三ヶ所目 3
今回作から欧介の視点(一人称)を強調するように執筆します。
ご了承ください。
「な…中村君」
僕の叫びにクラス全体が驚くべき早さで中村君に注目した。
「うわっ…入りづら」
中村君は、苦笑しながら教室に入ってきた。
僕の爆発させた怒りの後で静まりかえった教室には、中村君が荷物をまとめる物音以外の音がしなかった。
静まりかえる中で中村君が片手に持てるぐらい少ない荷物をまとめながら、
「いやね〜〜金欠でね〜ちょうど前を通りかかった奴を殴って援助してもらった訳よ」
いつもの様にカラカラと笑っている。
「真田っち!お前ならハリウッドで主演男優に選ばれるんじゃねえ?さっきのは、迫真の顔とセリフだったぜ」
(えっ‥…真田っち?っていうか、見られてた?)
カラカラと笑い続けながら話しかけてきた。
「じゃあな〜〜犯罪者は処罰が出るまで謹慎しますわ!あと、金持ち自慢の奴らは気をつけろよ!今度は、お前らから援助していただくかもな」
中村君は、嫌味な金持ちグループに向かって邪悪な笑いを投げつけた。
ひとしきり、笑った後でスタスタと軽快に歩き出し教室の出入り口に向かっていった。
ドアに着いた時、一瞬中村君がドアの前で立ち止まったように見えた。
僕は、立ち止まった中村を帰すまいと、
「待っ…」
と、言いかた瞬間、
ドガァン
中村君が、おもいっきり壁を殴りつけた。
ビクッとしてクラス全体(僕を含めて)が中村君の行動に唖然とする中、
「じゃあな!」
中村君は、ドアの外を見ながらそう言い残して消えいった。
僕は、その衝撃音にビビってしまい、その場から動く事が出来なかった。
クラス全体が金縛りにかかったかのように静寂が訪れる中、突然かん高い声が響いた。真っ白になった頭に、中村君の邪悪な笑いを投げつけられた金持ちグループがギャーギャーと騒ぎながら雑言を言ってのが聞こえた。
(中村君、何で話を聞かせてくれないんだよ)
僕の頭の中は、中村君の事を考えるので一杯になり、耳障りな雑言を聞かないように頭のダイヤルをヒネって机に突っ伏した。
いつ、自分の机に戻ったのかも分からず目を閉じた。
(もう…疲れた…)
直後、真っ暗な闇が目の前に広がっていった。
気づかない内に寝ていたらしい、一時間目が終わるチャイムの音が鳴り響いていた。
(うわぁ、だっるぅ)
気だるい気分で立ち上がった。
立ち上がったと同時に周りの目線が僕に向けられた。
偶然、目が合った一人がすばやく目を逸らして近くの席の人に話しかけた。
(あ〜〜そういうことか。次は、僕がクラスの的ってわけね)
無性に腹がたち、とにかくこんな教室に一秒でも居たくなくて廊下に向かい荒々しく歩きだした。
途中で、金持ち自慢グループが何か言ってきたので廊下に出た後、おもいっきりドアを閉めてやった。
今の気分を表すならはうっせぇよ!!だ。
今なら面と向かって言える。
僕が、怒りで無意識にトイレに向かって歩いていると、後ろから名前が呼ばれた。
だけど無視した。今は、誰とも(蒼ちゃんは例外だけど)話たくないから。
しかし、無視しても相手はなおも名前を呼びながら近づいてくる。
(しつこいな。こうなったらトイレの個室に隠れてやる)
そう思い、更にスピードを上げると突然、誰かに抱きつかれた。
(はぁ?誰ですか…昼間から廊下で抱きつく人はぁ)
いきなり抱きつかれたので反射的に振り替えると花君が抱きついていた。
「欧介君カッコよかったよ!サイコー!やっぱり欧介は良い人だね」
花君が、僕を見ながらこれ以上無いってくらいの笑顔で飛び跳ねていた。
(い‥いや、何が?)
イロイロ有りすぎて&寝起きでいまいち気分が乗らない僕は、何も言えず立ち尽くした。
そんな様子を見かねたのか花君が、
「ご…ごめん!つい。あのね僕も、中村君がカツアゲして無いって信じてるんだ!だからクラスがあんな状況の中、欧介君がミンナの前で叫んでくれたのが嬉しかったんだ」
バツが悪そうに言った。
「いや…あの時は我慢出来なくてついね…」
「僕を含めて3人は、欧介君の味方だよ」
(えっ、3人?)
その3人という単語に何故か、桃太郎の部下の動物3匹が頭に浮かんだ。
僕は、頭の中で桃太郎のテーマソングをリピートしながら花君の後方を見ると女の子が二人歩いてくるのが見えた。
僕は、まだ醒めきれない気だるい気分を引きずりながらボーッと女の子を眺めていた。
えっと……軽くパーマがかかっている茶髪というかむしろ栗色で…(も〜もたろさん×2)、セーラ服がこのうえ無く似合う清楚な女の子で…(御腰につけたキビダンゴッ)。
あ‥蒼ちゃん!と、その友達…(ねぇ…欧介…一つ私に下さいな……もうイジワルしないでぇ。)
女の子の正体に気づいた瞬間、歌っていた可愛らしい子供達の声が色っぽい不〇子ちゃんのコーラスに変わった。
(蒼ちゃんが僕の味方?マジっすか!って、もしかしてクラスの陰謀か?ドコだよドッキリカメラはぁ)
「真田君。見直したよ。」
蒼ちゃんの友達が言った。
僕は、全く耳に入らず挙動不振に辺りをグルグルと見回した。
「欧介君…」
蒼ちゃんがポツリと言った。
「はいっ」
グルグル回していた僕の首は蒼ちゃんの一言でガッチリとロックされた。
「ありがとう。教室の空気を変えてくれて…。私、信じられなかったの…昨日まで一緒に過ごしてたクラスのミンナがあんな事言うなんて。だから、悲しくて…それに私…」
蒼ちゃんの目から大粒の涙が止めど無く溢れた。
(綺麗な涙だな)
蒼ちゃんの涙を見ていると心が洗われる様な気がする。
不思議とさっきまでのドキドキ感が無くなった僕は、持っていたハンカチで蒼ちゃんの頬を流れる涙を優しく拭きとってハンカチを手渡した。
「泣かないで…」
蒼ちゃんの涙を見ていたら僕まで泣きたくなってきた。
「だって私は、ミンナと同じで…中村君を…ただ震えてるだけで…」
「違うと思うよ」
「ううん…私も、みんなと、同じで…」
「蒼ちゃんは、震えながら一生懸命クラスに抵抗してたんだと思うな」
ハッとした顔で蒼ちゃんが僕の顔を見つめた。
蒼ちゃんの涙で潤んだ目も、小刻にゆれる口元も薄紅色の頬も全てを含めて、愛らしく感じた。
「だから、蒼ちゃんは何も出来ずにクラスの雰囲気に呑み込まれた人達とは違うよ。一生懸命抵抗してたんだからね。言葉で抵抗したか態度で抵抗したかの少しの違いだけだよ」
僕は、とびっきりのスマイルで蒼ちゃんに笑いかけた。
僕の言葉を聞いて蒼ちゃんも優しく微笑んでくれた。
「欧介君は、ありがとう…」
蒼ちゃんが涙を拭きながら言った。
(当然だよ…僕は、蒼ちゃんだけの紳士さっ……)
って言いたかったが我慢した。
「やばっ、僕まで感動しちゃったよ。良い話だぁ」
花君がパチパチと拍手をしながら頷いた。
「うん…更に、見直したちゃったよ」
蒼ちゃんの友達も涙ぐんでいた。
今になって、二人の存在に気づき蒼ちゃんにした行動も言った言葉も二人に筒抜けだったと分かり、かなり恥ずかしくなった。
「と‥とりあえず、教室に戻ろうか」
僕は、恥ずかしさのあまりに教室に向けて歩きだした。
「ちょっと…待ってよ!欧介君」
花君を先頭に3人が後ろについてくる。
僕は、いつの間にか気だるい気分も無くなり元気になっている。
(気分が晴れたなぁ)
「ありがとう。3人のおかけで元気出た」
僕は、振り替えって伝えた。
3人とも頷いてくれた。
(よっし!こうなったら、絶対中村君の無実を証明してやる。クラスになんかに負けるもんか)
僕は、決意を新たに教室のドアを開いた。
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