四ヶ所目 23
花君の仕草にドキドキしながら、廊下に戻ってくると四組の前に蓮と大河君が居た。
何やら話をしているようだ。
「ただいまぁ蓮、大河君」
花君がニッコリと笑いながら二人に手を振った。
そんな花君を見て、蓮が口をポカンと開けた。
まるで信じられないモノを見たかの様だ。
「ハ、ハナ!どした?むっちゃ笑顔じゃん」
「あぁー酷いなぁ、僕はいつも笑顔なのにぃ」
「えっま、まぁ、そうだけどよ。さっきまで……ははっ」
「はい、蓮!缶コーヒーの微糖だよ」
僕は、蓮に買ってきた缶コーヒーを渡した。
「おおっ……ありがとよ」
缶コーヒーを受け取りながらも、花君の顔を不思議そうに見続けてる。
そんな蓮を尻目に、大河君が僕達の方に歩み寄った。
「欧介、朝の一件は俺とコイツが下手な芝居をしたせいなんだ。すまない」
大河君がバツの悪そうな顔で、静かに謝罪の言葉を呟いた。
「うん……その事なら花君から聞いたよ」
「そうか……」
「あぁ!コイツだと!テメェにコイツ呼ばわりされる筋合いは無ぇぜ」
神妙な様子の大河君に、蓮が食ってかかる。
「ふっ。俺の謝罪が馬鹿のせいで台無しだ。声を荒げてる暇があるなら、お前も謝罪をしたらどうだ?」
深いため息をつく大河君。
完全に蓮を小馬鹿にしている感じが出ている。
あぁ、また口論の予感。
「バカだぁと!俺は今からスバッと謝んだよ!見とけよ、俺の潔い謝りっぷりをよ」
そう言うと、蓮は廊下に膝をついた。
「ちょ、ちょっと蓮!謝らなくて良いよ、僕は気にしてないよ」
慌てて、蓮を立ち上がらせる。
こんな人の行き交う廊下で、土下座なんてマズすぎる。
「だけどよ、オースケに迷惑かけたし……あっあれは、お前には嬉しいハプニングだったかい?」
蓮……アンタ、ホントに謝るつもりあるんですか?
「正直……やっぱ悪ぃわ。オースケ、許してな」
まじまじと申し訳なさそうな表情で僕を見る。
「二人は悪くない。蓮も大河君もゴメンね。全部僕が悪いんだよ……」
花君の声色が、また悲しみを帯び始める。
うはっ、折角花君の元気が回復したのに。
「誰も悪くないんだ。だから謝らないで欲しいな。それに蓮の言う通り、ある意味嬉しいハプニングだったしさ」
本音を三人に伝えていると蒼ちゃんを抱き締めた瞬間の感覚が、一瞬体に蘇った。
うぅぐ、直立で抱き締めたいな。
出来れば柔らかいベッドの上でも抱き締めたい。
その後、後ろに手を回して邪魔なホックを……。
おっと、お楽しみ妄想は家までとっておこう。
「花君も、蓮も、大河君も……僕の為にしてくれたんだからさ。僕は嬉しいんだよ。今までこんな経験ないから」「さすがオースケだ。懐がでけぇな!どっかのニヒルぶった奴とは違うぜ」
横目で何度か、僕と花君では無い人を見て蓮が笑う。
結構……危険な展開だ。
「ありがとう欧介。花ちゃん……」
大袈裟に咳払いをする大河君。
素直に花ちゃんと言葉を続ければ良いのにさ。
「花、俺も蓮も気にしてない。今回は、欧介の言葉に甘えよう」
大河君は笑顔に優しさを感じる。
たまにしか、見れない大河君の笑顔だ。「しかし、残念だ。バカの戯言のせいでオースケの言葉が汚された。あぁ……本当に残念で堪らない」
手をかざし、すました顔でわざとらしく首を振る大河君。
なんだかんだで、僕個人的に二人のやり取りは結構好きだったりする。
「うん…欧介君の言葉に僕は救われたからさ」
「花君……」
「よっしぃ!しんみりするのは、もう辞めたぁ。それよりも……」
花君は、僕の顔を見てキラッと輝く笑顔を向けた。
「今日は、欧介君と蒼ちゃんの放課後個人授業が予定されてるんだよ」
花君にかぎって悪意は無いと思うけど、何か引っ掛かるネーミングだなぁ……。
「うおっ!そうだったな、初めての個人授業〈楠木蒼編〉があるんだった」
蓮は悪戯っぽく、僕に笑いかけた。
「蓮!僕だって怒るぞ」
そりゃ、蒼ちゃんにそっちの個人授業したいけど。
そっち方面のネタで茶化されたくは、無い!
でも、そのシチュエーションは帰ってからのお楽しみ妄想の一つに追加しよう。
「冗談だよ。落ち着けぇえい、オースケ」
楽しそうに笑い声をあげる蓮。
「下らない馬鹿だな」
大河君は、呆れた様子で溜め息をついた。
「んだと、テメェ」
そんなやり取りを聞いてると、授業開始5分前の予鈴が鳴り響いた。
「さぁ、午後からも睡眠学習と洒落込みますか」
蓮が、缶コーヒーを片手にニカッと笑い教室に入る。
「睡眠学習は、学習では無いな。ただの怠慢だ」
そう呟いて後に続いた。
「テスト近いし、落ち込んでた分も頑張ろっと」
すっかり元通りの明るい、いつもの花君だ。
改めて良かったと、安堵して僕も教室に戻る。
そして真っ先に、蒼ちゃんの席に向かった。
「おかえりなさい欧介君。中村君の缶コーヒーは買えましたか?」
笑顔で僕を迎えてくれる、蒼ちゃん。
おかえりなさい欧介君。て甘美な響きなんでしょう。
部屋のドア開けた瞬間に言われたい。
もちろんエプロン姿で。
っと、妄想する前に伝えないと。
「う、うん。コーヒーは買えたよ」
緊張する自分を落ち着かせよう必死に、気持ちを安定させる。
もういっぱい、いっぱいですよ。
「あ、あのさ今日、約束通り数学教えるからさ。じゃなくて、教えたいから。予定は……まだ空いてる……よね?」
「はい」
蒼ちゃんは、ゆっくり優しく微笑んだ。
「もちろんです」
蒼ちゃんの言葉が聞こえた刹那、僕のハートを〈もちろんです〉が打ち抜いていった。
「しょ、しょいつは良かったぁ。では、授業頑張りまひょう」
ダメだ、あんな笑顔見たら骨抜きになるよ。
実際、ハートは打ち抜かれるわ。
骨抜きになるわ。
言葉はおかしいわ。
幸せな大惨事だ。
でも、蒼ちゃんの役に立てるんだから嬉しい。
授業開始を告げる、鐘の音がなり響いた。
僕の心の中には、蒼ちゃんの言葉が優しく響いている。
な、なんと前回から2日で更新!?
半期に一度の執筆スピードです!
和紙自身、驚いてます。
ようやく欧介と蒼の話が書けそうです。
まぁー花ちゃんの話が、うまく纏まらなくて…。
核心は、また後日書きます。
次回からも、読者様に伝わるよう精一杯頑張ります。
コメントや、ご指摘、評価をお待ちしてます。
和紙でした!
では!