二ヶ所目 ラスト
長いですが、ご了承下さい。
今回は、3人称で書きました。
バスを降り、欧介はスーパーをバス停の案内表で探して向かった。
数分後、全国チェーンの某スーパーを見つけて入店した。
母親から頼まれた買い物を済ませて、レジに向かい代金を払い終えて帰ろうとした時、
週刊雑誌の発売日を思いでして雑誌コーナーに向かって歩いた。
その時、
「あっ、欧介君だよね?」
目の前から歩いてきた男の子(?)に声をかけられた。
「あっ…えっと…」
教室で会ったサラッとした男の子だというのは分かるが名前が思い出されず焦っていると、
「あっ、忘れちゃった?森島 花だよ。ヒドイなぁ〜」
男の子は、ぎこちない笑顔を浮かべて言った。
「あっ、ゴメン…」
欧介は、忘れていた事を恥じた。
「あっ、嘘だよ。気にしてないよ」
花君は笑顔で許してくれた。
「それより、小さな女の子見なかった?」
そう言うと、足のモモぐらいの丈を示した。
そういえばさっき、女の子が走り回っていたのを見た気がした。
「女の子かぁ。そういえば、喫茶コーナーに入っていく女の子を見た気がする」
「そうなんだ〜ありがとう。じゃあ学校で」
そう言うと、花は立ち去ろうとした。
「待って!僕も捜すよ」
欧介は、名前の事で花に悪い気がして手伝おうと思った。
「えっ、そんな良いよ。名前の事なんて気にしてないし」
「いや、二人で捜した方が早いと思うから」
欧介は、気にしてないと言われても引き下がれなかった。
「一緒に探しても良いかな?」
もう一度聞くと、
「ありがとう。じゃあお願いね」
二人は、笑顔を交して喫茶コーナーへ急いだ。
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その頃、喫茶コーナーの一角のお団子屋では、
「すいませぇん」
小さな女の子が元気良く声を出した。
「いらっしゃいっ」
女の子に負けないぐらいバイトの学生も声を出した。
「えっと‥みたぁし3本下さぁい」
「みたぁし?あぁ、みたらしね」
学生バイトは、みたらしを三本パックに入れると女の子に手渡した。
「ありがと。おじ兄ちゃん。」
「おいおい、おじ兄ちゃんか。微妙な呼び方だな」
一瞬戸惑ったが、すぐに戻った。
「御代は180円だよ。おチビちゃん、お買い物かい?」
「チビじゃないもん。ちぃだもん。」
女の子は、みたらしを食べながら目をウルウルさせて今にも泣きそうになった。
「あっ…ちぃちゃん。お買い物なの?あと180円は?」
バイト学生は、ヤバイと思い急いで女の子をなだめた。
「あっ、ちぃお金持ってないや。」
そう言うと女の子は、みたらしの串を捨てて突然キョロキョロしだした。
「お金持ってないか……お母さんは居ないのか?」
その時、女の子は歩いてくる男の元に走っていき抱きついた。
「花ちゃん!もぅどこいってたのぉ」
「どこって、ちぃちゃんこそドコ行ってたの」
花はフと、学生バイトの顔を見た。
「中村君?中村君だよね?」
その言葉に、女の子と花のやりとりを見ていた欧介もバイトを見た。
「よう、森島にイメチェン。」
欧介は、赤毛の放った言葉の暴力を直に受けた。
「やぁ…」
欧介は、苦笑した。
欧介の苦笑を気にせず中村は、
「えっ、ちぃって森島の妹なん?」
単刀直入に聞いた。
「あっ、おしいな。近所に住んでる親戚だよ」
花は、笑顔で答えた。
「そうなんだ。ってか、お前って名前の通り女子っぽいな。遠くから見たらパッと見、男とは分からんな。」
赤毛は、カラカラ笑いながら花にもジャブの連打を放った。
その様子に欧介は、更に苦笑した。
「中村君は、いきなりだな」
花も苦笑していると、
「花ちゃん、みたぁし食べて」
ちぃちゃんが、花にみたらしを手渡した。
「みたらしって、ちぃちゃん。このみたらしどうしたの?」
花がクエッションを浮かべながら聞くと、
「おいしいよぉ」
ちぃが、最後の一本を食べながら言った。
「おいしいよぉ。じゃなくて…ダメじゃないか、勝手に食べちゃ。ココは、家の店じゃないんだよ。お金払わなきゃいけないんだよ」
「ちぃ、お腹減ったんだもん…」
ちぃは、目をウルウルさせた。
ちぃのウルウル攻撃に包まれて、胸をときめかせた欧介は、気づいたら財布を取り出していた。
「欧介君!」
花の言葉に、我にかえった欧介は照れながら財布をしまった。
「ごめん中村君。お金は払うから、いくらなの?」
花が財布を取り出すと、
「ぐぅ……ったく、いらねぇよ。」
赤毛は、うつ向いてみたらしを二本焼きながら言った。
「えっ?」
花と欧介は戸惑った。
「いやいや、そんな悪いよ」
花が小銭を出すと、
「だから、今回だけは仕方なく、特別におごってやるよ」
そう言うと、焼いているみたらしにをタレを塗って欧介と花に一本ずつ手渡した。
「ほらっ、森島食べな。」
花は、とびっきりの笑顔で受け取った。
「ほらっ、真田も食っとけ」
欧介は、タレの濃厚な香りと熱気が立つみたらしを受け取った。
「あ…ありがとう。」
ぎこちない笑顔しか出来なかった。
欧介は、初めて中村に名前を呼ばれたことに嬉しさを感じた。
急に、聖蘭のクラスメートだという事に実感が沸いた。
「ホントに、ありがとう」
欧介は、もう一度中村の顔を見て言った。
「お前、そんな真っ直ぐ目を見んなよ。恥ずかしいだろ」
中村は、照れ笑いした。
「ゴ…ゴメン。」
欧介も、何故か照れた。
「変な、おじ兄ちゃん達。」
ちぃの頭の上にクエッションが3つ並び、首を小さく傾げた。
「おーい、蓮ちゃん。学校の友達かい?」
声と共に、奥から店主らしき初老の男性が出てきた。
「ああっ、そんなもんかな」
中村は、焼いている団子を回しながら言った。
「そうか。じゃあ、少し休憩してきな。色々話したい事もあるだろう」
店主は、微笑みながら中村の肩をポンポンと叩いた。
「良いの?」
中村は、振り替えって聞いた。
「あぁ、良いとも良いとも」
店主は、シワがたくさん刻まれた笑顔を見せた。
「あんがと、おっちゃん。休憩から戻ったらバイト張り切るからさっ」
そう言うと、中村は店の奥へ引っ込んでいった。
「じゃ、ここで待ってよ」
花は、ちぃがまた走り出さない様に、ちぃの手を握った。
その横で欧介は、喉が渇いてジュースを買おうと財布を開いた。
財布の中には500円が佇んでいた。残りの500円を使えば雑誌が買える。しかしジュースが欧介を誘惑していた。
苦渋の表情を浮かべながら欧介は、自動販売機に500円を弱々しく投入した。
「ちぃちゃん、何飲む?」」
欧介は、ちぃに笑顔を向けて言った。
「そんな、欧介君にま…」
「オレンジさんが良いなぁ」
ちぃは、花の言葉を遮って跳び跳ねながら言った。
「コラァ…ちぃちゃん!」
花は、ちぃにダメでしょっ!!らしき顔を作った。
「おうしゅけ大好き〜」
ちぃは、花の手を離して欧介の足元に抱きついた。
欧介は、照れながらちぃの頭を撫でて聞いた。
「花君は、何が良い?」
「えっ、いやでも…じゃあ、お言葉に甘えて緑茶で」
欧介は、緑茶とオレンジジュースのボタンを押して二人に渡した。
残りは、260円と表示された。
雑誌が欧介を呼んでいる様な声が聞こえる。
キャラクター達の艶かしい声が。
欧介が、自販機の前で唸っていると、
「おっ…欧介君?」
花の声が耳に入った。
ビックリして、我に還った瞬間、
ガタン
コーラが取り出し口に落下した。
さよならジャンブ君。そう心の中で呟いて、続けてもう一本コーラを買った。
ちょうど、その時中村が裏から出てきた。
「わりぃなぁ。お待た」
イタズラっぽい笑顔を張り付けて。
「あっ、中村君。バイトお疲れ様。コーラで良かったかな?」
欧介は、中村に涙と苦渋の思いが詰まったコーラを差し出した。
「真田サンキュな」
中村は、その思いの詰まったコーラを何も知らずにヒョイと受け取った。
4人は、スーパーの外のベンチに向かって歩き出した。
「どうだった?一週間は?」
花がニコッと切り出した。
「ナカナカだなぁ〜。オモロイ奴も居るしな」
赤毛は、小悪魔笑いを欧介に向けた。
欧介の喉にコーラの炭酸が痛く響いた。
「まだ、クラスにどんな人達が居るか分かんないからなぁ…」
欧介は山の谷に赤い線を残して沈んでいく太陽を見ながら言った。
「そうだよね…」
「だな…」
二人も、沈み行く太陽を見ながら何故か黄昏た様な表情を浮かべて呟いた。
欧介には、二人が何故か悲しげに見えた。
そんな雰囲気を、
「ちぃ、もう帰るぅ」
という、最大限の不満を含んだ叫びが破った。
「ちぃちゃん、もうす…」
「帰る帰る帰るぅ〜」
ちぃは、花の問かけに全く答える様子が無かった。
「そうだな……そろそろ戻るか」
中村がベンチから立ち上がった。
「ゴメンね……中村君」
花が申し訳なさそうに謝った。
「気にしなさんなって。じゃあな森島、また明日」
そう言うと、背伸びをした。
「真田、コーラあんがとな。美味かったぜ」
中村は、肩をポンと叩いて歩いていった。
「ちぃちゃん、団子美味しいって言ってくれてあんがとなぁ」
振り返って、そう言うと赤毛は店の中に消えて行った。
「欧介君、ホントに色々ありがとう。嬉しかったよ」
花が微笑みながら手を握ってきた。
その柔らかな笑みに、欧介は花が男と分かりながらも照れた。
「おうしゅけ〜〜バイバイ」
ちぃも、手を握ってきた。
その柔らかさに感動を覚えた。
「じゃあ、僕達は車で帰るから。また学校でね」
そう言うと二人はバス停の反対側に向かって歩いていった。
欧介は二人を見送った後、明日からの学校生活に期待を膨らませてバス停に向かって歩き出した。