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未返却魔導書と科学のススメ  作者: 藤本 天
71/85

65P子羊たちへの応援歌《エール》

久々に投稿できました!!


タイトルを変えました!!

まるで赤い染料を被ってしまった羊たちのような雲が浮かぶ空を眺めながら、ユーリは『学院』の中央広場を歩いていた。

一日ちゃんと安静にしたため、明日は『学研』という事もあり帰宅を許されたのだ。

…………うるさかったから、追い出されたわけではないはずである。

「………これで、いいのかなぁ」

道の脇には中央看板。

『学研』の情報資料が所狭しと貼り出されている。

この中に混じって、自分が学びたいものを探して……。

(それから……)

それから、どうするのだろう?

ふと、ユーリは足を止める。

目の前には中央掲示板。

『俺、科学者になりたいんだ!!』

『私は応用魔導学を学び、さらに世に役立つ魔導とは何なのかのアプローチを続けたいのです』

『私は植物学部を専攻したい』

『わたしは、医者に』

自分の学友たちの言葉が蘇る。

「じゃあ、あたしは?」

呟いて、声にして始めて気づいた。

(あたし、自分が何をしたいのか、まったく何も考えてない!!)

膝から崩れ落ちそうになるほどの虚無感が沸く。

実際にへたり込んだ。

中央掲示板がとてつもなく大きく見える。

所狭しと貼られた、質の悪い紙に描かれているのは未来への片道切符だ。

皆、この片道切符を一つ選んで未来に進む。

だが、ユーリには自分が大人になって何をしているのか、その予想(ビジョン)が出来ない。

(だって、由利は……)

15歳で、死んだのだ。

家族とは縁が希薄そうだった、ある日ものすごい光に飲み込まれて死んだ、15歳の少女。

彼女の魂を持つ自分は。

(由利は、どう生きたかったの?)

漠然とした死への恐怖から、生を望んでいたが、その事がすっぽ抜けていた事に始めて気づいた。

「どうしよう?」

彼女が呟いた声は、まるで迷子になった小さな子供のように弱々しかった。



「うわぁ~。出るわ、出るわ」

アルカス・カリスト=アルス・オル・オストロ教授の研究塔に不法侵入したクライヴは呆れたように羊皮紙の束をめくる。

「売買禁止の魔導植物の密輸リストに調合禁止の魔導薬の調合レシピ……これ、一発で『裁判所(コート)』行きなんですけど」

意味深に隠されていた魔導陣を通り抜けると、惑星魔導で空間を歪めた特殊な空間に入り込む事になった。

そこは、アルカス・カリスト=アルス・オル・オストロ教授の秘密の実験室だったらしく、危険な魔導薬・魔導植物やら魔道具やらが所狭しと並んでいた。

「あ~。イオン君達が見たのはこの部屋ですかね~」

ごそごそと手掛かりになりそうな物を探すが、ぶっちゃけ、もうここに『断罪人』を連れて来たくなった。

(人数集めて、魔導科を封鎖してローラー作戦で協力者もろとも引き摺りだした方がいい気がしてきましたね)

しかし、そんな事をすると次はおそらく理事共が煩いだろう。

残念な事に高貴なオストロ教授は理事たちと密接に繋がっている。

(『学研』が明日って言うのが、痛いですよ)

明日には『学院』外部の人間まで視察にやってくる。

今更、『学研』を行えません。とは言えない事情が考えれば考えるだけ出てくる。

『学院』のメンツもあるし、期末考査の日程も詰まっているし、外部の人間、つまりスポンサーへ『学校内で教授が危険な魔導を使用中』なんて言えるわけがない。

そんな事言った後にはこれ幸いと他校の横やりやら王都の教育委員会からの突き上げが始まって、今の面白おかしい『学院』が維持できなくなってしまう。

(……それにしても、貴族とは言え一個人がこんなに危険な魔道具やらを揃えられますかね?)

金にあかせりゃ手に入る“魔鉱石”とは違い、こういった危険な魔導植物や魔道具は表沙汰にならない分、流通系も限定される。それ故に高額になるため、まとまった金銭が必要にはなるが、まずは流通業者や仕入れ業者、生産者・製造者と連絡が取れる伝手が必要になる。

ザラート王国の高位貴族魔導師である彼にその伝手があるのか?

あったという証拠はこれほどまでに揃っているが、貴族はそもそも自分で出向いてお買い物をしない人種だ。

大体、使用人に任せたり、商人を呼び寄せるわけだが、さて、彼の使用人や侯爵家に仕える商人がこんな危険な魔導商品を仕入れてくる能力があるのか?

まっとうな商人や常識的な使用人ならば手に入れる事が出来ないブツだ。どちらかといえば、彼の魔導師仲間を当たった方がいいかもしれない。

「嫌な予感しかしませんよ。本当に」

オストロ教授はかなり発言力のある大きな魔導互助組織に所属していたはずだ。

それの内部を探るのは、相当面倒臭い。

また違う羊皮紙の束をぱらぱらとめくる。

「…………これ、は」

あるモノを見た途端、クライヴの表情が固まった。

次いで、浮かんだのは冷やかな微笑。

「なるほど、彼らの手引きですか」

彼が見下ろすのは、大樹が枝を伸ばし、ぐるりと丸い何かを覆うような紋章。

「『世界大樹(ユグドラシル)』」

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