四ヶ所目 27(蓮)
久しぶりの更新で、すいません。
今回は蓮と柚夏の話です。
今頃、二人は上手くやってんだろか?
オースケと蒼っち。
太陽が地平線の彼方に消え、夜の気配を窓の外に感じながらダチへの想いを巡らせる。
まぁ俺が心配しなくても、オースケなら蒼っちと楽しく過ごしてるだろな!
でもアイツのテンパってる姿が、目に浮かぶぜぇ。
ハハハァ!
っとお、そろそろアイツが来る時間か?
時計を見ると、もう間も無く18時になる。
今日は幼なじみの柚夏が勉強を教えにくる。
幼なじみ。
独り暮らしのマンションで勉強。
夕暮れのイケない×××。
おぉい!
完全にロマンスが生まれちまう展開だぜ!?
なぁんてな。
そんな展開は俺とユズには無ぇよ。
「蓮!今日は家に行ってあげる!テスト勉強を見てあげるんだからね!いきなり蓮が赤点なんか取ったら、蓮のお母さんに申し訳ないんだからっ!」
実際は、ユズが一方的な調子で、勝手にぬかしやがっただけだ。
母ちゃん……恨むぜぇ。
ユズにヨロシク頼んでくれた事をよぉ。
ユズは、ガキの頃から俺に説教をしてきやがる。
高校でも会う度に、有り難いお小言を聞かせてくれる。
お馴染みの、腰に手を据えるスタイルで。
何だっつうの!
俺は親のカタキか?
末代までの祟りか?
もう幼なじみってか、腐れ縁だ!
まぁ良い意味でも、悪い意味でもさ。
そうこうしてる内に、玄関のドアがドガバガとかなり乱暴に叩かれた。
あぁ、噂をすればなんとやらだな。
「はい、どちらさん。ちなみに新聞の勧誘なら遠慮する。間に合ってるんで!あとピザと蕎麦は頼んでないから、ドアは開けられない」
8割の確率でユズだと思うが、取り敢えずインターホンに向かって言葉を投げかける。
もしかしたら新聞社や何かのデリバリーの可能性も……。
「私だよ、ユズっ!」
その可能性は露と消えた。
あぁ知ってるぜ!
そんな意味を込めて舌打ちをかました途端、ユズがギャーギャーと騒ぎ出す。
「もぉ!早く開けてよ。女の子を玄関に立たせておくなんて、本当にデリカシーないわね!バカ蓮のくせに!早く開けてよ、開けなさいよ!!玄関先に居たら恥ずかしいでしょ!」
恥ずかしいとか言いながら、よく大声でドアぶん殴れるよな。一抹の疑問を抱えながら、買い言葉を返す。「うるせぇなユズ!ドアがぶっ壊れちまうだろ!ったく何しに来てんだよ」
もう一度舌打ちして、ドアを開けるとユズが腰に手を据えて、ギュッと眉間にシワを寄せて俺を睨んでいる。
ハハッ、この顔を見るとデコピン喰らわせたくなるぜ。
「バカバカバカー!蓮!!早く開けなさいよ。来るまで暗くなりかけで怖かったんだからね、私!……部屋に入るから退きなさいよ」
俺の腹をグッと押し退けて、部屋に入るユズ。
いや……押し入ってきたの方が、正しいか?
「あぁもう、男臭い!部屋を丸ごと洗濯しちゃいたいわ。今度消臭剤買いに行くんだからね、私と二人で!あぁもう、部屋も散らかってるし!」
「お、おい!入ってそうそう、あんま触んないよ」
あんまり物色されるとと、秘密の弥生ちゃん(大きいお友達Ver)シリーズが見つかっちまうぜ!?
「良いじゃない、減るもんでも無いんだから。それとも何よ!何かあるわけぇ?」ギュッと目を細めるユズ。
あぁクソ!
この小生意気な表情を見ると、ユズの頬を堪らなく抓りたくなるぜ!
そんな衝動にかられながら、俺は。
やっぱり頬を抓ってしまった。
左右からの感触を楽しみながら、蹂躙するうにグリグリとな!
だけど過度な痛みは感じさせない。
そんな案配のグリグリ。
まぁ仕方無ぇよ、我慢は俺自身の体に良くないし。
抓られた時のユズの反応が、楽しくて堪らないんだからさ。
「ふぅがぁー、れん!?やめへよ!やめなぁはい」
「おぉ?何だって?ふぅがぁーしか聞こえないぜ」
「ふ、ふぅがぁー!はいてぇよ、ふぉんなほこにふぉんなこほすふなぁんふぇ!(最低よ女の子にこんな事するなんて!)」
とまぁ、こんな状態でも何となくユズの言葉は分かる。
俺って、将来はバイリンガルってか!?
「最低って、誰の事なんだろうな?ふぅがぁーってヤツの事かな?ハハッ」
「きはいきはい!ふぇんなんふぇ、らぁいっきはい!ふっくぅ(嫌い嫌い!蓮なんて大嫌い!うっぐぅ)」
嫌い嫌いと連呼しながら、悔しそうに涙を浮かべるユズ。
ヤベッ!
もう泣きやがった?
こんなにユズって泣きやすかったか?
「な、泣くなんて卑怯だぜ。泣くことないだろよ」
急いで、両頬を弄んでいる指を離す。
「ア、アンタのせいでしょ……うぅぅ。」
俺に抓られ、桃色に染まった頬にユズの涙が伝っていく。
ガキの頃から、何回こんなやりとりが有ったんだろうな。
何度見ても、見飽きねぇな……何度見てもよ。
「悪ぃ悪いユズ。つい……なぁ。分かんだろ」
「くううぅっ分かるわけないでしょ!一方的にホッペをグリグリされて……全然分かんないわよっ!何回目よバカ」
ハハッ!数なんて数えてねぇよ。
なんて軽いジョークを決めよう思った時、眉間に力を込めて更に涙目で睨むユズの顔が目に入った。
そんな顔で睨むなよ、仕方ねぇな。
「ち、ちょっ……蓮!何よぉ」
「ほら動くなっての、バカ。……あんまに睨むと眉間にシワ出来ちまうぞ。涙拭いてやるから許せよ、柚夏」
掌で優しく涙を拭いてやる。
ハンカチなんて要らねぇ。
涙を拭くのは、やっぱり自分の掌だろ。
ユズにはガキの頃から通じる、俺流の謝罪の言葉ってやつだ。
「し、仕方ないわね。許してあげる!ただしこれが最後の最後だから、次は無いんだから」
「おうサンキュー、ユズ。次も楽しみだなぁ、フニフニぃてよ」
「ふ、ふーんだ!もし次したら……」
まだ涙で艶やかな瞳で、悪戯っぽく笑うユズ。
良い顔するじゃねぇか。
「もし次したら、柳さんから受け継いだ延髄切りだからね」
「おいおい、柳さんの延髄切りとは穏やかじゃねぇな。だけんど、柳さんとは懐かしいぜ」
柳 湊一
通称、柳さんとは、俺の実家に住み込みで働いている渋い兄さんだ。
親父の右腕で、親父がもっとも信頼してる。
昔はかなりのアウトローだったらしいが……今は落ち着いたらしく、俺の事を理解してくれてる大切な家族だ。
「ねぇ懐かしいでしょ。今日は勉強の合間にこの話をしてあげようと、思ってたんだから。でも私、蓮に虐められたからなぁ……たくさんねぇ。ふっふっふ〜ん!どうしよかなぁ」
ちっユズの野郎!
もったいつけやがって。
クソ、久しぶりに中村一家の話が是が非でも聞きてぇ。
こうなったらご機嫌取りするしか無ぇな。
俺の本気を見せてやるぜ。
「そうなんだ。まぁ俺が蒔いた種だからな……でもよ」
ユズの目を見据える。
「今日は楽しい1日の終わりを迎えられるな。もしかしたら久しぶりに実家の話も聞けるし……ハハッ!今からはユズと二人で勉強出来るんだしな。もしかしたら幸せな1日って、今日みたいな日の事を言うんだろな」
「ちょ……蓮、な、何よ急に」
もう一息だな。
柚夏ぁ敗れたり!
「あぁ、ゴメンな……何か急に想ったんだ……幼なじみの柚夏と同じ学校でホントに良かったなぁ!って。俺はユズに感謝してるんだぜ」
声を低くして、照れた表情を浮かべてフィニッシュだ!
「バカ……私だって蓮に……って。何よぉ!も、もぉいいわよ」
プハッ!
ユズ、一丁あがりってか!
「し、仕方ないから教えてあげる。この前ね、柳さんと太一っちゃん、シゲ君に会ったんだ。三人とも蓮の事、心配してたわよ」
「ハハッ、三人と会ったんだ。偶然だなぁユズ。あの三人、ガラ悪いからなぁ。目立つよな」
太一とシゲ。
俺を慕う可愛い奴らだ。二人も俺の実家に住み込んで生活してる。
今は中三だったな。
まだまだ血の気が多くて、ガラも言葉使いが悪いから誤解されるが、俺にとっては可愛い弟みたいな奴らだ。
弟みたいじゃないな、弟達だぁ!
「柳さんも太一もシゲも何だか懐かしいぜ……ははっ!三人とも元気なのか?」
「蓮を心配するぐらいなんだか、元気に決まってるじゃない!」
ふんっと鼻を鳴らし、腰に手を据えるユズ。
「ははっ!確かになぁ!違いねぇ」
「でしょ!あの三人……あっ、蓮を含めなきゃ。アンタ達、四人が元気が無い時なんて無いわよ」
「それは言い過ぎだぜ、俺はデリケートで壊れやすい……」
「はいはぁい、そろそろテスト勉強始めるわよ」
「……デリケートなんだぜ、ウサギみたいに」
まぁ良いか!
よっと、そろそろ準備するべ!
折り畳み式のちゃぶ台と二枚の座布団を床に並べ広げ、あっと言う間に勉強スペースの出来上がりっと!
「さぁ、聖蘭高の入試の時みたいにじっくり教え込んであげる!」
「えっ、ちょい待てや!?じっくり教え込んであげるって……」
ユズの不意打ちに、素でドキっとしたぜ。
「ちが、変な意味じゃない!バカ、バカぁ、バカぁぁあ」
「お、おい!もう分かったから、そんなにちゃぶ台殴んなよ。割れちまうぜ……って!?」
はあぁぁあぁ、木目に変な割れが入ってる。
「ア、アンタが変な事言うからよ」
「もともと、お前が言ったんだろうが!」
「ちゃぶ台ぐらい何よぉ」
ちゃぶ台ぐらいって……これ母ちゃんの嫁入り道具なんだぜ!
もし見つかったら……俺、親父にアボ〜ンされちまうよ。
「いつまで割れた部分を触ってるなんて女々しいわよぉ!ほら、勉強するんだから」
俺の手を掴み、強引にシャーペンを握らせるユズ。
「わ、分かったよ。やるっうの」
「なら、よろしい!」
ユズは満足げにそう言って、自分のノートをカバンから出した。
「おっと、その前に聞き忘れだ」
俺とした事が、すっげぇ重要な事を忘れてたぜ。
聞いておかなきゃならない事だ。
「ミカンは、元気にしてるのか?」
問いを声に出した途端、振り返るミカンの柔らかな笑顔が脳裏に浮かぶ。
俯いて自分のノートを捲っていたユズは手を止めて、俺の目を見つめ、そして微笑んだ
「美柑姉、元気だよ」
「そっか!元気なら、良いんだ」
「さぁ勉強開始なんだからぁ、ビシビシいくわよぉ!覚悟しなさい蓮」
こうして俺とユズの二人だけの勉強会の火蓋が、今切られた。
明日の朝、俺が俺だと認識出来ることを願うぜ。
欧介の話の他に、蓮の話も始まりそうです。
花や大河も動かして行きます。
評価やコメント待っています。
和紙でした。
では!!