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上手な修正液の使い方  作者: 和紙
21/70

三ヶ所目 8

今回の話の中には、暴力的なシーンが多数含まれています。


予めご了承下さい。

「ははっ!!気持ち良いだろぉ」


蹲る僕の脇腹に強烈な蹴りが深々とめり込む。


「グッ…」


(ぐる…し…い…助け…て…)


「ナイスキッ〜ク!!ジッコもビックリってやつ〜ハハハハァ」


僕を囲んでいる5人がゾッとするような高笑いをした。


「オラオラ〜時計取り返して友達助けるんでっしょぉ〜っとぉ!!」


黒いジャージを着た坊主頭が喋りながら僕の背中を空き缶を潰すように容赦無く踏みつける。

「寝てちゃダメじゃ〜ん」


今僕は、ゲーセンから少し離れた廃屋に居る。


こんなずじゃ無かった…全てが上手くいくと思っていた。


数十分前、僕は大河君が教えてくれたゲーセンで赤毛の人を探した。


目的の人を見つけ、時計について訪ねた。


赤毛の人は、申し訳無かったと謝り、僕に時計を返したいと言った。


僕は、赤毛の人の丁寧な態度をすっかり信じていた。

何より、中村君を助けられるという喜びに酔いしれていた。


赤毛は、僕をこの廃屋に導いた。


そして、数人に囲まれてゲームの様に何発も殴られた。


そう、僕がバカだった。


山下君を恐喝した奴を信じるなんて…。


「返…せ…時計…」


立ち上がろうと、膝を曲げると真横から蹴りが飛んできた。


「頑張ってぇ!!立ってぇ」


蹴りをいれた金髪が、笑いながら痛さで蹲る僕を仰向けに転がして、胸ぐらを掴んで引きずり起こす。


「おっとっと〜立ち上がったご褒美だぞぉ!!ダァコ!!」


次の瞬間、僕の顔面に強烈な痛みが走った。


鼻の奥に鉄の匂いがして、生暖かい何かが出てきた。


「ナイスパン〜チ!!良いの入ったね〜」


サングラスが裏声で叫んだ。


再び、冷たく残酷な笑いが廃屋に木霊した。


(ち…く…しょ…う…)


「おい、顔は殴んな!!」


突然、今まで離れた場所に置いてあるソファで寝転がり雑誌を見ていた赤毛が僕を囲む5人に向けて喋った。


「遼〜何だよ。いきなりさぁ〜」


「お前ら、もっと頭使えよ!!アシが付くだろ!!」


「はいはい…遼の言う通り腹にしますよぉあ」


「う゛っ…」


手で鼻から滴り落ちる血を押さえていて、無防備になっていた僕の腹を金髪が踏みつけた。


内臓が裂ける様に痛い。


しかし僕の頭には痛みより、時計の事でいっぱいだった。


「ゴホゴホ…と…とけ…い」


「おい…そいつ連れてこい」


赤毛が、舌打ちをして誰かに命令する。


「ちっ…分かったよ」


坊主とモヒカンが僕を赤毛の所まで引きずっていった。


二人が手を放すと同時に、上手く体重を支えられない僕は、赤毛の目の前で膝を折って倒れた。


「座れ」


赤毛が目の前のボロボロになったソファを顎で示した。


僕は軋む体で、ゆっくりと立ち上がりソファに崩れ落ちる。


「気分は?」


赤毛が煙草の煙を僕に吹きかけて聞く。


「べ…つに…」


「そうか。それで…何でお前が時計を取り返しに来た?」


「ゴホッ…友達の…為に…必要だか…ら」


「そうか…」


そう言うと、突然鋭い狂気を露にして赤毛が肩を震わせ笑った。


「ハハッ!!お前のお陰で、また山下って奴から何か奪えるぜ!!」


僕の目の前に山下君の学生証と時計をちらつかせる。


「山下君…の、時計を…返して…くれ」


「何だぁ?」


「返してくれ…」


立ち上がろうとしたが、膝がガクガクして動けなかった。


「ダメだな!!時計は返せない。金に換えなきゃいけないからな」


「返し…てくれ」


赤毛が、二本目の煙草に火をつけてプカァと煙を吐きながら天井を見た。


そして、僕の顔を覗き込んだ。

「分かった…ただし条件がある!!お前が俺らに20万くれるんならな!!」


「20…万…?」


「そうだ!!俺らに20万よこせ!!そうするなら、もう山下には近付かないし、時計も返してお前も解放だ。どうだ?」


僕の、預金から引き出せば何とかなる金額だった。


「全ては、お前次第なんだよ?もう痛い思いもしたくないだろ?お友達を助けたいんだろ?俺らは、金さえ手に入ればそれで良いんだよ」


煙草を美味しそうにフカしながら赤毛が笑う。

(ちくしょ…母さんが貯めてくれた…お金が…ゴメン…母さん…友達の為なんだ…)


「分かった…」


僕は、悔しさを噛み締めながら頷いた。


「賢いぜぇ〜お前は!!」


赤毛を筆頭に六人が嘲る様に笑った。


「じゃあ…契約にハンコを押すか。おい!!コイツのシャツ捲れ!!」


歯が抜けた顔色の悪い男が、気味の悪い笑みいを浮かべて僕のカッターシャツを乱暴に捲る。


「なっ…何するんだ…」


赤毛が口から煙草を外しながら笑う。


「契約にはハンコがいるだろ〜。契約したんだから」


僕は、逃げだそうと暴れたが三人に押さえ付けられて動けない。


「嫌だ…やめろ…やめてくれ!!」


「大丈夫だって!!一生モノの傷が残るだけだからなぁ〜」


真っ赤に光る熱源が僕の腕に近づく。


「やめてくれー!!」


僕は、力の限り叫んだ。


と同時に、やがて来るだろう熱さと痛みを覚悟し、目を瞑った。


しかし、腕に熱さも痛みも走らない。


目を恐る恐る開けると赤毛を含め六人は、僕では無く別の方向を睨んでいた。


「んだ〜お前は?」


モヒカンが入り口に向けて叫ぶ。


モヒカンが叫んだ方を見るとスラリとした男が立っていた。


「真田を放せ…」


入り口に立っていたのは大河君だった。


(た…大河君…どうして?)


「おいお〜い。正義の味方ってか?」


ヘラヘラと坊主頭が笑みを浮かべて喋った。

圧倒的不利な状況にも関わらず大河君は、ゆっくりとコッチに向かってくる。


「入場料払えや!!」


坊主頭が拳を振り上げて大河君に向かい突進する。


二人の距離がどんどん近くなりやがて坊主頭の背中で大河君が見えなくなった。


(大河君…逃げて…)


次の瞬間、坊主頭が腹を押さえてよろめき、前のめりに倒れて大河君にもたれかかった。

大河君は無表情に、もたれかかる坊主頭を地面に向けて投げ落とす。

坊主頭のみぞおちを突いたらしく、大河君の手には角材が握られていた。


「もう一度言う…真田を放せ」


静かに大河君が喋る。


「嫌だと言ったら?」


赤毛が挑戦的な言葉投げつけて笑う。


大河君は、立ち止まった。


「そうか…だったら、窮屈な生活を送るんだな」



大河君は、微笑した。


その顔は、勝ち誇った笑いにも見えた。

「なんだと…」


「コッチです、お巡りさん達!!ココに友達が居ます!!」


しきりに叫ぶ花君の声と数人の荒いく走りの躍動が聞こえる。


「さぁ…もう真田を放さ無くても良いんだ…そのままずっと掴んでろ!!じきに、窮屈な生活への扉が開くんだからな!!」


大河君は、今まで見た事も無い全てを見下す様な冷酷でゾッとするような笑みを浮かべ、赤毛に向けて言葉を吐き捨てた。


「テメェ!!」


赤毛が叫ぶ。


「コイツ、絶対ぶっ殺してやる!!」歯抜け男が拳を震わせ熱り立つ。


「ほら…殴れよ」


大河君が、笑いながら手招きした。


どんどん僕の耳に、花君の声と走る振動が伝わってくる。


「タケシを起こせ!!」


赤毛が、怒りに震えながら言った。


「遼!!」


「うるせぇ!!捕まりてぇのか??」


モヒカンと金髪が、坊主頭に近付いて引きずり起こした。



僕の目に花君の姿が映った。


「お前らぜってぇ殺すからな!!」


そう言うと赤毛達が後ろを向く。


僕は、逃げようとするす赤毛の足元に飛び付いた。


「は…放せ!!コラァ!!」


僕の顔面に再び痛みが走った。


「ごはっ…時計…返せ…よ」


「うるせぇんだよテメェ!!おい、テメェら助けろよ!!逃げんな!!」


赤毛が逃げていく仲間に向かって怒声を浴びせた。


そして、完全に冷静さを失った赤毛は何発も僕の顔面を蹴った。


口の中に、生臭い鉄の味が充満する。


しかし、僕は放さない。


歯や鼻が折れても構わないと思った。


「返せ…こ…の…」


「おっ、欧介君!!」


「真田!!」


朦朧とする意識の中で数人の大人の声と花君と大河君の声が聞こえた。


「わっ分かった!!返す!!返すから放せ!!放してくれ!!」


僕の真横に時計等の山下君の持ち物が散乱した。


僕は、赤毛を掴む手を離した。


赤毛は、全速力で逃げていった。


「お前ら止まれ!!」

二人の警官が叫びながら僕を通り越して駆け抜けていく。


「君、大丈夫か?」


年輩の警官が僕の顔を覗き込む。


「だ…いじょ…びです」


「こりゃ酷いな…。すぐに救急車呼ぶからな」


そう言うと、年輩警官は出口に走っていった。


花君と大河君が近寄ってくる。


「お、欧介君」


花君は声を震わせて蒼白な顔で僕を見ている。


「真田!!しっかりするんだ」僕に向けられている、大河君の暖かい目を見ていたら緊張の糸が切れ体がブルブル震えて涙が溢れた。


「ゴホゴホッ…こ…れで…中村君…助か…るかな?ぼく…を…信じて…くれる…かな?」


「しゃべるな…」


「山下…君…本当の…事…話してくれ…るかな?」


「黙ってろ!!」


大河君が真剣な顔をして僕に言った。


「これを…山下君に…わた…して…。」


僕は、今ある力を振り絞って大河君に時計を手渡した。


「中村君…を…おねが…い…」


直接、僕は何も聞こえなくなり痛さも苦しさも忘れ、安らかでとても深い闇の底へと吸い込まれるように落ちていった。

朝の通勤や通学中に読んでいただいた読者様…すいません。


少しバイオレンス過ぎました。


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