一ヶ所目 3
二人で歩きながら色々な話をした。
彼女の名前は、楠木蒼 (くすのき あおい)聖蘭高校を今日卒業したそうだ。
誠蘭と言えば、学校行事が盛んで自由な校風な高校、生徒は一人一人が主役になれる。
有名大学進学にも強く、芸能人になるくらい器量の良い子も多いとか。
簡単に言えば、僕と蒼ちゃんが過ごした高校三年間は月とスッポンくらいの差があると言う事。
蒼ちゃんは、僕とは比べ物にならないお嬢様だったのだ。
(高嶺の花ってヤツかな…)
そう、思いを巡らしていると、
「ココで結構です。この泉区から家は近いので、送って頂きありがとうございました。お話楽しかったです」
彼女が微笑んで頭を軽く下げた。
声も仕草も可愛い。
何というか安心する。
それに朝一番に会って話したら、その日が幸せになれるだろうな。
「あぁ…お礼を言うのはコッチです。カバン届けてくれてありがとうございました」
僕も初めて笑顔で蒼ちゃんと向かい合う事が出来た。
「届けられて良かった。では、また…」
柔らかい声を響かせ、蒼ちゃんは歩いていった。
(あんな子と学校生活してみたいよ…きっと薔薇色の学校生活なんだろうな。ホントに高校受験やり直したいよなぁ…)
昼間、心に発生していた後悔が更に濃くなり雷雲のように僕の心を包んだ。
夜空を見上げると金色に輝く月が見える。
「月を見ながら帰る、高校生最後の夜ってのも良いかな」
神秘的な月の魅力に引き付けられたのか、そう呟いて歩き出す。
帰る道の途中に住宅街の看板が目に入りその地名が妙に頭に引っかかった。
《泉区6番地》
「泉区6番地?……あ、あの紙クズの!!」
その時、何かに引き寄せられるよう振り返った。
《雑貨屋 ローズマリー》
あの胡散臭い紙に載っていた、店がひっそりと佇んでいる。
「えっ、なんで…本当に?」
今の今まで全く気づかなかった。
急に現れたような感覚に妙な不安を感じた。
だが雑貨屋は電気が消えていて、閉まっている?
「やっぱり、あんな広告ガセだよな。時間が戻せるわけないもん」
我ながら何に期待しているんだろうか?
そんな都合の良いことが、ある訳ない。
そう思った瞬間、頭の上から色っぽい女の人の声が聞こえた。
一ヶ所目の佳境に突入して、話がラブコメから離れていますが御理解して下さると嬉しいです。