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未返却魔導書と科学のススメ  作者: 藤本 天
74/85

68P子羊たちへの応援歌Ⅳ

「ガキが!!粋がりやがって!!」

ランクに続くようにロラン、ゼクスが部屋に飛び降りた。

「グレン!!」

セルフから借り受けた剣を怨敵に向けるが如き力で義兄弟を縛る紫の蛹に突き立てる。

しかし、剣は鈍い音と共に弾け飛んだ。

「くそっ!!何で出来てやがる!!」

「どけ、ランク!!」

空気を裂く声と共に突き出された正拳が紫の蛹を砕いた。

「グレン!!」

支える力を失って倒れこんできた義兄弟の身体をランクは抱え込む。

(冷たい)

触れた肌は氷のよう、顔色もよくない気がする。

「あまり揺するな。ほら、これ着せて、飲ませろ」

ロランに渡された上着と平たいボトルを受け取った。

ボトルの蓋を開けると強いアルコールの匂いが鼻をつく。

気つけ代わりの蒸留酒(ブランデー)らしい。

相当強い蒸留酒だったのか、数口含ませただけでグレンが咳き込んで意識を取り戻した。

「グレン」

「……ら…く?」

回らない舌と虚ろな目で、それでもしっかりと自分を認識した事にランクは安堵と共に全身の力を抜いた。

「………心配かけんなよ」

「おい、安心するのはまだ早いぞ」

ゼクスの視線の先、いくつもの蛹の中にはいく人もの人が囚われている。

対して、まともに動けるのは司書達三人とランクゼクスを含む、五人の騎士科の生徒だけ。

悩む生徒達の前で、図書館司書達は冷静だった。

「置いて行かれたくなかったら、義兄弟背負ってついて来い」

ロランが紫煙をふかしつつ、言う。

「見捨てるって言うんですかっ!?」

思わず噛みついたセルフにロランは応えない。

「救うために人員を呼びに行くんですよ」

チャーリーは宥めるようにそっとセルフの肩に手を置く。

「だが……」

納得できない顔で蛹を見上げるゼクスの前でロランは目を落とす。

「足下、見てみやがれ」

目を落としたゼクスは小さく息を飲む。

不気味に脈打つ紫の光。それは、意思があるかのようにじわりじわりとゼクス達の足元に集まりつつある。

そして、光は徐々に強くなってきているようだ。

「絡みつかれたら、どうなるかわかるよな?」

同じように足下を見たセルフが悲鳴を上げた。

トランやエクエスも顔色が悪い。

「………行こう」

ゼクスが噛みしめるように一歩を踏み出した。悲壮な顔をした騎士科の生徒達がそれに続く。

「……ランク」

「無理にしゃべるな、グレン」

ランクの背に負われたグレンが振り絞るように声を出した。

薄らと目を開けて、場所を問うようにランクを見上げる。

「あの部屋の隣にあった、洞みたいな場所だ」

それを聞いたグレンは大きく息をついて、辺りを見回す。

「この部屋の、どこか、転移魔導陣が…それで、外に」

「マジでっ!?それ、どこにあるんだっ!?」

ランクの問いにグレンはわからないというように首を振る。

「探すぞ!!」

聞いていたらしい、司書達が動き出す。

ふと、ゼクスが触っていた壁が赤く輝き始めた。

「っ!!」

思わず飛びのいたゼクスと共に、皆が緊張に顔を強張らせる中、赤い光の中から藍色の髪の美丈夫が現れる。

「…………」

光の中、否、発光する魔導陣の中から出て来た彼は、驚きで間抜けな顔をする一同をじっくりと見回した。

発光する魔導陣から出てきた彼は、微かにその美貌を顰めてあたりを見回した。

「待ていっ」

魔導陣の中に戻ろうとしたアヴィリスの肩をロランはがっしりと掴んだ。

「おいこら、逃がすと思うか?宮廷魔導師サマよう」

「…………何故ここに君達がいるんだ?」

心底嫌そうな顔でアヴィリスはロランを見上げる。

「まぁ、色々あってな。協力してくれ」

一応軍属だったアヴィリスを“保安”業務を行うとはいえがっつり文系の司書であるロランはいとも容易く魔導陣から引き離す。

「内容による」

顔を引き攣らせつつ、ロランの手から逃れようとアヴィリスはじりじりと後ずさる。

「簡単だ。その穴の中に魔導で拘束された奴らがいてな。可及的速やかに救助したい」

だから、と一旦言葉を切ったロランは無駄な抵抗をするアヴィリスを逃がさないように抱え込んで顔を突き合わせた。

「俺達が払っている税金分、がっちり働け、官僚!!」

場所が場所なら、立派なたかりだと思いつつ、アヴィリスは諦めと共に頷いた。


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