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上手な修正液の使い方  作者: 和紙
18/70

三ヶ所目 6

少し長くなってしまいました。


ご了承下さい。

僕達を乗せたバスが目的地に着き、僕はバスから降りた。


花君の方を振り返ると携帯が震えながら着信を伝えているらしく携帯を取り出そうしていた。


「あっ、電話だ」


「じゃあ、先に歩いてるよ」


「ゴメンね」


花君が申し訳なさそうに作った笑顔にキュンとしながら僕はスーパーに向かって歩いた。


僕は、歩きながらふと思った。


(よくよく考えたら…中村君って謹慎中だよな…。って事は、バイトも…?)


今更になって自分が勢いだけで行動していたこと気づき、足が重くなっていく様に感じた。


「おまたせっ。どうしたの欧介君?歩くの遅いよ?」


花君が、元気良く走って僕に追いつき並んで歩き出した。


花君は、とてもやる気に満ちた顔をしていたので、思わず中村君がバイトに来てないかも…という話を切り出すのを躊躇した。



(いや…こういうのって早めに言った方が良いよな…)


覚悟を決めて、それとなく花君に切り出してみた。



「あのさ…中村君って謹慎中だよね?」


「あっ、そうだね。謹慎するって言ってたね。」


(花君、僕の言いたい事を察して下され…)


僕は、必死に念を送った。


しかし、花君は僕の念などに気付く訳もなく、新学期の金〇先生の様なやる気をみなぎらせているのが分かった。

結局切り出す事が出来ずに、僕達は他愛もない会話をしながらスーパーまでの道のりを歩いた。


スーパーに着くと、中村君がバイトに来てるハズが無いという悪い考えが一方的に膨らみ、僕は無口になっていた。


(ヤバイ…やっぱり、さっき花君に言えば良かった。今更、中村君いないかもなんて言えないし…どうしよう…)


「あははは」


「うぇっ、花君?」

僕は、突然笑いだした花君にビックリして思わず変な声を出してキョトンとしてしまった。


「あははははっ。欧介君どうしたの?歩き方が変だよ」


「変?あっ…」


僕は、悩むあまり無意識に右の手と足が同時に出るという変な歩き方になっていたらしい。


(もしかして、スーパーに入ってからずっとこれで歩いてきたとか…?)


そういえば、やけに店員さんの視線を感じた気がする。


「中学の時に、変な行進してる人いたよね?」


そう言うと花君は、またアハハハと笑いだした。


(あのぉ…花君…笑い過ぎですよ…)


そうこうしていると、中村君のバイト先の売店に着いた。


売店の奥には店主(中村君が言うには、おっちゃん)らしき人物がたい焼きを焼いているだけで中村君は勿論、他の従業員の姿は見えなかった。


(中村君…いないよな…)


僕が、諦め半分で店の奥を見ていると店主と目が合った。


「いらっしゃ…」


おじさんに、数秒間見つめられたので妙な気分になった。


「あっ、蓮ちゃんの学校の?」


急におじさんとが大きな声を出したので、ビクッとなった。


「あっ…はい。中村君のクラスメートの真田です」


「僕は、森島です」


二人で自己紹介するとおじさんは、たい焼きを紙袋に包んで店の奥へ僕達二人を誘った。


店の奥には、小さなテーブルがあった。


(店の裏側ってこんな感じなんだ…)


僕は、初めて見る社会の裏側に感動してキョロキョロしてしまった。


「今日、蓮ちゃんに何かあったのかい?」


席に着くやいなや、おじさんがたい焼きを僕達に手渡しながら切り出した。


「えっ、何故ですか?」


まさか、おじさんの口からそんな話が出るとは思わず、一瞬花君と向き合ってしまった。


「いやね…さっき、蓮ちゃんから今日は休むって電話がかかってきたんだよな…」


「もしかして中村君、元気無かったんですか?」


僕の脳裏に、教室から出ていく中村君の後ろ姿がよぎった。


「いや、逆なんだ…」


「えっ、逆って何ですか?」


花君がたい焼きを口に含み何度も噛み締めながら聞いた。


まるで、アズキを吟味みしている様に見えた。

「だから、むしろ元気過ぎたって事なんだよ…何か妙に声が大きくて…空元気というのか…」


「そうですか…」


「君達、今日蓮ちゃんに何があったか知らないかい?」


おじさんは、本気で中村君を心配しているようだった。


「実は…」


僕達は、おじさんに今日の出来事や今、中村君の置かれている状況について話した。


僕が話終わると、おじさんはとても悲しそうな憂いを帯た顔をして店のカウンター付近を眺めていた。


「そうか…そんな事が…」


「それで僕達は、中村君に会おうとココに来たんです」


おじさんは、相変わらずカウンターの方を見ながら静かに佇んでいた。


何故かしゃべっちゃいけない気がして、僕達は無言でたいやきを頬張った。


「君達は、蓮ちゃんと会ってどうするんだい?」


僕が、たいやきの尻尾にカブリついた時、おじさんが静かに口を開いた。


「えっ…。僕達は…。」


花君が、僕の方を向くのが分かった。


僕は、とまどってしまった。


確かに会って話をするだけじゃ、何の解決にもならない。


(会って、話して…どうするんだ…僕は…)


僕と花君は、何も言えずに、ただ黙ってうつ向き続けた。


そんな様子を見かねたのか、おじさんがたい焼きを、もう一つずつ持って手渡してきた。


「ごめんな…君達を責めた訳じゃないんだ。ただ、君達が同情や一時的な気持ちで行動したんじゃないかと思ったんでね」


おじさんは、ポリポリと額を掻きながら申し訳なさそうに笑った。


「あの子は、そうゆうの気にするんだよな」


「何故ですか?」


いつか、誰かに聞きたいと思っていた。


入学式や自己紹介の時も彼は、《嘘や偽善》という単語を匂わせていたからだ。


しかも、理由を知っている人物が目の前にいる。


だから僕は、無意識に口をついて出してしまった。


おじさんが目を閉じた。


僕達に話すべきか話さぬべきか悩んでいるように見える。


短い沈黙の後、


「こうゆうのは、本人に聞いた方が良いと思うんだが…」


「そうですね…」


おじさんの言うことが、もっともだったのでそれ以上は聞けなかった。



「そろそろ、店の片づけをせにゃいかん。それに君達の御両親も心配するだろう、もう帰りなさい。」


「あっ、はい」


僕は、立ち上がった。


しかし、花君はうつ向いたまま、立ち上がらなかった。


「花君?どうかした?」


「あぁ…ゴメンね」


花君が、少し微笑んで立ち上がった。


何故か最近、花君はたまに元気が無くなる事がある。


(僕が、花君を連れ回したから疲れちゃったのかな?)


花君に対して申し訳ない気持ちが出てきた。


「たい焼きごちそうさまでした」


「ごちそうさまでした」


二人でお礼を言いその場を後にした。



スーパーから出た後、僕はスーパーに連れてきた事を謝った。


すると、花君は不思議な顔をした。


「何で、謝るの?」


「だって、僕の行きあたりばったりの行動に花君を振り回しちゃったし…それにすごい疲れてる様だし…」


「えっ……あぁ、違うよぉ」


花君が、テヘへっと笑った。


花君の笑顔に僕の心配も少し軽くなった気がした。


二人で、バス停まで歩いていると、


「あの時、何も言えなかったね…」


花君がポツリと呟いた。


「もしかして…おじさんの?」


「うん…」


花君が、道端の小石をコツンと蹴った。


「中村君に会ってどうするか…っか」


(僕は、何がしたいんだろ…)


色んな想いが浮かんでは消えていく。


その消えていく想いを見つめようと目を閉じた。


近くで花君の蹴った小石がコツコツと音をたてて転がっているのが分かる。


「やっぱり僕、中村君に会うよ」


僕は、花君は静かに、しかしハッキリ伝えた。


っというか、それしかない気がした。


「うん…」


花君は、小石を蹴るのを止めて小さく頷いた。


「僕は、ココで立ち止まったらいけない気がするんだ。中村君をもっと知りたいし…だから進んでみるよ」


花君に僕のとびっきりの笑顔をプレゼントしてあげた(返品はききません)。


「うん」


花君は、大きく頷いた。


まるで、何かを決心したかのようだった。


「あのさっ、欧介君…」


しかし、花君の話は凄まじいクラクション音にかき消された。


「花ちゃーん。コッチだよぉ」


見ると、白いベンツのウィンドから小さな女の子が身を乗り出してコッチに向かって叫んでいた。


(えっ、あれって……ちぃちゃん?)


数日前に会った花君の親戚のちぃちゃんが元気良く手をブンブンと振っていた。


(あぁ…そんなに振ったら、マシュマロが取れちゃうよ…)


僕の手に、数日前に触ったちぃちゃんの手の感触が蘇ってきた。


「えっ、あっ…ちぃちゃん…?なんで?」


花君も、突然ちぃちゃんが現れたので状況をを掴む事が出来ずオタオタしていた。


ちぃちゃんは、そんな僕達をよそにベンツから降りてテクテクとコッチに走ってきた。


「花ちゃん見っけぇ〜」


ちぃちゃんは、花君に抱きついてニコニコと笑った。


「なんで?ちぃちゃんどうしたの?」


しかし、ちぃちゃんは花君の質問を聞かずに僕の方を見た。


「あっ、おうしゅけだぁー。おうしゅけも見っけー」


(きゃ…きゃわいいよ〜。ど真ん中頂きました〜星三つですぅ〜)


また、一つ僕のトキメキ萌えフェイスに新しい一ページが刻まれた瞬間が訪れた。



「ちぃちゃんどうし…」


「花ちゃん、おかぁさんが心配してるよぉ。。ちぃ姉ちゃんが連れて帰ってあげるぅ」



そう言うと、ちぃちゃんは花君の手を掴んでグイグイと車まで引っ張っていった。


(あっ…マシュマロ良いなぁ。でもすごい力だな…)


僕は、花君がグイグイと連れてかれるのを黙って見てるしかなかった。


「お…欧介君。ゴメンねー、また月曜日…」


そう言い残し花君は車の中に引きずり込まれていった。


「あっ…バイバーイ。また月曜ね」


(花君も大変そうだな…。でも、最後に何を言おうしたんだろう…)


「まぁ、良いっか」


僕は一人でそう呟いて、暗くなった空にキラキラと輝く星の光を見つけ次のバスを待った。


「この一週間は色んな事があったな。明日からの土日でゆっくり考えるか」



バスが、速度を落としてゆっくりと停まり、僕を中に招き入れた。

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