


そんな言葉が頭に浮かんだが、口には出せなかった。


だって緊張し過ぎて、口の中がカラカラですもん。


「ほらぁ、オースケ!バッチリ決めてやれや。いつものアレでよ」


力強いガッツポーズを僕に向ける蓮。


ち、ちょっと待ってよ。

いつものアレって何です?


「大トリ登場だね。欧介君、真打ちの力……お馴染みのヤツを見せてね」


花君は、親指を立てて微笑んでいる。


あの……すっごい、やり辛くなってるのは気のせいだろうか!?


だ、大丈夫だ!


最後の常識人、大河君が助けてくれる筈!


大河君なら、きっと助……。


「フッ、これは見物だな」


今この瞬間、神は死にました。


こうなったらヤケクソだ!


見せてやるよ、いつものアレを!


僕は静かに立ち上がる。


「いつものヤツって何かな?ほの楽しみぃ」


「ほのちゃん、静かに」


みぃちゃんに、制されるほのちゃんが視界に入った。


だが、もう止められない。


迷いは無かった。


「ブ、ブロリーです」


後の事を考えず、自分が思い付く精一杯の自己紹介ネタを叩きつけた。


久しぶりの更新でした。


また書きます。


和紙でした!

では!!

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