四ヶ所目 1
やっとラブコメらしくなれそうです。
「いや〜レクリエーションって最高だな。特にバーベキュー!!毎日でもやりたいぜ」
校門を出た蓮が、数時間前の出来事を懐かしむかの様に空を見上げて言う。
「楽しかったよねー。僕も毎日やりたいな」
花君も、歩きながら着ているジャージの中に手を引っ込めて、笑いながら内部からジャージをビヨーンと何度も伸ばした。
「毎日だって?そんな予算が聖蘭にあると思うか?」
僕の後ろを歩いている大河君は、
やれやれという表情を浮かべて携帯を見た。
今日、僕達は一年生の入学レクリエーションの一貫として郊外のキャンプ場までバーベキューをしに行った。
僕は、学級委員としてクラスをまとめ上げて安全なバーベキューを指示する立場だったが、今朝学校に到着してからバーベキューが終わるまで蒼ちゃんのジャージ姿に見とれてしまっていて、いくら記憶を辿っても蒼ちゃんの姿しか思い出せない。
「おいおい、金なら有るだろう。聖蘭は金持ちのボンボンがいっぱいいるんだしよ。なぁ大河坊っちゃん?」
「それどう意味だ?」
パチッという音を発てて携帯を閉じ、大河君が蓮を強い力が籠った目で見た。
「あらら〜怒るって事は認め…」
「ふ、二人共やめようよ」
僕は、二人の間に険悪なムードが立ちこめていた事に気付き、慌てて間に入った。
「そうだよー。今日は笑顔で帰ろうよ。ねっ?」
花君も、二人の間に入ってくれて笑顔を浮かべながら場を和ませてくれた。
「花、それは誤解だ。俺はこんなヤツを相手に怒らない」
大河君は、腕を組んで顔を背けた。
「こんなヤツだ?俺は、どんなヤツなんだよ?言ってみろや」
「ちょ、ちょっと二人共やめなよ」
「オースケ、止めん…ぐっえぇ」
僕と花君が必死に二人を止めていると、蓮のジャージの首元が突然何か強い力で後方に引っ張られていった。一瞬、怪奇現象かと思いドキッとしたが数秒後、蓮の首元を引っ張った相手が分かった。
蓮の背に隠れて柚夏ちゃんが眉を寄せて立っていた。
「蓮!!アンタ何やってんのよ」
そう言いながら更に柚夏ちゃんは、グイグイとジャージを引っ張るので、どんどん蓮の顔が赤く染まっていく。
「苦じぃ…」
「あ、あのさ、柚夏ちゃんそろそろ離さないと…」
「えっ?」
僕の言葉の意味がやっと理解出来たのか、柚夏ちゃんは顔の色が髪の色と同じように真っ赤になった蓮のジャージを離した。
「ゲホッゲホ…」
「レン、大丈夫?」
花君は、派手に咳き込む蓮の背中を優しく撫でる。
「何よ、大袈裟に苦しんじゃって」
柚夏ちゃんは、バツの悪そうな顔をしながら、手を組んだ。
「な…何だよ?いきなり首絞めやがって」
喉を擦りながら、怒りを帯びた様子で蓮は涙ぐんだ目を向ける。
「ア、アンタが悪いのよ。大きな声出して騒いでるから。私が止めてあげなきゃ、アンタまた問題を起こしてかもしれないわよ。全く感謝してもらいたいくらいよ」
「止めるんならな、もうちょっと優しく止めろよ。この暴力女!!」
「何よ!!」
「全く、体だけ大人になりやがって。もうちょっと、おしとやかになれっうの!!」
「バ、バカじゃないの!!変な事言わないでよ。それにアンタには言われたくないないわよ」
「と、とりあえず二人共落ち着いて話をしようよ」
「欧介君の言う通りだよ。落ち着いてよ」
僕と花君は今度は、ヒートアップする柚夏ちゃんと蓮の間に、入って一生懸命二人をなだめた。
「ふん…アホらしい。俺は先に帰る」
「大河君待ってよ」
大河君は、僕の言葉に立ち止まる事なく歩き出した。
(何で、僕の知り合いは喧嘩ばっかりなんだろぅ…)
僕が周りで展開されている光景に溜め息を吐き出した時、僕の心を乱す周波数が耳に届いた。
ジャージ姿の蒼ちゃんが心配そうな顔をして、僕達の元に走って来ていた。
「あ、蒼ちゃん」
僕の突然の呟きは、不思議な事に周りの騒動の言葉よりも強く通ったらしく、周りの皆の動きが止まり僕の目線と同じ方を向いた。
「あら、蒼っち?」
連が少し驚いた顔をしていた。
「皆さん、何してるんです?」
蒼ちゃんは、心配そうに僕達を見回す。
「いや…たいした…」
「聞いてよ!!蒼ちゃん。バカ蓮が、また喧嘩してたんだよ」
柚夏ちゃんが、蒼ちゃんを味方につけるかの様な言い方をした。
(ってか、いつの間に仲良くなったんだ?)
僕の頭に不意にそんな考えがよぎったが今はそんな事を考えているより蒼ちゃんの声を聞いていたくて強引に考えを消した。
「中村君、本当?」
「え、いや、蒼っち冗談だって。だから、そんな目で俺を見んなよ」
蓮は、照れた様に頭をポリポリと掻いて笑った。「信じてくれるよな?」
「え、はい」
そう言いながらも蒼ちゃんは、やはり俯に落ちない顔をして探る様に僕の顔を見た。
僕はドキッとしながらも蒼ちゃんを安心させる様に首を縦に振った。
「何が、信じてくれるよな!!よ。バカ蓮のくせに」
「痛っへぇ!!」
柚夏ちゃんは、頬少し膨らましながら蓮の頬を捻った。
「夫婦漫才ってこんな感じかな?」
花君は、ニコニコ笑いながらと目の前の夫婦漫才(?)を見ていた。
「ところで、蒼ちゃん今帰りなの?」
僕は一緒に帰れるかも!!っという淡い期待を胸に秘めながら自然を装って切り出した。
「え、あっそうだった。私は欧介君を呼びに来たんです」
「ぼ、僕を?」
(こ、これはもしかしたらこ、告白!?)
急に胸に潜む何者が僕のハートをサンドバックの様に乱暴に叩いた。
「はい」
「ど、どして?」
「あの、とりあえず行きましょう」
そう言うと蒼ちゃんは校舎に向かって歩き出した。
僕は、フワフワした地面を歩く様にふらつきながら、まるで僕では無い誰かの足で歩いている様な感覚で後について行った。
更新が遅くなりました。
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