三ヶ所目 7
話をスムーズにするため、三ヶ所目6の最後を少し変えました。
そちらを読書頂くと内容を掴みやすいと思います。
今回も、長くなってしまいました。
ご了承下さい。
土日が明けた月曜日、僕は朝から三津高に向かった。
もう一度、山下君に話を聞くために。
三津高の校門付近で15分程座っていると山下君が歩いてくるのが見えた。
「おはよっ」
僕は、山下君に向かって最大限に爽やかな挨拶をした。
しかし、山下君は僕の顔を見るやいなや僕の目の前を走って通過した。
「ちょっと…待っ」
次の瞬間、僕の肩は強く掴まれる感覚を覚えた。後ろを見ると、三津高の生徒らしき5〜6人の生徒達が僕を囲むように立っている。
「お前って聖蘭か?」
「そうだけど…」
(えっ?何この人達?)
僕は、いつの間にか囲まれていたのでビビってしまった。
彼等は僕の目を見据えて、
「山下から聞いたケドさ…アイツの気持ち考えてやれよ」
「何で、こんな事出来るわけ?お前のツレがやった事だろ?」
「もう山下君に関わらないで下さい…」
「ってか、金とかは良いから時計は帰してやってくれよ」
三津高の生徒は、口々に僕を避難した。
さすがに、僕も怒りを覚えた。
「なんだよそれ?中村君は、何もやってないんだよ。山下君も昨日そう言っ…」
「最低ですね…中村っていう人。そしてあなたも…」
その言葉に、僕の怒りがリミッターが吹き飛ばした。
「お前に…僕と中村君の何が分かるんだよ?」
僕は、最低と言った痩せた学生に掴みかかった。
「ひぃぃぃ」
「おい、先生呼んでこいって!!」
僕を囲んでいた生徒が、あたふたとなって三津高の校舎に向かって走り出した。
(ちくしょ…コイツをグニャグニャのボコボコにしてやりたい)
僕は、初めて他人を力いっぱい打ちのめしたいと強く思ったが、必死に理性を保とうと努力した。
「山下君を呼んで来きてくれよ」
僕は、ガリガリ君を更に絞めあげたてやった。
「こらぁ!!そこのお前…あぁ?この前の奴か?いったいなんなんだぁ!!」
昨日、三津高の廊下で追い掛けてきた教師が、僕に向かって突進してくるのが見える。
(くっそぉ…何でこうなるんだよ…)
僕は、急いで校門を出た。
目の前には、これから登校してくる生徒の波が見えた。
しかし、いちいち避けてるわけにもいかないので大声で叫びながら波に突入した。
全速力で、走っていたので事故的に何人かの女の子の柔らかい部分を触ってしまったり、男のフニャとしたブツを強打してしまったりした。
僕が通り抜ける度に男女から悲鳴があがった。
「僕は、怪しい者じゃありませんので…」
人の波を通り抜けた後は一応伝えておいた。
(まぁ、この状況じゃ…ただの変態にしか見えないケドさ…)
一人で失笑してしまった。
バス停まで走って行くと丁度、バスが発車する所だった。
「乗ります、乗ります」
大声で、叫んでバスに駆け込んだ。幸いな事に乗客は少なかった。
僕は、目についた席にドカッと座り息を整えた。
携帯を見ると、8時45分だった。
(遅刻確定だし…まぁ、学級員だって遅刻するのさっ)
ため息混じりに外を眺めた。
(山下君を説得するのは絶望的だな……どうしよう)
僕は、学ランを脱いでシャツのボタンを少し外した。
二つ程バス停を通りすぎた時、見覚えのある、原付が路肩に寄せ付けて有るのが見えた。
僕は、バシッとバスの《次降ります》ボタンを叩きつけ、次のバス停に着くのをガタガタと貧乏揺すりをして待った。
(早く停まれ…早く)
バス停に到着すると、全速力でさっきの原付の場所に戻った。
まだ、原付は路肩に泊められていた。
(はぁはぁ、これって、中村君の原付だよな…?多分…?)
「うぉい!ほまへふぁにひとんら」
ペタペタと原付を触っていると、くぐもった叫び声が聞こえた。
振り向くと、情けなくヘナヘナと笑ってしまった…やっと会えたんだから。
「中村君…」
中村君は、片手に大量の何か(パン?)で膨れた紙袋を持ちながら、パンを口にくわえている。
僕の姿を確認すると、目の前に立っている僕に驚いているようだった。
「ふぁなだ?なぁにひいてんら?」
「あっ…うん。とりあえずパン飲み込んでからもう一回言ってよ」
「ふぁかっは」
中村君は、紙パックのコーヒーを口に含んだ。
数秒間の沈黙が僕と中村君の間に出来た。
「まぁ…良いや。取り合えず、どっか行こうぜ」
一息ついて、中村君が僕を別の場所に促した。
中村君の後について行くと、やがて公園に入った。
適当に公園のベンチに座ると中村君が、紙袋の中をあさった。
「メロンパン(未来の猫型ロボット風)」
そう言うと、僕の目の前にメロンパンをつき出した。
「あっ…ありがとう」
ってか、未来の秘密道具じゃないくて…普通のメロンパンじゃん!!っとツッコミたかったが我慢しておいた。
「んで、何してんだ?」
中村君が、手についたパンの粉をパンパンとはたきながら言った。
「えっ…」
「学校サボって何してんだって聞いたんだよ」
「僕は、中村君の事で…」
「はぁ?俺の?」
「うん。そうなんだ…僕と花君で中村君の無実を証明しようとしてるんだ。手始めに、中村君を犯人と間違えた被害者の子に会ってきたんだ」
中村君は、無言で遠くの方を眺めていたが、僕は続けた。
「それで、被害者の子に話を聞いて、中村君の誤解を解いてもらおうと説得したんだけど…」
「お前何なんだ?」
突然、中村君が冷めたい目で僕を睨んだ。
「だから、僕は中村君を…」
「助けるって言いたいのか?笑わせんな。お前に何が出来るんだよ?お前は、俺を助ける為に頑張る自分が善い奴だと思いたいだけなんだよ!!」
「ち…ちがうよ!!落ち着いてよ…。僕は、中村君の友達として…」
「友達なんて軽々しく言ってんじゃねぇ!!」
中村君は、持っていた紙パックコーヒーを地面に投げつけ立ち上がった。
コボッという水しぶきを感じさせる音ともに紙パックがくしゃけてコーヒーが溢れた。
「俺は、お前をツレだと思ってねぇよ!!勝手に友達面してんじゃねぇ!!偽善野郎!!」
「僕の…」
数十分前に駆け巡った激しい感情が、また僕を支配した。
「僕のドコが偽善者なんだよ!!」
僕は、立ち上がっている中村君に掴みかかる。
中村君も、僕の胸元を力一杯掴んできた。
「すぐに、偽善偽善っていうケドさ、君が偽善者を作り出してるんだよ!!過去に何があったか知らないし知りたくも無いけど、君が人を信じなきゃ…人が君を信じるわけないじゃん!!」
「ぐぅっ…」
中村君が、胸ぐらを掴んでいた手を離した。
「僕は、本当に君を助けたいんだよ!!だから、僕を信じて欲しい」
「消えろ…」
「中村君!!」
「今さら、お前に出来る事なんて何もないんだよ…。もう俺には、構うな…」
そう言うと中村君は去っていった。
(なんだよ…それ…。結局、僕の事信じてないんじゃないか…)
「僕は、絶対諦めないから!!」
僕は、寂しげに去っていく中村君の後ろ姿に向かい叫んだ。
独り残された公園で立ち尽くす僕の視界がボヤける。
(ちくしょう…ちくしょう!!)
僕の両目からは、涙が止めどなく流れ落ちた。
力無くベンチに座ると、僕は感情の赴くままに泣いた。
最近よく泣くなぁ…と、思いながら心も顔も涙で濡らした。
号泣した後の、気だるい気分に浸りボーッとしていると、携帯が震えた。
「はい…」
電話の主は花君だった。
花君は、今日僕が学校に来ていたい事を心配して電話を掛けてくれたようだった。
「えっと欧介君、伝えたい事二つ有って…一つは、カツアゲの現場は三津高の一駅向こうのゲームセンターらしいよ。大河君が教えてくれたんだ」
「えっ、大河君が?」
「あ…うん。それで…もう一つは、中村君の処分は明日出るらしいよ…多分、退学だって」
(今さら、お前に出来る事なんて何もないんだよ…。もう俺には、構うな…)
僕の中に、中村君の言葉が頭に蘇った。
(そうか…そうゆう意味で言ったんだ)
僕は、花君からの電話を切ってゲームセンターまで走った。
総てが上手くいくと信じて…。