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上手な修正液の使い方  作者: 和紙
24/70

三ヶ所目 ラスト

今回もボリュームがあります。


御了承下さい。


目を覚ますと、僕は家の自分の部屋に居てベットに寝転がっていた。


あんなに殴られたのに体のどの部分も痛くない。


不思議に思って自分の顔の状態を見ようと手鏡を覗き見ると陰気な男のしかめっ面が鏡に映った。


「はいっ?誰?」


僕は驚きの余り手鏡をベットに投げる。


(まだ体が本調子じゃ無いんだ…多分)


そう思い気分転換に外の空気を吸おうとカーテンを開けると、また陰気な男が映っていた。「だから…誰これ?」


僕は無意識にそう呟いたが何故か見覚えがあった。


窓に映る陰気な男をじっと見ると、やがて正体に気づいた。


僕はそのまま床に崩れ落ちる様に座る。


「戻ってる…修正前の僕に戻ってる…何で?」


意味不明な現象にショックを受け、途方に暮れて独り言を呟いていると部屋のドアが勢い良く開いた。


「久しぶりぃ」


薄いローブを身に纏った艶めかしい女の人が色っぽく笑いながら部屋に入ってくる。


「えっ…あなた誰?」


僕の記憶の中の何処の引き出しを開けても目の前の女性に関する情報は無かった。


「あんた相変わらず失礼な子ね!!」


女性は、腰に手を置いてプクリと頬を膨らました。


「ローズマリーのお姉様よん」


女性は、僕に向かってパチリとウィンクする。



「ローズマリー?ローズマ……あっ、あの時の怪しいおば…」


「ん〜と、何か聞こえたな〜。怪しいおば……何?」


女性は、ニコやかな笑みを浮かべながら両拳をバキバキと鳴らす。


「あっあわ…そんな事より…」


「そんな事で終わらしちゃダメよ〜男なら最後まで言いなさい…怪しい何なの?」


女性の拳は途絶える事無くバキバキと音を出し続けている。



「ローズマリーの綺麗なお姉さまです…」


僕は、声を震わせて女性に言った。

「もぉ〜正直な子ね!!照れちゃうわ」


僕の言葉に満足したらしく女性は手を顔の前に持っていって照れたポーズをとった。


「で…何で僕の顔が戻ってるんです?」


「あ〜それね。残念だけどアンタ死んだわよ」


女性は、あっけらかんと言った。


「え゛っ…死んだ…」


僕は、ポカーンとだらしなく口を開けてしまった。


(死んだ…僕死んだの?まだ大人の一段も階段登って無いのに…)


蒼ちゃんの顔が浮かぶ。

(あ〜あぁ…蒼ちゃんとあんな事や…)


「はいはい。嘘なんだからその辺で妄想やめな」


女性は、苦笑を浮かべて僕に言う。


「えっ…嘘…?」


「そうよん!!御盛んだわね〜このスケベチャンプ〜」


「変な事言わないで下さいよ!!」


妄想していた事がバレていたので、ものすごく恥ずかしい気分になった。



「それで…アンタまだ続けるの?」


「えっ…」


女性が急に真面目な顔で話を切り出したのでビックリした。



「まだ…修正するの?」


「そりゃしますよ」


まだ、学校が始まって二週間だし友達も出来たし、蒼ちゃんと学級委員に成れたんだから辞める訳が無い。


「そう…。前にも言ったけどあんた自身や大切な人が不幸になる可能性もあるのよ…」


「そうかもしれないけど…。僕、今とても楽しいんです。まだ二週間だけど、前の高校生活よりずっと楽しい…。

好きな子と一緒の空気を吸って生活出来るのも…それに、まだ知らない人との出会いがあると思うとワクワクするんです」


僕の本心を包み隠さずそのまま女性に伝えた。


女性は、はぁ…と溜め息をついた後で僕の頭に手を置いた。


「あやわあぁなぁ…」


近くで見ると薄いローブ越しに女性の体のラインが、ハッキリと分かったので僕はドキドキして意味不明な言葉を吐いてしまった。


「アンタその言葉…忘れんじゃないわよ!!」


その言葉を聞いた瞬間、僕の周りが真っ白になった。そして、真っ白な液体に包み込まれるような感覚を覚えた。




目を覚ますと天井に付いた染みが目に入った。


僕の鼻は、ガーゼで塞がっているらしく呼吸がままならない。


周りの様子から病院に居るらしい。


母さんが、僕のベット横でタオルを畳んでいた。


「母さん…」


僕は母さんに声をかけた。


すると、ゆっくりコッチを見た。


「あらお寝坊さん。お目覚め?」


母さんは、少し潤んだ目で笑った。


母さんの笑顔を見たら母の笑いって暖かいな…なんて思った。


「今日は…何曜日?」


「金曜日よ…。アンタよく寝たわねぇ」


金曜日という単語を聞いて、中村君の顔が浮かんだ。


「ゴメン…心配した?」


「全然。アンタはこんな事じゃ死なないわよ」


「酷いな…心配してよ」僕は、少し苦笑してしまう。


夕焼けが差し込む部屋に母さんがタオルを畳む音だけが響く。


「じゃあ…お父さんに電話してくるわね」


そう言うと母さんは、立ち上がった。


僕も、ゆっくりと起き上り棚の上から携帯を取ろうと手を伸ばす。


そんな僕を見かねたのか、母さんが棚から携帯を取って僕に手渡した。


「毎日友達がお見舞いに来てたわよ…電話してあげたら?」


そう言って母さんが優しく笑う。


「そうするよ」


僕は、着信履歴から花君に電話を掛けた。


(夕方だから授業中って事は無いよな…)


そんな事を考えていたら花君の声が携帯から聞こえた。


「もしもーし」


「あっ…真田欧介です…」


「欧介君!!気がついたの?」


「あ…うん。お陰さまで」


「良かったぁ〜」


「ゴメンね。毎日お見舞いに来てくれたのに…」


「えっ…良いよーそんな事。それより今からそっち行って良い?」「えっ…もう遅くない?」


「気にしない気にしない…」


そう言うと花君の声はブツッという音と共に消えた。



僕は、花君が来るまで寝ていようと思い、ベットにもたれた。


寝転がったのも束の間、病室のドアがコンコンとノックされた。


(医者の人かな?もしかして尿の時間とか!!)


「どうじょ…」


在らぬ考えが浮かんでつい噛んでしまった。


「じゃーん!!欧介君元気?」


現れたのは看護婦では無く花君だった。


花君は、いつもの笑顔でドアからぴょこんと顔を出している。


「花君!!」


「ビックリした?」


花君は、悪戯っぽく笑う。



「うん…びっくりだよ」



「ちょうど欧介君から電話貰った時、病院に着いてたんだ」


(だから電話口が騒がしかったのね…)



そんな事を思っていると、また誰かが病室に入ってきた。


入って来たのは、大河君だった。


「やぁ真田。気分は?」


大河君が僕を殴った赤毛と同じフレーズを喋ったので身が強張ったが、大河君の僕に対する目は暖かいモノだった。


「良いかな」


「そうか…」


僕は、一番気になっていた事を聞く事にした。


「あの…中村君は?」


「アイツは退学にならずにすんだ」


そう言って大河君が微笑する。


「良かった…」


僕は安堵感でベットでグィと伸びをした。


「ありがとう大河君、花君…」

「中村を助けたのはお前だよ…真田」


「うん。そうだよ欧介君!!」


「いやいや僕は…」


「お前に森島も俺も動かされたんだ…もちろん山下も…だからお前が居なかったら中村は助けられなかった」


「いや…そんな…」


大河君からそんな言葉を聞けるとは思って無かったのですごく照れた。


「実は、もう一人来てるんだ」


突然花君が僕の耳元で囁いた。


「えっ?」


僕は、中村君が入ってくると予想したが僕の予想は大きく外れた。


蒼ちゃんが緊張した面持ちで部屋に入って来る。


「あ…おいちゃん?」


予想外の来客に心臓が激しく暴れる。


「欧介君、こんにちは」


蒼ちゃんが、頭をペコリと下げた。


「こっこんちゃわ」


(何言ってんだ僕?)


僕はドキドキを隠せずシーツをグッと掴んだ。


「じゃあ〜後は若い人に任せますか!!」

ドギマギしている僕を知ってか知らぬか分からないが花君が元気よく言った。


(いきなり何言い出すの花君!!)


「じゃあ〜またね!!欧介君」


花君がニコニコして手を振って出て行く。


大河君も後に続く様に歩き出した。


「真田またな」


そう言うとドアを開けた。


出ていく直前に大河君がコッチを振り向いた。


「真田が紳士なのを祈るよ…」


大河君は、軽く笑いを残して出ていった。


(大河君まで、どうしちゃったんだよ…)


二人に善行(?)によって妙な雰囲気になった病室に僕と蒼ちゃんだけが取り残された。


蒼ちゃんのが照れた様にうつ向く姿を見ていたら更にドキドキしてきた。


(えっと…会話…会話…)


会話と言う単語が頭の中をグルグルと周るだけで言葉が何も出てこない。


妙な雰囲気に耐えかねたのか蒼ちゃんが立ち上がった。


「あの…林檎でも剥きましょうか?」蒼ちゃんが照れ笑いを浮かべて僕に聞く。


「あっ…お願いします」


僕も照れ笑いしか返せ無かった。


「じゃあ、まず手を洗いますね」


そう言うと、蒼ちゃんが病室の洗面台に向かった。


蒼ちゃんが手を洗っている間に僕は棚から林檎を取って深呼吸を何回もする。


(よし…落ち着いて…)


蒼ちゃんが戻って来た時には、ドキドキが少し落ちついていた。


「この椅子に座ってね」


「はい」


蒼ちゃんは、椅子に座って林檎を剥き始める。

僕は、蒼ちゃんの林檎を剥く姿に釘付けになった。


優しい目をして林檎を剥き、林檎を掴む手はとても綺麗だった。


ボーッと蒼ちゃんの小さな口を見ていたら目が合ってしまった。


また僕の心臓が暴れて脈が早くなる。


「あっ…ゴメンね…私林檎剥くのヘタかな?」


蒼ちゃんが少し歪に剥かれた林檎を切りながら照れた。


「そんな事無いよ…僕は」

(僕は蒼ちゃんに見とれちゃって…)


そんな気の利いたセリフを言おうとしたが、口はピッタリと閉じたままだった。


「はい、お待ちです」


そう言うと僕に林檎を一切れ手渡した。


「ありがとう…」


蒼ちゃんの剥いてくれた林檎はいつもよりも甘く感じた。


林檎をシャリシャリと食べる僕の姿を蒼ちゃんはジッと見ている。


蒼ちゃんの円らな瞳に見つめられていると思うと甘かった林檎の味が途中から解らなくなった。


「良かった…欧介君が元気そうで」


「あ…うん」


「でも痛そうだね…」


そう言いながら蒼ちゃんは僕の顔を触る。


蒼ちゃんの手からは柑橘類の香水の香りがした。


(蒼ちゃんが近くに…)


近くで、じっと見つめられると共に蒼ちゃんが僕の顔の傷を優しく撫でたので興奮してしまった。

僕は、目の前に座る蒼ちゃんを無性に抱き締めたくなったが…我慢した。


「私心配したんですよ…先生から欧介君の事聞いた時」


「ゴメンね…」


「でも良いんです!!欧介君の元気な顔が見れたんだから」


そう言うと椅子から立ち上がった。


「そろそろ帰りますね。学校には何時頃来れるんですか?」


「あと二日ぐらいだから週明けには行けると思うよ。ゴメンね…今週は学級委員の仕事を蒼ちゃんに押し付けちゃって…」


「気にしないで。月曜日に元気な姿を見せてね」


そう言うと蒼ちゃんは笑いながら手を小さく振って部屋から出ていった。



僕は小さく溜め息をついて今の今まで味わっていた幸せな時間の余韻を噛み締めた。


(早く学校行きたい…もっと長い時間を皆と過ごしたいな)


そんな事を思うと自然に笑ってしまう。

ローブの女性が言った言葉が頭に引っ掛かっていたが、何故か僕はこれからの学校生活がとても楽しくなる予感がした。


やがて母さんが林檎を持って病室に戻って来た。


(母さんと蒼ちゃんの林檎どっちが美味しいかな?)


そんな事を考えていたら、また笑ってしまった。




今回で三ヶ所目(事件編)が終わりました。


ひとまず主要キャラの絡んだ大波を越える事が出来ました。


三ヶ所目の流れは恋愛じゃない話が多いので批判が来るかと心配しましたが…読者様からは暖かい目で見て頂けました。


ありがとうございました。


次の話を書いたら、これまでの話で溜っている誤字脱字修正をしたいと思います。


ここまでの感想や御指摘をして頂けると大変嬉しいです。


お願いします。

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