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未返却魔導書と科学のススメ  作者: 藤本 天
67/85

61P魔導で奏でるお伽噺Ⅱ

「で、ロランさん。気になる事って何ですか?」

もくもくと歩いているロランの背中に、チャーリーは声をかける。

その声に応えるようにロランはあたりを見回し、足を止めた。

「ああ、あの木はもしかしたらあそこに生えているわけじゃないかもしれん」

「生えてるわけじゃないって?」

「あの木の根元見たか?地面に対して垂直に幹が立っていた。普通、木の根元ってのはもっとボコボコ隆起しているはずだ」

デカイ木なら、なおさらだとロランは続ける。

「って、事は?」

「この空間の下にはさらにスペースがあるんじゃないかって事だ」

とんとんっと蹴った地面から土埃が立ち上がる。

「穴でも掘るつもりっスか?」

「おう、だから騎士科の生徒(ヤツラ)から離れた」

呆れたように首を振ったマックスを余所に、ロランはカチカチと懐中時計を弄る。

時計の針をきりきりと動かして短針、長針を目的の数字に合わせた。

軽い金属音と共に開いた懐中時計から出て来たのは、穴のあいた金属の塊。

その穴に指を嵌めこみ、精緻な模様を描きこまれた金属を装着したロランはその場で足を踏みしめ、腕を振り上げる。

「離れてろ」

ロランが腕を地面に振り下ろした瞬間。


「うわああああっ!?」

「伏せろ!!」

爆音と共に地面が大きく揺れ、ランク達はその場に蹲った。

立っている事も出来ない揺れはしばらくすると、収まった、が。

「…………」

爆音がしたであろう方角、司書達が向かって行った方角を見てランクは顔を引き攣らせる。

「……やっぱり、ついて行った方がよかったか?」

暴れ牛をうっかり逃がしてしまったかのような罪悪感がランクの胸によぎった。


一方その頃

「…………」

浮遊魔導でぷかぷかと金の木の側を浮かんでいるアヴィリス。

彼はじっと轟音の根源となっている場所を見ていた。

「………化け物」

もうもうと土煙があがる場所から半径数E(エートル)間が陥没している。

その中心には、


土煙と仁王立ちがよく似合う、司書が似合わない男・ロランがいた。

「………チャーリーさん。アレってこんな威力ありましたっけ?」

マックスが指差すのはロランが付けている金属の塊(メリケンサック)

「無いに決まってるだろ?」

言い切ったチャーリーと同じように、マックスは陥没した地面の中心、一番深く落ちくぼんだそこに雄々しく立っているロランを見つめる。

「……あの人何で司書やっているんでしょうね?」

「さぁ?」

同僚二人からそんな風に思われているとは露知らず、ロランは己が拳を振り下ろした先を見つめてにっと口角をあげた。

「ビンゴ」

ぽっかりと空いた黒い穴。

穴の下に空間がある事を教えるように、穴からは空気が漏れ出している。

「で、どうするんですか?ロランさん」

マックスの問いに答えず、ロランは足元の小石をひょいっと穴に投げ落とす。

「後ろは行き止まり、前は真っ暗闇。さて、どうする?」

カツンッとどこかに小石が当たった音が響いた。

「まさか」

チャーリーが顔を引き攣らせながら、魔導師を拘束するために使っていたロープを大きめの岩に括りつけ、もう片方を穴の中に落とす。

「とりあえず、この下の状況をざっと見てくる。一時間経って出て来なかったら、魔導師を呼べ」

「ロランさん!?」

「あとは頼んだ!!」

チャーリーの焦った声を背中に聞きつつ、ロランはロープを片手に闇の中に飛び込んだ。


上空から、アヴィリスはロランが穴の中に入っていくのを見送った。

が、しばしの黙考の後、とりあえず見なかった事にして上空を目指した。

(あの司書なら、大丈夫だろう)

生き残る(サバイバル)能力だけならば、この人員の中で最も秀でているはずだ。

いざとなれば自力でどうにかするだろう。

(……また、巻き込まれるような事にならなければいいが)

そう考えると、彼らの自由行動は規制すべきであったかもしれない。

「………」

穴を見やって少しばかり後悔する。いまさらだが。

ふよふよと浮かび続けてどれほど経ったか。

アヴィリスは雲のような薄霧の中に入り込んだ。

「っ!?」

(しまった!!)

瞬間、感じたのは転移系魔導に飲み込まれるのと同じ感覚。

ぐるりと身体が反転する感覚と共に、アヴィリスは何かに着地した。

「これは」

白い海のような雲が広がる地平線。

雲ひとつない、上質なサファイアのような青空。

純白の地面からは金の噴水のようなモノが、青空を掴もうとするように伸びあがっている。

「金の木の根?」

呆然と、天に手を伸ばす木の根を見つめていたアヴィリスはハッと息をつめた。

サファイアの天蓋の中に浮かぶ銀の粉のような光。

その光に吸い込まれる様に、彼はただ立ち尽くした。


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