一ヶ所目 4
何だよ……この店
「ねぇねぇ、君は一階の雑貨屋のお客なの?それとも2階の私の店のお客?」
「うわぁ!!」
突然の声を掛けられたので僕は、思わず叫んでしまった。
僕の悲鳴は、夜の静寂に包まれている住宅街に木霊す。
「うわぁ〜って、アンタ!!失礼な男だわね」
二階から覗いている女の人は、怒ったように頬を膨らました。
「あの…ローズマリーの上って二階の店って意味ですか?」
まだ胸のドキドキが治まらない中、僕は一応礼儀のつもりで聞いてみた。
「そうに決まってんでしょうよ!!アンタそのぐらい予想しなさいよ」
しかし、僕の礼儀は受け取って貰えず、逆に女の人の気分を害してしまったらしい。
(何か…変な人に捕まっちゃったな…)
そう思いこの場から逃げ出そうとした時、女の人の目線が僕の手に握られている筆箱に注がれているのに気が付いた。
(な…何なんだ?)
クエッションを浮かべている僕に女性が掌を返した様に笑いかける。
「アンタやっぱり私の店の客だわねぇー。筆箱持ってるようだし。も〜う、早く裏の階段から上がって来・て・よ・ね」
艶っぽい声で話しかけてきた。
「は‥はぁ」
僕は相槌を打ち、階段を登って行く。
(もしかして店の中に入ると屈強な男達に身ぐるみ剥がれるのかな…ううっ…手の筆箱持ってなきゃ良かった…)
店の中から犯罪の匂いがプンプンしているような感覚に襲われながら、震える手で二階の店のドアを開けた。
「いらっしゃーい」
甘っるい声と共に、先程の女の人が正面の窓際に立っている。
店の中はアロマの匂いが漂い、正面の窓と部屋の中心に置かれた机と椅子のペア以外は、分厚い本や薄っぺらい本で埋め尽されている。
(うわっ…怪しさK点超えだな)
そう思い、辺りを見回していると女性が声を掛けてきた。
「さっそく始めよっか。例のアレ出・し・て」
僕は、その言葉の怪しい雰囲気にドキッとしながら呟いた。
「はい!!それで例のアレってなんでしたっけ?」
僕は、外見とは正反対の18歳を全面に押し出して笑う。
しかしその言葉は、彼女の怒りの導火線に火を付けるのに十分な火力を持っていた様で、赤鬼の様な顔で睨まれた。
「修正液。あとアンタの名前を10秒以内に言いな」
艶っぽさは消え、変わりにドスの効いた声が僕に向けて放たれた。
「なっ名前は、さなっ真田欧介です…」
一秒ぐらいでカミながら言い終え修正液を探した。
しかし、筆箱の中の修正液が見つからない。
(ヤバイよ…修正液無かったら高く積まれた本の中から屈強なムキムキが飛び出してくるかも…ドコだよ修正液〜)
意味不明な妄想を抱きながら筆箱やポケットを掻き回している間に彼女は、すでに8まで数えていた。
「9…」
(あと一秒だ…。修正液発見!!)
「有ったぁ!!」
僕は、叫びながら勢い良く修正液を取り出した。
「はぁ…」
お互いため息をついた処で、女の人が手招きした。
「座んな」
女性は椅子を指差した。
「はっは…ひ」
僕は帰りたい一心で相槌を打ち、椅子に腰掛けて前に置かれた本を見た。
《真田欧介 18歳 男 18年間の記録 》
そう題名が書かれている。
「それで…どっからやり直したいの?赤ちゃんから?それとも一週間前から?」
まるで、欠伸をするような当たり前な口調で女性が切り出した。
「うわっ!!嘘くっさぁ〜」
突然の展開に、ついていけず僕は反射的に本音を溢してしまった。
言い終えてから僕は、しまったと思った。
しかも今日一日のラッキーアイテムの筈である口から衝撃的な発言してしまった。
(ま…また怒らせちゃっとたよ…)
そう思い身を怖張らせた瞬間、女性は不思議な雰囲気をかもし出した。
「あんたは、強く人生をやり直したいと思ったでしょ?その強い思いがアンタをこの店に引き寄せたのよ」
女の人は、やや含みのある話し方で分厚い本を僕に渡した。
ファンタジ〜要素が入ってきていますが、御理解いただけると嬉しいです。
もう少し辛抱をお願いします。