五ヶ所目 2
蓮を先頭に、僕ら四人は校門を出てバス停に向かっている。
「おらおら!いくぜ野郎ども!この蓮様に付いて来いや」
威勢よく手をパンっと鳴らし、高らかに叫ぶ蓮。
うほっ!
い、いつも以上にテンション高いなぁ……。
さてさて、どこに連れて行かれるのか。全く見当もつかない。
まぁ、楽しめるのは間違いないけど!
久しぶりの四人での〈お戯れ〉だし。
二人が険悪ムードにさえ、ならなければ……だけど。
歩きながら、四人で他愛ない話を交わす。
「そいえば……報告があります」
花君が控えめに手をあげる。
「発言を許可する、ハナ」
「ちっ、阿呆が」
蓮に向けての舌打ちが、大河君から放たれる。
「ちょっと前に、違うクラスの女の子にアドレス聞かれちゃったんだ」
ふむふむ。
最近、花君が他のクラスの女の子から携帯のアドレスを聞かれたのか。
……えっ何?
最近……アドレス聞かれちゃたんだ。ですとぉぉお!
「おおぉ!初耳だせハナぁ、マジかその話」
蓮が花君の肩にガバッと組みつく。
「うん……この前さ独りで廊下に居た時に、女の子が走ってきてさ。ビックリだよ」
「かぁあ!羨ましいねぇ。んでさ、誰?何組?顔は?スタイルは?何系?どんな……」
「落ち着け、阿呆。花が困惑しているのが見えないのか?」
大河君が、蓮を窘めるように目を細める。
「これが落ち着いて居られるかぁ!?ダチが乙女を恋の迷宮に叩き落としたんだぜ?うら若い乙女だぜ?どんなんか、タイガだって聞きたいだろ?オースケ、お前も聞きたいよな?」
多分、手をワラワラさせるって言うのは、今の蓮がしてる動きなんだろうなぁ。
って、解説してる場合じゃない!
「は、はぃ!僕もぜひ聞きたい!」
もちろん手を高々と上げる。
手をあげてしまう衝動にかられた結果だ。
「やれやれ……全く。恥ずかしいヤツらめ」
大河君が顔をしかめ、小さく笑う。
彼のこの顔に、どこか優しさを感じるのは、僕だけでしょうか?
……って、気づけばバス停が目前ではないかぁ!
バス停近くで手を高らかに上げながら歩いてる、僕って……。
あぁ、やっぱり。
反対側のバス停の人から僕に何やら生暖かい視線がぁ。
「あわわ……落ち着いて蓮。欧介君ったら分かったから、手を下ろしてよぉ。うぅんと貰った紙が鞄に……あっ、あれ」
鞄に手を突っ込みかけた花君が、何故か唐突にバス停を指差す。
「おいおい、ここでお預けかよ?お預けなら昨日、散々ユズに……って、おっ!オースケ」
蓮が何か口走りながらバス停を見て、僕に向き直る。
「今日は、騒がしい夕暮れになったな」
大河君が、何かを楽しむような笑顔を浮かべる。
「えっ何が?何か特別なモノが見えたのかな?……何も特別なモノなんて……あっ、あれは」
蒼ちゃんがバス停に居た。
さっきは、人の陰に隠れて見えなかったが今はハッキリと確認出来る。
ぽぉーっと僕が蒼ちゃんの姿に見取れていると、蓮が僕の目の前に回り込んだ。
「ここからは、オースケが一人で歩いてくれや」
滑るようなステップを踏み、脇に避ける蓮。
こっ、この動きは……ト〇
あぁ嬉しくて変なテンションに。
いやでも、一人って?
何故にぃ?
「ほぉお〜そうゆう事ですかぁ。ナイスですねぇ、偉いよぉ」
花君が背伸びをして、蓮の頭を撫でる。
だが今は、そんな花君のキュートな行動を気に留めてなんていられない。
「ナァハハ!ダチの色恋を手助けしたまでよ。ハナの手は柔っこいな」
ほんわかムードの二人。
でも今は、ほんわかムードなんて気にして居られないんだぁ!
混じりたくたって、気にして居られないんだぁ!
「阿呆のクセに、珍しいな。……行くのか欧介?もうバスの到着時刻が迫っているぞ」
大河君が、金無垢の腕時計で時刻を確認する。
「うえぇっ、行っちゃって良いんですか?い、今から遊びに行くんじゃ?」
「イッて来いや、オースケ!あぁでも最後までは、蒼っちとイクなよ!お前がイッて良いのは、泉橋までだ」
う、うん?
明らかに一部、変なイントネーションが入っている。
ま、まぁ気にしないでおく。
「泉橋で降りれば良いの?……割とココから近いね」
バス停、2つ向こうではないか!?
あ……あんまり蒼ちゃんと話せなぁい。
ちくせう。
「ほらほらぁ、一時の幸せを味わってきなよぉ。欧介君」
「わぁ、わぁ花君!押さないで、ちょ、ちょい」
花君の柔らな笑顔には、不釣り合いな強靭な力で蒼ちゃんの元にグイグイと押されていく。
「ほらぁ、一丁上がりぃ。ばいばぁい欧介君。また後でね」
最後にゆっくりと、しかし力強く突き出され蒼ちゃんの前に躍り出た。
いや、飛び出したの間違いか。
可愛い顔して、すっごいなぁ……花君。
「え……えぇ、欧介君?」
「おっ、お疲れ様ぁ、蒼ちゃん」
キョトンとする蒼ちゃんの顔を見つめていると、バスが定刻通り到着した。