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上手な修正液の使い方  作者: 和紙
16/70

三ヶ所目 4

僕が教室に戻ると、相変わらずヒソヒソ話や金持ちグループからのムカつく目線が浴びせられたが気にしなかった。


蒼ちゃんが味方でいてくれるんだからクラスを敵に回してもどうってことない。


そんなこんなで、授業が全て終わり帰る時間になった時、


「今日は色々あったが明日も元気に登…」


「先生ぇ〜」


担任の挨拶を金持ちグループの嫌味な笑顔女の声が遮った。


「どうした藤井?」


「今日、自習の時間にぃ真田君が大声で騒いでぇ自習出来ませんでしたぁ」


はぁ?


僕は、いきなりのキラーパスに唖然としてしまった。


「なんだ。そうなのか?」


担任は顔をしかめながら僕の方を見た。


「おい真田、何で騒いだ?」


僕の周りを含めて誰もが黙って思い思いの方向を見ている。


自分関係ないっすよ。と雰囲気であらわしていた。


「そ…それは…」


「ちゃんと理由を言え。理由が有るんだろ」

どうやら担任は僕の回答を聞くまで帰らせないつもりらしい。


(ここで中村君の件について全てを打ち明けても藤井さんを筆頭にクラスのが否定すればより状況が悪くなるし)


黙ってうつ向いていると、突然誰かが喋りだした。


「先生。真田君からは言いづらいと思うから俺が理由を言いますよ」


突然の大河君の発言に担任を含めてクラス全員が注目した。


(えっ?大河君?)


戸惑っている僕を尻目に大河君は凛とした雰囲気で話だした。


「今日は、自習の時間にクラスの学級委員を決めていたんですけど…」


大河君が少し微笑んで、


「真田君の公約演説が熱くなりすぎちゃって…まぁ具体的には教卓を叩いたりですが。多分それで直前まで自習に集中していた藤井さんは自習中に騒いでいたと勘違いしたんですよ」


大河君の鮮やかな語り口に誰も口を挟まなかった。っていうか、挟めなかった。


何より大河君の話方には不思議と説得力があった。


「なんだ、そういう事か」


担任は納得したらしい手をポンっと叩いていた。


「真田…学級委員になりたいのは分かるが。あまりに熱くなるのは感心しないぞ。藤井もクラスの様子にもっと目を向けなさい」


僕は、藤井さんの悔しそうな顔を見て気分爽快になった。


「分かったのか真田?おい、ニヤニやするな」


担任は困り顔を浮かべてため息をついた。


担任の様子から、今僕の顔が、恐ろしくニヤニヤしていることに確信した。


「はい…気をつけます」


「んで、結局誰が学級委員んだ?」


担任はワクワクした様子でクラスを見回した。


めちゃめちゃ肝心な場面だ……大河君は、どうこの場を切り抜けてくれるんだろう?


冷や汗をかきながら期待の眼差しで大河君を見たが大河君は丁度廊下に何か、かなり重要な物を見つけたらしく夢中で廊下の方を見続けていた。


は‥い…?


僕は、あまりの衝撃に目が点になり、同時に更に冷や汗がモッサァと噴き出すのが分かった。


いやいやいや、廊下に何が見えるんだよっっ?助けるなら最後まで助けてよ〜〜。


大河君の行動にパニック状態に陥り心臓が8ビートを刻んでいる。


(どうしよう…どうしょう…とぉしお…としお)


あぁ、そっかぁ。どうしようを繰り返すと

「としお」

になるんだぁ…。



いやいや、何言ってんだ自分。


メダパニ状態がMaxになった時、フッと誰かが手を振ったように見えた。


その方向を見ると花君が小さく手を振っている。

えっ、もしかして花君何かいい考えが?


そう思い、


(助けてくれるの?ありがとう)


その意味を込めて手を振り返すと、花君の手の形がパーからOKマークに変えて微笑んだ。


(花君頼んます)


そう思った次の瞬間、


「先生。学級委員はもちろん真田欧介君ですよ」


花君の自信タップリの響きがソフトに教室に木霊した。


その言葉に、もう何が何だか分からずカバの様に口をポカーンと開けている僕に向かって、


(グッジョ〜ブ)


花君が、ビシッと親指を立ててテヘッと笑って僕を見た。


(えっ…えっ…ええ!)


何言っちゃってくれちゃったりしちゃったり……。やっと僕の頭が正常に動きだし、事の重大さに気付いたと同時に頭の中がグチャグチャになった。


「おっ、結局真田か」


「真田なんだな?」


担任は、最終確認のつもりらしく再び僕を見つめた。


もう、言い逃れ出来るハズもなく、


「ふぇ…い」


力なく答えた。


「ふぇい…ねえ」


担任は、またため息をついた。


「で、女子の学級委員は誰だ?」


(今この状況で僕と、学級委員やりたい女の子なんて)


嘘がバレる事を確信し机に突っ伏した。


「私が、女子の学級委員になりました。」


「ほう、楠木か」


(えっ楠木?)


ガバッと起き上がると蒼ちゃんが手を挙げていた。


僕は、嬉しさと今まで緊張感が解け無意識に涙を流してる事に気づいた。


担任もそんな僕に気付いたらしく、


「なんだ真田、学級委員がそんなに嬉しいのか?」


担任が微笑みながら言った。


(嬉しいです…ものスゴく嬉しいです)



僕の心の中にみんなに対する気持ちや色んな思いが浮かんだが、言葉にならず涙を拭った。


「よし、今日はここまでだ。明日も元気良くなっ」


僕は、ゴシゴシと涙を拭き蒼ちゃんの元に向かった。


「蒼ちゃん、ありがとう」


「ううん、欧介君に元気を貰ったお返しです」


「いや…そんな…」


「明日から二人で学級委員として頑張っていこうね」


「うん……」


僕は、蒼ちゃんの笑顔と《二人》という単語を改めて噛み締めてジーンとした。


蒼ちゃんの友達が蒼ちゃんを呼ぶのが聞こえたのでバイバイと言い蒼ちゃんを見送った。


相変わらず金持ちグループがゴチャゴチャ言ってきたので彼等の存在を視界から消して教室を出た。

花君を廊下で見つけ下駄箱まで歩く間花君に花君の行動にどれだけビックリしたかをしこたま伝えた。


「ゴメン、かなり良い案だと思って」


まぁ…、結果的に蒼ちゃんと学級委員になれたんだから良しとしよう。


下駄箱で、靴を履いていると大河君がやって来るのが見えた。


「あっ、大河君。今日はありがとう。すごく助かったよ」


感謝の気持ちを全面に押し出し伝えたが、


「別に、助けた訳じゃない。あの時は、担任の話が長くなるのが嫌だっただけだ」


教室での大河君とは、まるで別人の様に冷たい雰囲気でサラリと言われたので身動きがとれなかった。


「でも、学級委員になれてよかったな。中村の弁護をするのに充分な意味を持つな」


そう言うと軽く微笑んだ。


内心、僕はホッとした。


「大河君も中村君を助けるの手伝ってくれない?」


一瞬、大河君がとまどった様だったが、


「真田…知ってるだろ?中村と俺の間を」


大河君の漏らしたその言葉で、入学式の二人のやりとりを思い出した。


教室の中で敵意を剥き出しにした中村君と冷ややかな大河君、そして間に飛込んだ自分。


まるで昨日の様な感じにがする。


「俺には、中村を助ける理由がない。それに俺が助けても…あいつは…」



言葉を濁し、大河君は歩き出した。


「ちょっと、大河君?」



「追わないであげよう」


後を追おうとした僕に向けて、花君がポツリと言ったのが辛うじて聞こえた。


「う‥うん。花君?」


何故か花君は悲しそうにうつ向いている。


「どうしたの?」


僕の問いかけに気付いたのか、元気を取り戻したのか分からないがいつもの笑顔を浮かべた。


「欧介君、じゃあ…どうしよっか?」


「まず、被害者の人に会ってみようよ」


「どこの人なのか分かってる?」「確な情報によると三津高の生徒らしいよ」


「さっすが、学級委員だね」


「まぁね……」


花君は僕を褒め称えたが、確な情報と言う名の盗み聞きですね…。


「じゃあ、いっちょやっちゃいますか」


花君は、待ちきれないって感じでアーチ状の校門に向かって走り出した。


しかし、花君を追いながら僕の頭には中村君と大河君の事がグルグルと渦巻いていた。

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