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上手な修正液の使い方  作者: 和紙
14/70

三ヶ所目 2

今回も3人称です。


「大変だよ!中村君が昨日、他の学校の生徒からカツアゲしたんだって!」


その一言には、クラスにいた人間を黙らせるぐらいの威力があったらしく、一瞬でクラスが暗い雰囲気に包まれた。


「しかも、お金だけじゃなく相手の大事な時計まで盗ったんだって!」


クラスからヒソヒソ話が聞こえ始めた。


「欧介君、今の話ホントなのかな?」


花が不安げな顔をしながら欧介の方を見た。


「中村君が…どうなんだろう」


欧介には、今までの言動が目に浮かび曖昧な言葉しか言えなかった。


暗い雰囲気のクラスにぞくぞくとクラスの人間が登校して新たな好奇の波がクラスに押し寄せた。


数分後、クラスが騒がしい中いつもはニコやかな担任がえらく真面目な表情でクラスに入ってきた。


「今日は、STは無しだ。一時間目も担当の先生が来れないので自習」


そう、言うと担任は教室を出ようと足を進めた。


「先生!!やっぱり中村君の事で自習なんですよね」


クラスに爆弾を爆発させた女の子が弾かれたように立ち上がって叫んだ。


クラスの全ての目が担任に浴びせられる。


その言葉を聞いて担任は一瞬視線を曖昧に振った。


そして何も言わずドアの外へと出ていた。


その担任の行動でクラスの皆が中村の事だと確信した。担任がいなくなったクラスは各自がバラバラになった。


勉強する者、中村の処罰について話す者、寝る者、漫画を楽しむ者各自がバラバラになったせいで教室が更に騒がしくなった。


欧介は、自分の席で中村がホントにカツアゲしたのかを考えていた。


(ホントにやったのかな。でも…もしかしたら)


欧介の自分との対話は好奇を含んだ叫びによって打ち砕かれた。


「みんなぁ!席について下さぁい!」


教卓に手をつきながら一人の女の子が笑いながら鼻にかかった甘ったるい声で言った。


(なっなんだ…いきなり)


女の子が何を提案するのかを期待して今までフラフラしていた皆が席に着いた。


その様子を見届けると、女の子は更に微笑んで、


「このぅ、自習の時間を使って犯罪者の中村被告(一部の人から笑いが起きた。)について討論したいでぇす」


そう言うと、女の子は自分で拍手をした。その拍手に合わせて、女の子といつもツルんでいるグループが拍手をした。


「私は〜中村君、じゃなくて中村被告はカツアゲしてると思いまぁす。だって、髪の毛もハデだし顔がちょっと良いけど…品が無いというかむしろ貧乏人って感じだし!お金に困ってますぅ!って顔ってやつぅ」


突然、欧介の脳裏に昨日の一生懸命みたらしを焼く中村の姿が目に浮かんだ。


「そうだ!そうだ」


「あんな、うっとうしい貧乏人なんてさっさと消えちゃえば良いんだよね」


「そうそう!実際、問題起こした奴がクラスに居ると他の組からバカにされるし、この学校の品位に関わるよな」


(ちぃ、俺のみたらし美味いだろ??)


欧介の脳裏に夕日の中で、ちぃとイタズラっぽく笑い合う中村の笑顔が浮かんだ。



「言えてる言えてる。っていうか、やっててもやって無くてもどっちでも良いよね!!どうせ消えてくれるんだし」


金持ちグループが嘲笑うかのような笑い方をしながら、再び拍手をした。


そのグループの勢いに呑まれてにつられてクラスのあちこちからパラパラと拍手が起こった。


(真田も食っときな。今回だけは…おごってやるよ)


照れながらみたらしを差し出す中村の姿が浮かんだ。


「他の人は、どう思うのかなぁ?って聞くまでも無いかぁ!!ミンナもおんなじ意見みたいだしぃ」


一部を除いて静まりかえるクラスを見回して満足そうに笑った。


「よぉしぃ!皆で犯罪者を追い出す計画を作ろうよぉ。良いアイディアある人手を挙げてぇ」


更に調子づいた藤井は話を続けた。


花は、クラスで起こっている異様な議題に知らず知らずの内にうつ向いて手を握り締めていた。


クラスの雰囲気に押し潰されそうな自分の不甲斐無さを悔しく思いながら。



近くの席に座る蒼も小刻に震えているのが見えた。


その時、ガタッと誰かが立ち上がる音がして音の方を見た。


欧介が教卓に向かって歩いていた。


欧介の姿を見て、花の拳に入っていた力が無くなった。


「うわぁ〜真田君ノリノリだねぇ!ミンナの前でアイディア言ってくれるなんて…」


「ふざけんな!」


嫌味笑いの藤井の言葉を遮り、教卓におもいきり拳を叩きつけて叫んだ。


そのすさまじい音と怒声にクラス全体が揺れた。欧介は、生まれて初めて怒りに身を任せた。


「何なんだよコレ!ミンナ何で何も言わないんだよ!」


「ちょっとちょっと真田くぅん!!なに…」


「最低だよ!何で、誰も中村君を信じるって言えないんだよ!まだ二週間しか経って無いけどクラスメートだろ!!これから一年間一緒に過ごすクラスの仲間じゃん!!それが何だよ…犯罪者を追い出す?全然意味分かんないよ!」


教卓から、蒼が涙を流しているのが見えた。


欧介は蒼を泣かせてしまった事に申し訳なく思ったが、言葉は止まらなかった。


「中村君の事何も知らないくせに偉そうな事言うなよ!」


欧介は、クラスに叫ぶと同時に数十分前まで疑う気持ちの有った自分自身に対しても叫んだ。


最後の怒りの炎を嫌味笑顔な女の子とその取り巻きに向かって大爆発させた後、自信を持って断言した。



「僕は、中村君を信じます!クラス全員が信じなくても信じる!以上終わり!」


有無を言わせず欧介が話を終えた時、教室のドアに中村の姿が見えた。

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