四ヶ所目 3
挨拶をしながら職員室に入ると、待ちかねた様に担任が僕達二人を手招きした。
「ったく、学級委員遅いぞ!!」
ブツクサ言いながら、お茶をすする担任。
「僕が忘れちゃってて…」
「真田、学級委員なんだから…もう少し自覚を持ちなさい!!」
「すいません…」
「まぁ、良い。とりあえず今日感じた事や反省点をこのプリントに書いてくれ」
担任は、目を落としていた書類を手渡した。
(感じた事をまとめる?とりあえず蒼ちゃんのジャージ姿はグッジョブで、今度から体育の時間は要チェック、そして願わくばジャージ姿の蒼ちゃんを…って何考えてんだよ)
僕は、我ながら自分のバカさ妄想にシュールな笑いが込み上げた。
「真田…何がそんなにおかしいんだ?」
「は、はひ?」
僕は気付くと、手でプリントをグシャと握っていた。
「いや…その」
「真田の感想や反省を読めるのが楽しみだな。そんなに笑える文章が浮かぶなんてな」
あきらかに僕に頭の中に感想等が全く浮かんでいかんでない事を見透かした様な言い方だった。
「いや…恐縮です」
(ヤバイ…先生、僕の反応を見て楽しんじゃってる)
僕は、苦笑しながら頭を掻くしかなかった。
「あとは前から言っていた通り、来週から中間テストが始まる」
(来週からテストか…テ、テスト!!マジっすか?ってか、完全に忘れてた!!)
僕の頭の中に、テストと言う単語がギラギラと稲光りを浴びた様に輝く。
実際の話、進学校である聖蘭の授業は難しく、半分も理解出来ていなかった。
しかも、最近は蓮と遊んでばかりで…勉強は全く予習&復習をサボっててトホホ状態。
この状態で一週間後中間テスト(5教科)、しかも高校初のテスト…皆、気合い充分で臨むに違いない。
(ヤバイ…極めてヤバイ!!)
「はい。中間テストに向けて勉強してます」
冷や汗をかく僕の横で蒼ちゃんがニコッと笑う。
(その笑顔に乾杯…って何乾杯してんだよ…違うだろ僕!!)
「さすが楠木だな。真田ももちろん…」
担任の視線が痛く、無意識に僕は直立不動状態になった。
(何なんですか?そ、その疑う様な目は?)
担任と同じく蒼ちゃんも僕のを見ている。
(あ、蒼ちゃんまで何だよ)
「欧介君も順調だよね?」
ドギマギしている僕に向かって、蒼ちゃんが再び笑いかけた。
「はい!!もう絶好調ですよ〜」
僕は、とびっきりの笑顔を作って親指をビシッと立てた。
(や、やっちまった…また嘘ついちゃった)
蒼ちゃんの笑顔につい、また嘘を重ねてしまった。
多分、今の勢いなら女子更衣室に突入して高らかに中の状況を実況出来るだろう…そのぐらい自殺行為的な発言だった。
「ほほぅ、プリントとテスト両方楽しみだな」
担任は、満足気に笑い椅子にもたれかかった。
「じゃあ、プリントについては後日、具体的な提出期限を言うから」
その言葉で、僕が嘘を重ねた時間は終りを告げた。
「来週のテスト頑張りましょうね。私も欧介君に負けないぐらい勉強します」
下駄箱から外に出ると、僕の嘘を信じきっている蒼ちゃんが優しい雰囲気で僕を後戻り出来ない様にたたみかけた。
「うん!!僕も頑張るから…おっと用事があったんだ。じゃ今日はここで、バイバイ」
僕は、嘘の泉から湧き出てきたエセ誠実なオーラを纏い蒼ちゃんに向けて笑って手を振った。
「あ、用事があるんですか…じゃ、またね」
蒼ちゃんは、手を小さく振って帰っていった。
蒼ちゃんの後ろ姿を見つめて、やがて見えなくなると、僕は足の力が抜け地面に倒れこんだ。
「な、何やって僕?どうしょ、ヤバイ、嘘ヤバイ。蒼ちゃんに…親指を」
脳内に意味の無い言葉の螺旋が流れ込む。
(蒼ちゃんの大嫌いな嘘を重ねて、テスト勉なんて全くしてないのに授業すら分かんないのに…僕何やってんだよ)
数十分前の非難めいた蒼ちゃんの顔が浮かぶ。
嫌いと言う単語の持つ意味。このまま進めば拒絶という未来が僕には待っている。
蒼ちゃんから笑顔が消えたら、とても辛く退屈だ。
自分自信から出た軽い言葉に深い後悔を覚えた。
すると、突然誰かが僕を呼んだ。
声の方を振り向くと、花君と蓮が居た。
「欧介君?どうしたの?」
気付かない内に僕は、歩いていたらしく校門に向かう道にいた。
「いや…別に」
「オースケ、機嫌直せよ。俺が悪かった!!この通り」
蓮が手を顔の前に掲げた。
「え、別に怒ってないよ。怒ってないけど…」
言葉を隠すかの様に、ため息が出た。
「あれ、悩み事?僕に聞かせて欲しいな」
花君は、ジャージから手を出して首を傾げた。
「水臭ぇ〜つぅの!!聞かせんしゃい」
そう言うと蓮は、笑いながら肩を組みグイッと力を込めた。
「あ〜、うん。じゃあ聞いてもらおうかな」
「おしっ!!ならサテン行こう。丁度腹が減ったしな」
「お、高校生の定番ですね」
花君は、飛び上がって歩き出した。
そして、僕達は校門を出た。
校門から出ると、大河君が空を見上げて座っていた。「お前達遅いぞ」
ジャージのズボンをパシパシと払いながら大河君が立ち上がる。
「た、大河?お前帰ったんじゃなかったの?」
蓮は、目をパチクリさせながら指を指した。
「気が変わったんだよ。それに、指を気をつけろ…バカ」
大河君が、顔をしかめてジャージの襟を正した。
「てめぇ…」
「もう蓮やめてよ!!」
花君の言葉に、蓮はショックを受けた様に口をモガモガとさせた。「なら、大河君も喫茶店行こうよ。何か欧介君が相談したいんだって」
「欧介が相談?」
大河君がじっと僕を見る。
「別に大…」
「分かった。行こう」
「えっ、お前も来んの!!」
「別に、お前の為じゃない。欧介の話を聞く為だ」
大河君は蓮を見ながら鼻で笑った。
「4人でケーキ食べながらなら、きっと欧介君の悩みも解決するよ」
花君は、優しく僕の肩を叩いた。
(皆…)
グゥークォゥ〜
3人に囲まれて何だか少し元気が出てきた僕に、突然空腹に襲いかかってきて悲鳴をあげた。
「あ、ごめん」
「オースケの腹、グッジョブ」
「おい、意味不明な事言うなよ」
「じゃ僕の行きつけの喫茶店に案内するよ!!ケーキがおいしいんだ」
僕達は花君行きつけの喫茶店に向かって歩き出した。
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