五ヶ所目 4
泉橋のバス停に降り立った。
バスに乗ったまま、僕の元から去っていく蒼ちゃんに手を振る。
このまま二人で帰りたかったなぁ。
結局、蒼ちゃんを泉橋で一緒に過ごそうぜ!とは誘えなかった。
脳内で、誘いの言葉を反芻するだけで口に出すことは出来なかった。
そのままバス停のベンチに座り、自分の進歩の無さを噛み締めなていると、ズボンのポケットに入れている携帯が、僕の太ももを優しくバイブする。携帯を取り出しディスプレイを確認すると、蓮の名前が浮かんでいた。
遅いから怒ってるんだろうな。
そんな不安を感じつつ、通話ボタンをゆっくりと押す。
「もしも……」
「オースケェ!?ようやく繋がったぜ!やったなぁ!お手て繋ぎは楽しかったかぁ?」
威勢の良い調子でまくしたて、カラカラと笑い出す蓮。
「うぇっ、何で……」
「見てたんだよ、俺ら三人で一部始終な。バッチリと!あぁー見ててドキドキだったぁ!手を繋いじゃうは、後ろの学生達からは大ブーイング受けてるわ!ハハッ」
そんな……どこで見てたんだよ。
「まぁ、そんな事より早く来いよ!俺らは、カフェ〈カンタータ〉の前に居るからよ!早く来いよ、じゃあ……」
「ちょ、ちょっと待って!?カンタータってどこ?」
電話を切ろうとする蓮を慌てて制する。
「あぁっと、オースケ場所分かんねぇか!、悪ぃ悪ぃ。バス停から……」
蓮に言われた道筋で、カフェに向かう。
辺りを見回せば、蒼ちゃんが言ってたように、お洒落で真新しい建物が至る所に建ち並んでいる。
それにお洒落な女子高生や大学生がひしめいている。
何だか、場違いだなぁ。
この場に、不釣り合いな自分に恥ずかしさを感じながら道を進む。
あぁ、そうか。
歩み進めながら、ある事に気づく。
さっきから何人も同じセーラー服を着た女子高生とすれ違って居るが、泉橋には女子高が有ったんだ。
千代菊女子高校。
この近辺の男児なら一度は恋い焦がれる。
菊女。
女子中学生が行きたい女子高NO1と言えば、ココだ。
それに男子高校生が、彼女にしたい女子高生NO1でもある。
菊女は、この地域に残された最後の楽園と密かに呼ばれている。
校内には草木や色とりどりの花が咲き誇り、妖精、エルフやセイレーン、天女、ドリュアド、エキドナ、ゴーゴンが住まう高校だとか。
うん……まぁ、それは無いと思うが。
誰だよ、こんな変な妄想広めたお馬鹿さんは!?
でも、校長が自ら生徒の美意識、仕草、気品を糺していると聞く。
それに各学年に……。
「オースケ!ここだ、ここ」
脳内の引き出しから、菊女の情報を手繰り寄せていると、ふいに蓮が僕に向かって手をブンブン振っているのに気づく。
気付かない内に、カフェの近くまで来ていたんだな。
菊女の事に、すっかり夢中になっていた。
「よぉ、幸せ者の果報者!」
会うやいなや、蓮がイタズラっぽく笑いながら僕を小突く。
「み、見てたなんて知らなかったよ!あ、あれは……」
僕の言葉を遮るように、花君が突然歩み寄った。
「ゴメンね、ま……また欧介君に迷惑をかけちゃって……僕」
言いながら、花君が肩を落として驚くような負のオーラを滲み出している。
どうりで花君の周りだけ、何だかドス黒いと思った……。
「うわぁ!は、花君!?いや気にしてない、気にしてないからさ全然!だから元気出してよ!」
この花君の雰囲気は、あの学校の時と同じだ。
な、なんとかして花君を元気づけなきゃ!
今からの展開が、壊れちゃう!?
「本当に気にしてないかなぁ……迷惑じゃなかったかなぁ?おぅすけ君……」
涙を浮かべ、許しを乞うような表情で呟く。
うっ……くぅうっ、そんな目されたら、ギュッと抱き締めたくなるじゃない。
い、いかん落ち着け。
「全然、全く!むしろ花君が押してくれたおかげで、蒼ちゃんと手まで繋げたし、なんと映画館まで送り届ける約束まで出来たんだよ!最高にラッキーですもん。蓮の言うとおり、僕は果報者だぁ!ありがとう、花君のおかげだぁ」
「ほぇっ、映画館に行くのぉ?」
涙目で、驚いたようにキョトンとする花君。
「うん。そうなりました」
「そっかぁ。映画館に行く約束出来たんだね。そうなんだ、そうなんだぁ。僕は役に立てたんだねぇ、良かったぁ」
涙を拭いながら、満面の笑みを浮かべる花君。
ふぅ……良かった。
やっぱり花君は、この満点笑顔じゃないとね。
安堵して居ると、肩に誰かが手を載せる。
振り向くと、大河君が小さな笑みを浮かべていた。
「ありがとう、オースケ。俺から礼を言わせてもらう」
「えっ、何が?」
「解らないのなら、良いさ」
笑みを浮かべたまま、肩から手をどける大河君。
まぁよく分からないけど、気にしなくても良いのかな?
「やったな、オースケ!蒼っちと休日デートかぁ。よっしゃ、この勢いで今日も頑張ろまい!よっしゃ、みんな友達!奇跡の全員大集合!ってか!?さぁてカフェに入ろうぜ、もうお待ちかねだぜ」
蓮が、いつも以上に豪快な笑いを飛ばし、店の扉を勢いよく開いた。
「よぉし、カフェで欧介君の話をたくさん聞いちゃうぞぉ、けってぇ〜い!」
花が天を指さして、ピョコンと宙に飛び上がった。
うん?
なんか聞き覚えがあるセリフだな?
まぁ今は良いか。
「ふっ悪くないな。でも花、お前の話も話さねばなるまい?」
大河君が、花君に釘をさすように呟いた。
その表情に、なんとなくサドっ気を感じるのは僕だけでしょうか?
「うぅー。やっぱり話さなきゃなりませんかぁ。僕も話す事……けってぇい」
さっきとは、うってかわって弱々しく呟く花君。
まぁ何にしても、このカフェで楽しく4人で話せるって事は間違いないかな。
店に入ると先頭の蓮が店員の女性に、手を振りながら話しかけた。
「ふふっ、お待ちしておりましたぁ。こちらですよぉ」
「はぁい、どこまでも着いていきますよ!べっぴんなお姉さん」
蓮が元気よく、女性に笑いかける。
うぅーん、蓮のこうゆう所に憧れるなぁ。
僕も……さり気なく、べっぴんさんとか言えたらなぁ……。
店員に連れられ、店の奥へと連れられていく僕ら。
「こちらの奥のテラス席です。先にお連れ様がお待ちかねですよ」
お、男四人でテラス席かぁ。
うん?
お連れ様?
「べっぴんなお姉さんに案内されて、すっごい良い気分だなぁ。ありがとう!さてと……」
お姉さんと楽しげに話していた蓮が、急に僕に向き直り僕の髪を弄り始める。
「えっ?」
僕の疑問符にも、無反応に髪を弄り続ける蓮。
「よっしぃ髪型準備完了!男前になった、オースケ」
「えぇっ?男前って何が?」
蓮は僕の言葉を無視して、次に花君の目尻に触れる。
「涙の跡……なしだな!ほら、ハナぁ笑ってくれ」
「わ、笑うの?……こうかな?」
「その笑顔、最高だなぁ!花の笑顔でイチコロにしてくれて良いからな。よし、じゃオースケと手を繋いでくれ」
蓮は、花君の頭を軽く撫でた。
「ふぇ?手……」
僕と花君は、お互いに目を見合わせて、言われたまま……手を繋いだ。
「俺さ、お前らのそうゆう素直なトコ大好きだわ」
手を繋いだ僕らにニカッと笑顔を向け、やがて真剣な表情で蓮は大河君の前に拳を差し出した。
「……何だ?」
「タイガ、手を出せ」
真顔で言葉を交わす二人。
「何故?」
「お前に渡したいモノが有るからさ」
疑うような眼差しを向け、しばらくして大河君はゆっくりと手を差し出した。
蓮は、拳を解いてゆっくりと大河君の手を握る。
「阿呆……気色悪い、離せ」
不快感を露わにした大河君の言葉を完全に無視して、同じように片方の手を花君と繋いでいる僕の手を掴む。
蓮は、ゆっくりと僕らを見回して呟き出す。
「さっきに言っておく……お前らの恨みつらみは明日聞く!侠の約束だから……だから許せ!さぁて今日は、楽しもぉうや。侠の闘争の場だぁあ」
そのまま蓮に、凄まじい力で引かれる。
ほ、本日引っ張られるの二回目だぁぁー!!
一瞬、今自分が居る空間から別の空間に弾き出された。
そんな不思議な感覚に襲われた。
「茜ちんとお友達ぃ!お待たせぇ、蓮と愉快な仲間達の到着だぁ」
直後、蓮が元気良く叫んだ声が耳に入る。
その声で、不思議な感覚が吹き飛んだ。
いや感覚が吹き飛んだのは、僕の視界に四人の女の子の姿を捉えたからだった。
目の前には夜景が映し出された大きな窓、そしてこちらを四者四様に見つめている四人の女の子達。
夜景の光を纏った女の子達は、すごく幻想的で見とれてしまう。
って、待てぇい!
見とれてる場合じゃないぞ!
どゆこと?
このいきなりの展開は!?
これって……。
「れ、蓮これって?もしかして……」
「前に言っただろ?合コンするぞって!だから今日、決行したんだぜ!菊女と合コン」
してやったり!と言うように、顔をニヤリと歪める赤い悪魔。
だよね…やっ、やっぱり合コンですよね!?
誰が見ても分かるよね。
しかも相手は、菊女ですってぇ!?
今この瞬間、聖蘭男子四人と千代菊女子四人の他校交流親睦食事会……端的に言えば合コンが幕を開けた。
侠の闘争の場編、本格始動しました!
新キャラ……しかも女の子四人登場させちゃいます。
さて、聖蘭四人組とどう関わるのか……魅力的な話を書けるよう頑張ります!
コメントや評価をお待ちしています!
和紙でした!
では!!