四ヶ所目 19
曇り空の下、学校最寄りのバス停に着きバスを降りた。
外の空気には、雨が降りそうな香りが混じっている。
昨日の夜見上げた星空から、今日の天気は予想出来なかった。
もう梅雨だ!
一年でもっとも、髪の毛をセットするのに時間がかかる時期。
気分もシャツもベタ付く季節。
でも、女の子の下着が透けて見えちゃう素晴らしい季節。
これだから梅雨は嫌いになれない。
あぁでも、ちょっと髪の毛がうっとおしくなってきた。
僕は、元々クセ毛なので余計にそう感じるんだと思う。
空は雲っているが、僕の頭と心は快晴だ。今日も彼女と話せる。
しかも、今日は僕が数学を教えるという大義が。
このイベントで上手くポイントを稼げば蒼ちゃんの僕に対する、好感度をupでしょう!
もしかしたら、蒼ちゃんルートのCGも回収出来たり!?
いやいや、二次元世界に例えるのは止めよう。
って、朝からこんなテンションで大丈夫なのか?
自分の中の抑え切れないテンションを沈めようと格闘していると、突然誰かに名前を呼ばれた気がして振り向いた。
目線の先には、車道の後方から原付で向かってくる蓮の姿が見えた。
「オースケ!オースケ、俺だぁ」
蓮がそう僕に向かって何度も叫んだので、周りを歩いてる学生にジロジロと見られる。
あんな大声で叫ばなくても、聞こえてるから。
うぅ…まだ見られてるし。
出来るだけ目線を下げて耐えている僕の目の前に、蓮は停車した。
「よぉ昨日振りだな、オースケ」
「おはよ、蓮」
ニカッと笑う蓮の顔を見て、僕が恥ずかしい思いをしたなんて事を微尽も感じて無い事を確信。
まぁ慣れてるから良いケドさ。
「今日はバイクなんだね。それ見付かったらヤバイんじゃない?」
「寝坊しちまってな、バスに乗り損ねたんだよ。遅刻しても良かったんだぜ、俺は!でもこれ以上遅刻したら、担任がウゼェからさ。あぁ、ちゃんと通学許可取ってるから大丈夫よ」
蓮はそう言いながら、原付をブォンブォンとエンジンを噴かした。
「んな事より、聞いたぜぇ!昨日蒼っちにラブコールしたんだってな」
蓮は僕にイタズラっぽい笑顔を向け、肩を小突いた。
もう情報伝わってるんだ!?
花君の伝達の早さには感心するよ。まぁ、どっちみち報告するつもりだったから悪い気はしないケドさ。
「まぁね、英語を教えてもらったんだ。蒼ちゃん、かなり英語力あるんだよ」
蒼ちゃんの的確な英語訳が、耳に蘇る。
言葉と言葉の間に洩れる息遣いまでも。
「あの子、英語得意なんだな。そいやぁ英語の授業でいつも訳を完璧にしるもんなぁ」
「だよね。だから英語の勉強が捗っちゃてさぁ。あっそうそう、そのお返しに今日は僕が数学を教えるんだぁ」
蓮に遠回しに自慢する。
ってか早くこの事を、誰かに自慢したくて堪らなかった。
「へぇーお前が教えるのか?ったくいきなり仲がよろしい事で」
「いきなり仲良いって訳じゃないよ。それに蒼ちゃんの役に立ちたいからさ、僕」
好きな人の役に立ちたいと思うのは当然だよね。
「カッコ良いな、オースケ。でも頭ん中は蒼っちとの妄想でいっぱいなんだろ?」
「そ、そな事は…」
「ぷはぁ!図星かよ」
元気良く笑う蓮。
真っ正直に、そして真っ直ぐ笑う蓮の笑い方に、僕は憧れている。
「そりゃ、妄想もするけど…」
「男は妄想で生きる哀しい男だもんな。さすがオースケだぜ」
「ま、まぁね。でもさすが、なのかなぁ」
僕のイメージは、やっぱり妄想の塊なのか?
薄々解ってはいたけど、友達からダイレクトに聞くとヘコむ。
もしかして蒼ちゃんもそう思われてるのか?イメージって怖いなぁ。
「あぁ、朝から笑わせてもらったぜぇ。じゃな、教室で待ってるぜぇ、遅刻するなよ学級委員!」
そう言い残して蓮は、原付の排気臭と共に走り去った。
遅刻って、まだ時間が…。
時計を見ると、8時38分を差している。
あと、7分で朝のSTが始まってしまう。
遅刻?
また学級委員が遅刻かよ!?
クラスメートの嘲笑、困ったヤツだ…そう洩らし溜め息をつく担任、そして愛想が尽きたかの様に苦笑する蒼ちゃん。
そ、そんなの絶対嫌だ!
僕は、全速力で学校まで駆け出した。
息も切れぎれに教室に駆け込むと、すでに皆が座っていた。
クラスの視線が僕に向けられていたのが解る。
そりゃ、そうだ。
突然誰かが教室に走り込んで来たら、僕だって注目する。
というか、本日二回目ですなぁ注目を浴びるのはぁ。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
とりあえず何か言おうとしたが、息が上がって声が出ない。
我ながら何とも情けない姿。
「はぁ、はぁってオースケ、誰かにムラムラしてんのか?」
膝に手を付いて呼吸を調えている僕に向かって、先に教室に着いていた蓮がからかう様に言う。
「ちが、違うよ!はぁ…はぁ息がし辛くて」
僕はとりあえず席に向かう。
「んだよ、てっきり誰かさんとの妄想に欲情してるのかと思ったぜ!誰かさんになぁ」
そう言って、僕にニヤニヤと笑いかける蓮。
ぐぅう。蓮のヤツ!
余裕で着いたからって!
今の会話の意味を気付いてないか、誰かさんである蒼ちゃんの様子を椅子に座りながらさりげ無く見ると彼女は珍しく携帯をイジっていた。
僕もあの携帯みたいにイジられ…っておい!
椅子に座りながらバカな事を考えていると、丁度担任が教室に入ってきた。
担任から、明日からのテストの事や連絡事項をボーッと聞いていると、ズボンのポケットに入っている携帯が震えた。
誰だよ、珍しい。
そう思い携帯を開いて確認すると、蒼ちゃんからのメールが入っていた。
あまりの驚きに携帯を落としそうになったが、何とか免れた。
ドキドキと高鳴る気持ちを抑え、本文を読む。
〈今日、何か有ったかな?って心配してました。でも遅刻せずに来てくれて良かったです。P.S 今日は数学の勉強ヨロシクお願いします〉
メールをお宝専用フォルダに保存して蒼ちゃんの方を向くと、彼女は担任の話を聞きながら学級日誌を書いていた。
さっきうつ向いて携帯を触ってたのは、僕にメールを打って居てくれてたからなのかぁ。
〈おはよ!詳しくは、後で話すね。僕も楽しみだよ〉
そう担任に見付からない様に急いでメールを打ち返信した。
メールを返信し終わって、安堵しているとまた携帯が震えた。
開くと花君からの着信を知らせていた。
ちょ、教室でなぜ?
ビックリして花君の方を見ると、彼は手でハートマークを作ってニコニコと微笑んでいた。
ちょ、ちょっと花君!?
マズイっしょ、教室でハート全開は!
見方によっては疑われちゃうから、僕ら。
僕は手で照れ笑いをしながら×を花君に示した。
ちょうどSTが終わる。
僕はいつも通り、号令をかけた。
ははっ今日は幸せな気分で、朝のSTを終える事が出来た。
さてと!
今朝まで話を、花君と大河君と蓮にも説明しますかぁ!
蓮には二回目だけど。
しかもヤツは朝から散々、僕をカラかってくれちゃったけど。
仕方ない。
僕は立ち上がって、三人の元に向かった。
毎日寒いです…。
和紙には寒さ耐性が無いので、この時期辛いです。
コメントや、理由の有る批評、評価大歓迎で待っています!
和紙でした!
では!